万永千年宇宙浮遊一万年後地球目指

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一万年後地球備島

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 無限な、広大に広がる宇宙。出口もない空間を漂うように小さなロケットが静かに浮遊していた。その姿は星々の光に照らされ、鮮やかな光の軌跡を描きながら進んでいるように見える。ロケットの表面は銀色に輝き、宇宙の中で孤独な航海を続けるために生まれたかのように静かな存在感を放っていた。
 その小さなロケットは、地球から遠く離れた宇宙の彼方へと向かっている。どこを目指すわけでもない。ただ真っすぐに移動しているだけ。それも五百年経てば、軌道が反転し、地球へと戻ってくる予定。それが成功するのかどうなのか。コールドスリープが切れるまで、球体に変貌した万永にしか分からない。
 
 この小さなロケットである球体が今どこに浮遊しているのか。万永は搭載している追跡システム機能を用いて、研究所から確認していた。それには空間データを各方向から取集し、地理情報システム(GIS)を応用した、宇宙情報システム(UIS)を使っている。
 まず、この地理情報システム(GIS)とはGeographic Information Systemsの和訳であり、一般的にはGISと呼ばれている。それを万永はUniverse Information Systemsとして球体の居場所を把握していた。
 そもそも地理情報システム(GIS)とは何か。これを宇宙と置き換えて聞いてほしい。
 地理空間情報活用推進基本法では地理空間情報の地理的な把握又は分析を可能とするため、電磁的方式により記録された地理空間情報を電子計算機を使用して電子地図(電磁的方式により記録された地図をいう)上で一体的に処理する情報システムをいう」と定義されている。
 しかし、実際のGISについての定義には様々な見解がある。GISのSについて注目する。地理情報科学一GISスタンダードにおいては、地理情報をコンピュータで処理するシステム群であり、さらに絞って考えると、地理情報をコンビュータで処理するソフトウェア群であるとされている。学術世界では、GISの重要性が認識されるようになっていくと、NCGIAといったアメリカの有名大学のから構成された教育機関が誕生し、このNCGIAの責任者であったグッドチャイルドにより、Geographical Information Scienceのタイトルで論文を発表した。これにより、GISのSはSystems、Scienceといった定義が生まれたのである。
 次に空間データとは、地理空間情報ともいわれる。地理空間情報活用推進基本法によると、空間上の特定の地点又は区域の位置を示す情報(当該情報に係る時点に関する情報を含む)、およびその情報に関連付けられた情報からなる情報、と定義されている。」(注2)これに該当する例を挙げると、地形図、主題図、衛星画像、空中写真、ジオタグつき写真等の画像、行政の台帳、地域の統計データ、住所情報のついた医療機関一覧表等といった多くの情報量が存在する。
 1950~1960年代に入るとコンピュータが発達し、計量革命が起きた。計量革命とは、それまでの人文地理学の研究として文字情報での分析が主体であった手法に対し、ワシントン大学を中心に、コンピュータによる数理統計的な手法を用いて地理現象を分析し、法則性の発見や、高い理論構築等を目指そうとする従来の批判運動である。のちに世界的な規模となり、この運動はGISの理論構築に大きく貢献してくる。
 1960年代には行政機関や研究機関を中心に、GISの開発が始まった。世界で最初のGISは、1960年代に英国人トムリンソンとカナダ政府の協力により、農村地域の土地利用計画や、農地復興と開発適地の選定といった土地目録を管理するカナダGIS(CGIS)が開発された。
 1965年にはハーバード大学にコンビュータ、グラフィックス空間分析研究所が設立され、初代責任者のフィッシャーは、コンピュータマッビングプログラムのSYMAPというGISを開発した。1970年代まで、このコンピュータグラフィクスラボラトリはGIS研究に重要な役割を果たしていた。
 1970年代になると、画像処理の技術が発達され、1972年にはアメリカによって地球観測衛星が打ち上げられ、リートセンシングを利用したGISの技術が発展した。これによって大きく発達していく。これをアイディアに万永は独自でロケットである球体観測衛星をいくつもあげ、それが球体の位置情報をキャッチし、今見ているモニターへと反映されている。
 1981年にはGISソフトウェア会社のESRI社が開発したArclnfoは、ペクタデータとリレーショナル・データベースに基づく初めての商用GISとなり、1980年代半ばからは、今も多く普及し、現在もその進化を追求しているGPSが普及したのであった。
