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あいどるには、秘密だってあるんです
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1
ーー私たちは地下アイドルユニット、アイドル6で活動していた。それも今では4人になった。リーダーのシブキをセンターに、サイドをマエノ、ミポリン、カエデ、私が立つ。
5人の少人数でも、女社会は一つの村となり、派閥も出来上がる。いや、派閥と言いていいものなのか。シブキ派と、その他である。シブキ派にはマエノ、ミポリンがいる。その他、つまりは無所属のカエデと私がいた。カエデと私は、反抗していたわけではない。
アイドル活動の傍ら、生活費を稼ぐため、バイトに明け暮れていた。レッスン後のミーティングという名のカフェ会、食事会に参加できなかったのだ。そんなこともあり、そこでの打ち合わせは共有されることもなく、溝は深まる一方だった。
私たちの拠点は2階建ての小さなプレハブ小屋みたいな事務所である。2階には形だけのオフィスがあり、1階がレッスン場となっている。レッスン場といっても、そんな大それたものではない。ただ鏡張りの室内に、更衣室と埃だらけの倉庫室がある程度。数年前に壊れた空調設備は放置してある貧困事務所であった。
この事務所で唯一立派といえる代物は、最近買い替えたレッスン場の少し厚めの防音ドアである。それも、シブキの自費であった。ある日、私たちはいつものように蒸し暑いレッスン場で練習を終えると、シブキは言った。
「今日は一週間後に迫ったライブの打ち合わせね。カエデと、ハルカも参加して」
いきなりの強制ミーティング開催発言に、私はすぐにスケジュールを確認した。万が一、バイトが入っていたら参加できない。そう思いながら確認すると、偶然にも予定は空いていた。
基本的に外食はしなく、スーパーの値引き品食材たちで自炊していた私は、このミーティングに掛かる費用は痛手であった。それでもシブキの圧力に屈するしか道はなかった。しかし、カエデはそれを断る。
「すみません、シブキさん。今日はバイトが」
シブキはそれを許さなかった。
「バイトなんかより、チームの方が大事でしょ。断ってから来なさい。場所は」
一方的にシブキは場所と時間を伝え、シブキ派を連れて行った。私は更衣室に一度行き、そそくさと後を追った。結局指定した時間になっても、カエデが来ることはなかった。
食事会中にシブキは怒りを露わにした。それに油を注ぐように、マエノは言う。
「前から思ったんですけど、カエデってなめてますよね。いくらバイトがあるからって、ハルカは参加しているのに」
気まずい思いをしながら、私は無料の水を飲んでいた気がする。シブキは言う。
「やっぱり、そう思う?ハルカはバイト断ったんでしょ?」
私は空気を読み、嘘を付いた。
「そ、そうだよ」
マエノはアイスティーを飲み、サラダを摘まむ。
「グループのことを思えば、当たり前。で、どうします?このままだと、チームにもライブにも支障出ますよ。ほら、モチベーションとか」
シブキが何か言おうとしたが、その前にミポリンは言う。
「無視しちゃお~」
このときのミポリンは、冷たく笑っていた気がした。私はこの空気に耐えきれず、終始俯いて、時折相づちをしていただけであった。
この日を境に、カエデのいじめが始まった。無視は当たり前、練習着やシューズを隠し、極めつけはライブの演出を伝えないこと。この執拗な嫌がらせは、シブキとマエノが率先していた。私はただ空気になり、反応を示すことはなかった。
それからいじめは続いていき、ついにカエデはシブキに言った。
「いい加減にしてください」
震える声を、マエノは馬鹿にして笑う。
「え?聞こえないけど」
更に小さな声でカエデが言うと、シブキは詰め寄った。
「えっ?」
その圧力とこれまで続いたいじめに、思わずカエデは泣き始めた。私はレッスン室の隅でうろたえていると、ミポリンが横に立った。
「醜いよね~」
そう言うと、私の手を掴み、出入り口の方へ歩いた。
「お先で~す」
シブキとマエノはもうカエデしか見ていない。そしてカエデも私たちには気づいていない。三人だけの地獄のような世界。
事務所を出た後も、ミポリンは私の手を掴んだまま、どこかへ歩いていた。私はこのあとバイトの時間もあり、手を離してほしかった。
「あの、ミポリンさん。私、このあとバイトが」
ミポリンは足を止め、私の方を振り返る。
「そっか」