 1980年代に入るとGISの利用が拡大し、地理空間情報の取得に役立つようになった。1986年にはMaplnfoが初めてのデスクトップGISを開発し、1988年には米国国勢調査局によるTIGERが開発され、GISで扱えるもの無料のデータとして道路、河川、行政区域等の国土があり、これにより地図作成や、解析ソフトウェアが開発されていき、一般利用者に普及された。
 また1995年の阪神・淡路大震災を契機に、日本でもGISの重要性を認めるようになり、1998年に東京大学空間情報科学研究センター(CSIS)が設立された。1990年では東速パルスとジャイロセンサーを組み合わせた実用化せれており、2000年代に入ると空間データの発達によりナビゲーション機能や、地図データの向上等が見られ、GISがカーナビゲーションや携帯情報端末等に組み込まれていくようになった。商用カーナビゲーションシステムの確立である。
 2004年にOpenStreetMan Aemが世界に普及し、2005年に公開されたGoogleマップのベータ版は、2010年に入ると正式版に移行された。2009年にはオープンソースのQGISが開発されるといいたように、21世紀では地理空間情報を無料で作成するツールや、3Dバーチャル地球儀システムのGoogle Earthの無料配布等、GISのオープン化と普及が進展された。
 普及と発達により、GISは飛躍的な進化を遂げ、今現在も活躍している。GISの多岐にわたる活用方法の中から、主な活用法とされる地理空間情報の可視化、地理空間情報の作成、地理空間情報の分析がある。
 地理空間情報の可視化とは、専門家でなくても地図を比較的簡単に作成できるGISの代表的な機能である。GISで地図上に可視化を加えたことで、地域別の危険度について理解しやすくなっている。さらに分布の歪みが大きいデータ場合は、3Dに可視化するとことで、地理的分布が理解しやすくなる。
 また地理空間情報の可視化は地図、属性情報、グラフが連動しているGISにおいて、それらの情報を相互に参照できることからデータの探索にも役立つ。
 散布図を用いて、地価について知りたいポイントを選択すると、地図上で選択した地価ポイントの場所を確認でき、属性情報から住所等を確認することができる。つまり地図を可視化することで多くの情報を視覚的にわかりやすく伝達でき、現状の理解や問題の発見、分析、プレゼンテーションに役立つことがわかる。
 もちろん万永にプレゼンテーションは不要である。あくまでも球体の居場所を知り、現状の理解や問題の発見、分析が主な目的だ。
 地理空間情報の作成ではGISを用いることで、地理空間情報を加工し、新しい地理空間情報を作成することが可能となる。GISでは位置情報をキーに複数の地理空間情報を重ね合わせたり、統合することや、空間的位置関係に基づく検索や結合が可能である。
 さらには距離や面積、長さ、重心といったジオメトリの計算や、領域ポリゴンの作成、交差部分の出力、領域の切り抜き、データの結合、データの集約等といった地理データの処理を行うことが可能である。住所情報しか持たない表形式のデータであっても、その住所に対応する座標値を付与することで、その座標値を基にポイントデータを作成できる。
 面白いことに万永はこのモニターを通して、宇宙旅行をしていると言っても過言ではないのだ。
 地理空間情報の分析ではGISを用いることで、様々な地理空間情報の分析を行うことが可能とされ、高機能であった場合はネットワーク分析、領域分析、ラスタ解析、空間統計等、地理空間情報を分析するためツールが実装されている。
 ネットワーク分析では距離や時間を計算することが可能であり、身近な例を挙げるとGoogle mapが分かりやすい。USIではその宇宙mapのようなものだ。
 GISと空間データの発達により、地理的世界の探究は格段に容易になり、大きな影響を与えた。GISがカーナビゲーションや携帯情報端末等に組み込まれたことで、誰でも簡単に目的地までのルートを検索や、待ち合わせの場所や現在地の確認等、世界中で日常的に行わられるようになった。
 過去に万永も宇宙旅行をした経験があるが、その日にもならないような情報量を球体を通じて得ることに成功している。
 誰でもどこでもGoogle Earth等を使い、探索することが可能となった。つまり、地域の地理的特徴について、現地に行かずとも知ることが可能となったのだ。また自身にて様々な視点を定めることを可能とし、街並みや起伏等の地形の俯瞰や、より詳細な建物や植生の状態まで確認できる。また機能にあるストリートビューにすれば、疑似的に道路上を歩いて探索することが可能となった。私自身も方向音痴で悩まされていたが、Google mapを使うことで、現在地から目的地の場所までを自身の歩みと連動して案内を行ってくれるため、初めて訪れた地域でも迷うことはなくなった。
 この手法を使って、だれでも宇宙で迷わない…とまでは肥大化過ぎていえないが、誰でもこの球体を通じて宇宙空間を可視化できるシステムを有料公開し、世界的な利益を上げることに成功している。それらはすべて万永自身がコールドスリープするための資金に充てられた。
 つまりは宇宙情報システム(UIS)は球体の位置確認、問題、分析、それに資金を得るためには欠かせないシステムであった。
 
「現状に問題はないか?」
「ええ。問題ありません。速度も一定を保ち、損傷度はゼロです。浮遊物の飛来予測もありません」
「そうか」
 
 万永は頷くと、自らのクローン制作を確認する。
 
 島の研究所に新たに建てられたクローン施設。そこの所長である鯛野目は万永を案内する。この施設には無数のカプセルがあり、万永の遺伝子を媒体に各カプセルに一体の万永を複製していた。
 
「順調です。五十年周期で万永様が二十歳の頃の身体が排出され、保存されている最新のデータを移行する予定です」
「ふむ。仮に五十年周期で私が生きていた場合は二人の私が存在するのか?」
「そうなりますが、いかがいたしましょうか」
「いや、構わない。それでいい」
 
 鯛野目は頷くと、タブレットに入力していく。
 万永は無数の自分がいることに違和感を抱きつつも、計画の成功を祈っていた。それでもこれが成功するとは、万永自身も思っていなかった。間違いなく不可能だと。
 これまで莫大な資金を投資し、開発した宇宙情報システム(UIS)で資金を得るのも難しいだろう。この先何年後かには、宇宙が当たり前になり、このシステムよりの上位互換が発明されても不思議ではない。
 何百年後には何で資金を確保するのか。その先は未来の自分に任せよう。私が生きている間は宇宙情報システム(UIS)で確保できる。その後は新たな自分にお願いするしかないのだ。
 
 万永はクローンと同時進行に、エネルギーの確保とコールドスリープを進めていた。とはいえ、クローンが成功している間はコールドスリープは不要なのだ。これはもしものための保険であり、球体で培った技術を使えば難しくはない。
 となればやはり懸念はエネルギーである。一万年後までクローンを繋ぐための、膨大なエネルギーとその装置が不可欠である。それを開発するにも、したところで莫大な資金がついて回る。
 万永はそのためにも宇宙情報システム(UIS)以外でも資金を得るための手段を、生きている間に考える必要があった。でなければ、今の代で頓挫してしまうからだ。
 そこで考えたのはこのコールドスリープを使って、地下シェルターに備え付けて販売するのはどうだろうか考えた。アルミニウム合金ではコストが高いため、カーボンに変えて。カーボンは軽量で強靭な素材であり、耐久性が高く、環境にも優しい素材である。そのため、地下シェルターの構造材料として選択することは合理的であると考えた。
 またコールドスリープ技術を組み合わせることで、地下シェルターをより持続可能で快適な生活空間にすることが可能だ。コールドスリープ技術は、人々を長期間冷凍状態に保つことができるため、災害や緊急時に非常に有用である。また、エネルギー消費も低く抑えられるため、地下シェルターの運用コストを削減することができるはずだと。
 もちろんカーボンを使用した地下シェルターの製造コストや設置手続きなど、いくつかの課題も存在する。材料の調達コストや加工技術の習熟、地下空間の安全性や耐久性の確保など、様々な側面を検討する必要があり、この一万年後計画の資金が当てられなくなってしまっては話にならない。
 