手を離し、ニコッと笑うその顔に、私は思わず目を背けた。理由は分からないが、何とも言えない不気味さがあったから。
「お、お疲れ様です」
私は俯いたまま、その場から逃げるように早歩きでバイト先に向かった。
翌日、マネージャーが私たちをレッスン場に呼び出した。そこには、カエデの姿がない。マネージャーは言う。
「昨日、カエデから連絡があり、グループから卒業したいと連絡があった」
ミポリンはわざとらしくも動揺し、マエノは身体まで震えさせていた。そんな中、シブキだけは冷静であった。
「分かりました。他に何か言ってましたか?」
マネージャーは首を振る。
「練習についていけないと言っていた。他に理由を聞こうとしたが、電話が繋がらなくてな。メールだけはしてある」
「そうですか」
このときのシブキの瞳はとても不気味であった。瞳の奥が黒く濁っている気がした。
ライブまで残り僅か。時間は待ってくれない。カエデが卒業したことはホームページでファンに通達され、こうして私たちアイドル6は4人での活動が余儀なくされた。私はカエデがいなくなってから、今後の活動がとても不安で仕方がなかった。ーー
2
カエデがいなくなり、ライブでのフォーメーション、構成などを変えなくてはならない。私たちのような地下アイドルは、その内容を指揮するスタッフはいなく、自分たちで考えなければならない。
当たり前のようにレッスン終了後、いつものミーティングが開かれた。私はいじめの対象にならないように、この日はバイトを休ませてもらった。
チェーン店での焼き肉屋で、ミーティングは行われる。私は自ら焼く係に徹した。私が皆の皿に肉を運んでも、それが当たり前だと受け取ったシブキとマエノはお礼を言わない。ミポリンだけは、
「ありがと~」
と言ってくれた。ミポリンはくすっと笑い、アイスティーを飲む。
「マエノさ~ん。大丈夫ですか?」
たしかに、レッスン場で会ったときからマエノの様子がおかしかった。ひどく怯えているように見える。マエノは下手な笑みを浮かべた。
「そんなことないよ。さ、食べましょう」
そう言いながら、手を付ける素振りが見られない。横に座るシブキは構わず肉を軽快に運ぶ。
「カエデの穴を、どう埋めるか」
またしてもミポリンは笑った。
「けど良かったですね~。カエデさんに演出を伝えていなかった分、それほど重要な役割を振ってなくて」
私はミポリンの挙動や発言に恐怖を感じた。1人だけこのグループを俯瞰しているような気がして。
シブキは頷いた。私はシブキの皿にある肉が残り1枚だと気付き、急いで新しい肉を置いた。
「たしかに、そうね。とりあえず」
マエノの方を一瞥し、
「内にミポリンと私が立って、外にマエノとハルカに立ってもらうわ」
と言った。ミポリンはマエノが肉を食べないことに対して言った。
「マエノさ~ん。せっかく、ハルカさんが焼いてくれたのに、食べないんですか~」
マエノが反応する前に、シブキが言う。
「そうよ。食べなさい」
マエノは少し震えながら箸を取り、肉を食べた。いや、押し込んでいた。
「はは。何か練習で疲れちゃって」
シブキは溜め息を吐く。
「そんなんで、ライブを乗り越えられるのかしら」
「す、すみません」
マエノが小さくなるのが分かった。いつもは堂々としているシブキに、それに媚びを売るマエノのイメージが強いが、今日はそう見えなかった。例えるなら、マエノが私とカエデのように見えた。
カエデが卒業してから、私が標的になると思いきや、ライブまでそんな余裕はなかったらしい。私自身も懸命に標的にされないように、ライブが終わるまではミーティングに参加できるよう、バイトの時間を深夜帯にずらしてもらっていた。
もちろん、身体に疲れは残る。それでもカエデのように、いじめられるよりはマシであった。そんな中で迎えたライブ。問題が起きた。
地下アイドルと言っても、ファンはいてくれる。ステージと観客席の距離が近く、ファンはオープニングから熱を発していた。アイドル6の名物ともいえるであろう無限ジャンプが始まると、私たちとファンは曲の始まりから終わりまで飛び跳ね続ける。
曲時間は3分強であるが、ラストの23秒のサビはシブキの「もう1回」コールが続くまで、永遠に繰り返される。シブキはファンのテンションを確認し、まだ続けるかを決めている。
そして問題は、この無限ジャンプ中に起きた。シブキの8回目となるコールで、マエノがステージで失神した。マイク越しで鈍い音が鳴ると、すぐに私たちとファンの視線はマエノへと注がれた。状況を飲み込むと、悲鳴とざわつきが起こる。袖で見ていたマネージャーが現れると、私たちに言う。