「シェルターの普及率と、コールドスリープの需要を調べるんだ」
 
 万永は側近たちに指示をする。需要の調査や市場動向の分析を行い、顧客ニーズに適合した製品やサービスを提供することが重要である。需要と供給が均衡、もしくは需要が高まってなければ話にならない。
 地下シェルターは災害対策や防災意識の高まりによって需要が高まっているのも現状だが、実際に購入しているパーセンテージを知る必要がある、その需要に適した製品を提供するためには、慎重な計画と調査が必要であり、大胆な万永も慎重であった。
 その間もエネルギー装置は開発されていく。そこで考えられたのは、地熱エネルギー装置、太陽光発電、地球の自然なエネルギー循環の利用であった。
 つまりはすべて自然で賄うことである。
 セリーヌ大学電気電子工学名誉教授のアバンダンは語る。
 
「地球の地熱は長期間安定しており、一万年後も安定したエネルギー源として利用できる。また地熱発電所や地熱ヒートポンプなどの技術を使用して、地下の熱を利用してエネルギーを生成することが可能だ」
「 太陽光もそう。地球上で最も持続可能なエネルギー源の一つだ。耐久性の高い太陽パネルやバッテリー技術を使用して、太陽光からのエネルギーを効率的に収集し、貯蔵することができる。一万年は難しいが、それでも可能な限りは確保できる」
「風力、水力、潮力などの再生可能エネルギー源であれば、一万年後も地球上で利用可能であり、持続可能なエネルギー供給を可能とするだろう」
 
 万永は頷いて、アバンダンにワインを注ぐ。アバンダンはワインを軽く含み、静かに頷く。
 
「上等だね」
「ワインの品ぞろえは日本一だからね、私の家は」
「それで他に聞きたいことはあるかな?」
「それらがエネルギーとしては最適ということで?」
「一万年後も永続的に使用できるエネルギーとしたら、これらが現実的だね」
「仮に地球が滅んだとしたら?」
「一万年後の地球は崩壊したってことが分かるね」
 
 万永はその言葉に思わず笑うと、アバンダンも笑い、二人はグラスを軽くぶつけて乾杯をした。
 
 この日、万永は研究所の中心に位置する特殊なカプセル装置の前に立っていた。この装置は一体何なのか。外観は丸みを帯びたメタリックな素材で覆われ、内部には複雑な配線と光るインジケータが配置されている。カプセルは直径数メートルほどの円筒形で、上部には大きな透明なドームが取り付けられていた。このドームは、カプセル内の被験者が外部とのコミュニケーションを可能にし、同時に外部の観察者が実験の進行状況を確認することができるようになっていた。
 カプセルの内部は、快適さと安全性を重視して設計されていた。座席は柔らかなクッションが備わり、被験者が長時間の実験に耐えられるように配慮されていた。さらに、高度な制御システムが内部に組み込まれており、被験者の安全を確保しながら実験が行われるようになっていた。
 
「これを通じて?」
「はい。電子的に海馬を刺激します」
 
 カプセルの内部には、見えないが存在感のあるイオン分子が漂っていた。これらのイオンは、高度な電子的制御を可能にするために設計された微細な部品であり、記憶の転送プロセスを支える重要な役割を果たしていた。
 そのイオン分子は、静電気や磁気などの物理的なエネルギーを利用して、被験者の海馬と装置の間で情報を伝達する役割があり、カプセルの中で微細なダンスを繰り広げ、情報を効率的に伝達するために完璧に同期していた。
 見えないが確かに存在するこれらのイオン分子は、研究者たちの設計と技術の粋を結集した最先端の成果であり、記憶の転送における革新的な進歩をもたらす鍵となっていた。
 カプセルの内部に広がるこの微細な世界は、未来の科学の力と人間の創造性が交差する場所であり、見えないが確かに存在するイオン分子がその中心に位置していた。
 
「これに入ればいいのかな?」
「はい。時間は半日程度かかります。その間は安眠ガスが注入され、眠りながら過去の記憶を呼び起こしていきます。その記憶がクローンに移行されます」
 
 事前に採取している万永の記憶が入ったデーターベースをクローンに埋め込むのではなく、電子イオンで採取し、それをクローンの入ったカプセルに送信する手段が取られた。
 それはクローンの脳の損傷を防ぎ、眠っているクローンの脳に安全に記憶を刷り込むことが可能であった。
 
「万永様。準備は宜しいでしょうか?」
「いつでも大丈夫だ」
 
 静かにカプセルの入り口は開き、万永はカプセルに入り、頭上に位置する青い光が照らしてくる。その瞬間、万永の心臓はゆっくりと鼓動を鎮め、知らぬ間に眠っていた。
 カプセルの中で、万永の意識は静かな海のような海馬の世界に浸っていた。そこには万永の記憶が波となって流れていた。遠い幼少期の笑顔、初恋の甘い思い出、そして最も深い傷跡を刻む苦悩の瞬間、経営者としての成功、島を買ったとき、宇宙に行ったこと、そして一万年後の未来に対する熱い思い、すべてが万永の脳内を通じて目の前に広がっていた。
 万永は記憶の波に身を委ね、その流れに身を任せながら、電子イオンは万永の海馬を刺激し、すべてのクローンのいるカプセルへと送られていた。
 
 記憶の送信が終わると、今度はクローンのひとりを実際にコールドスリープにし、機能が正常動作するかの実験であった。
 研究者たちは慎重に制御された手順に従い、カプセルの周囲に冷却装置を設置した。その装置は、カプセル内の温度を徐々に下げ、クローンの身体を安定したコールドスリープ状態に導いていくのだった。
 
「頼むよ。私なんだから…不思議な感じするがね」
 
 その万永の一言に、研究者たちにも緊張が走る。
 
「作動させます」
 
 カプセルの中に冷凍液体で満たされた。その液体は、クローンの身体を保護する。
 
「細胞を氷の中で閉じ込め、限りなく眠らせる役割を果たしています。完全睡眠ではなく、冬眠に近い状態です」
 
 カプセルの内部で、クローンの姿が静かに浮かび上がった。その身体は透明な冷凍液に包まれ、青い光が液体の中を煌めいていた。研究者たちは慎重に操作し、新たなカプセルの周囲に冷却装置を配置した。
 先ほどとは違う冷却装置が稼働し始めると、カプセル内の温度は徐々に下がっていく。光の反射が次第に静かな輝きへと変わり、クローンの身体には冷たい青色の光が浮かび上がっていた。
 その光景はまるで別次元の景色のようにも見えた。クローンの姿が次第に不可視の壁に包まれ、その体が次元を超えて氷の中に閉じ込められていく。
 
「まるで宇宙のようだな」
 
 万永の言葉に研究者は頷きながら様子を確認する。
 カプセルの内部で時間は凍りつくと、氷の中に閉じ込められたクローンの細胞が緩やかに速度を落としていった。
 
 島の研究所の奥深くに位置する特別な実験室で、まるで未来の技術が融合した光景が広がっていた。巨大なカプセルが部屋の中央に据えられ、その中には複雑な配線や光るパネルが取り付けられていた。
 クローンの身体は、科学の最先端によって再現された完璧な複製だった。その姿は万永そのものであり、紫の水で真空状態に漬けられており、口と体には無数の管が付けられており、カプセルの中で静かに浮かんでいた。クローンの魂は、電子イオンによって万永の記憶を持ちながらも、新たな未来に備えて待機している。
 その周囲にも複雑な装置が配置され、クローンの記憶を保管し続けるための準備が整えられていた。巨大なデータバンクが壁に埋め込まれ、高度な暗号化技術が記憶の情報を守り抜く役割を果たしていた。
 
「今後はこの巨大なデータバンクから電子イオンを飛ばし、すべてのクローンに気おp区のアップデートをしていきます」
「このデータバンクに定期的に記憶を送信すればいいのかな?」
「はい。またカプセルに入っていただきますが、時間は数分程度になります」
 
 万永はその中心にある未来のデータストレージの要となる超伝導コンピュータを眺めた。
 そして、体を氷の中に閉じ込め、永遠のコールドスリープへと導くための装置が置かれている。冷却装置が低温の冷凍液をカプセルの周囲に流し込み、細胞を静かに凍りつかせていく。
 
「これはもしもの場合に備えてだったな」
「はい。万永様自身も使えることは可能です」
 
 未来の向けての作業は概ね整い始めていた。あとはこれらを維持するためのエネルギーである。万永はエネルギー部門の方に体を向け、足早に向かった。
 
『エネルギー研究室』
 
 ここは、地球の自然なエネルギー循環と最新の技術が融合し、永続的なエネルギー供給を実現する革新的な研究室である。
 その核となるのが、地熱エネルギー装置である。地球の深部から湧き出る熱を利用し、地中の蒸気や熱を採取する装置が設置され、そこで得られるエネルギーは太陽光発電、地球の自然なエネルギー循環と共に統合される。
 太陽光発電は、研究施設上空に広がる巨大な太陽光パネルによって行われる。これらのパネルは、太陽の光を収集し、そのエネルギーを電力に変換する。そして、地熱エネルギー装置からのエネルギーと共に、研究室の主要部全体に送られている。
 さらに、地球の自然なエネルギー循環が重要な役割を果たしている。風力や水力、生物の生態系からのエネルギーが取り込まれ、永続的エネルギー装置に統合される。風力タービンが島の周囲に設置され、水力発電所が海沿いに建設され、島の環境バランスを保ちながらエネルギーを供給している。
 万永はそのすべてを統合する永続的エネルギー装置を見ながら言う。
 
「統合しているのは分かった。しかしこの装置自体が持つのか?」
「それもメンテナンスを続けていくしかありません」
「ちなみに割合は?」
「はい。地熱エネルギーが六割、太陽光発電が二割、自然エネルギーも二割になってます」
 
 万永は強大なモニターを指しながら言う。
 
「このモニターでエネルギーの動きがわかるんだな?」
 
 モニターには各エネルギーが目の前にある永続的エネルギー装置に統合されていく流れがリアルタイムで表示されている。
 
「これを見る限り、島や海周辺にも自然エネルギーがあるが、これは劣化が早いんじゃないか?」
「風力と水力ですね。はい。こちらは特にそうですね」
「そうか…永続的エネルギー装置ができたとしても、維持の面で困難が生じるのか…」
 
 万永は自分が生き延びたとして、これらを維持できる知識や技術は持ち合わせていない。となれば、研究者たちのクローンも必要になる。しかし、それには計画外の莫大なコストが発生してしまう。
 
「やはり…球体に…サイボーグの私に望みを託すしかないのか…」
 
 それでも可能な限りはサイボーグではなく、この肉体で見たいと考える万永はリスクを考えずに計画を進めた、例え一万年後が難しくても、突き進む。研究者たちのクローン案は脳内で抑え込み、実行することはなかった。
 そして中央室のモニターでロケットの様子を今日も見る。

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