「急いでマエノを楽屋に運んでくれ。ミポリンは救急車に連絡してくれ」
私とシブキはマエノを抱え、楽屋に向かった。ミポリンはその後ろに付いてくる。マネージャーだけはステージに残り、何かファンに説明をしていたが、それを聞いているほど余裕はなかった。
私とシブキはマエノをソファーに寝かせた。脱水症状かもしれないと思った私は、テーブルに置かれた水を手に取った。しかし、失神しているマエノに飲ませる手立てを知らなく、ただ持ったままおろおろしているだけであった。
シブキは動揺することはなく、逆に苛立っていた。
「ライブ本番に、どうしてくれんのよ!」
ミポリンはその光景を見て、笑っている。私は小さな声で聞いた。
「ミポリンさん。救急車はいつ到着しますか?」
ミポリンは私に近づき、持っていた水を取った。
「ん~?」
そしてキャップを外し、マエノの顔にかけた。失神していたマエノが目を覚ます。
「ぶはっ」
腰を起こし、周囲を見回す。状況を飲み込めないマエノに、ミポリンは言う。
「ライブ終わっちゃいましたよ~。マエノさんが失神しちゃうんですもん」
「えっ?えっ?」
動揺したマエノであったが、シブキの顔を見た瞬間、血の気が引いた。
「す、すみません」
マエノが土下座すると、マネージャーが楽屋に入ってきた。
「どうだ、マエノの様子は?」
「大丈夫で~す」
ミポリンはそう言って、マエノの方を見た。シブキが答える。
「すぐに目を覚ましました。緊張してたんでしょうね。救急車は必要じゃないと思って、連絡してません」
マネージャーは床で小さくなるマエノを見る。
「本当に大丈夫なのか?」
マエノは立ち上がり、マネージャーに頭を下げる。私はマエノがふらついているように見えた。
「はい。心配かけて、すみませんでした」
マネージャーは軽く頷いた。
「そうか。まぁ、ならいい。各自荷物まとめた順から帰るように」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様で~す」
シブキとミポリンは去っていくマネージャーに挨拶をする。ドアが閉まると、ミポリンはマエノの顔をじっと見つめた。
「今から練習しないとね」
私はその言葉の意味を理解できなかった。ミポリンはシブキを見る。
「ね?シブキさ~ん」
シブキは頷いた。
「そうだね。今からレッスン場に行くよ」
マエノの怯える表情は、何とも労しく感じた。それと同時に必然と感じていた標的が、マエノになろうとしていることに心のどこかで喜ぶ私もいた。
レッスン場に着くと、無限ジャンプの練習が始まった。スマートフォンで曲を流し、それに合わせて踊る。鏡越しから、反対に位置するマエノの表情が見る見るうちに青白くなっていくのが分かった。
曲通しに8コールを2回繰り返したところで、ミポリンが提案した。
「私とハルカさんで飲み物買ってきますね~」
「ああ、お願いね」
シブキが頷くと、ミポリンは私の手を掴み、レッスン場の近くにある自動販売機へと向かった。私たちがレッスン場から出た後も、曲は続いていた。
ミポリンは自動販売機に千円札を入れると、適当に飲み物を選んだ。袋を持っていなかった私は、取り出し口から出てきた4本のペットボトルを両手に抱えた。
ミポリンはその場で座り込み、私から1本取ると、その場で飲み始めた。すぐに戻ると思っていた私は、どうすればいいのか分からず立ちすくんだ。ミポリンは私の方を見て笑う。
「一緒に飲もうよ~」
「あ、えっと、はい」
私は少し間を空けて座ったが、ペットボトルに手を出さなかった。ミポリンは何も言わず、ただ無言の時間が続いた。5分ほどして、居た堪れなくなった私はミポリンに言った。
「あの、戻らなくて…」
ミポリンはニコッと笑いかけ、また一口飲んだ。特に何も言わず、私の中で気まずさだけが残った。そのまま30分ほどして、今度はミポリンから話しかけた。
「あのね~。ハルカさん」
「は、はい」
くすっと笑い、ミポリンは少し距離を詰めた。なぜだか、緊張が走る。
「私ね~。貴方の秘密知ってるよ」
私の中で血の気が引いて行くのが分かった。私は動揺することなく言った。
「秘密って何ですか?」
「ふふっ」
ミポリンは立ち上がり、
「戻ろ~」
と言って、歩き始めた。私はミポリンが言う秘密とは何なのか、それしか頭になかった。
レッスン場に戻るまで、私はミポリンに秘密のことを聞こうか悩んでいた。それでも恐怖と不安が勝り、聞くことが出来なかった。レッスン場のドアに近づくにつれて、鼓動は高まりを増す。私は秘密について聞こうとしたが、ドアの前でミポリンが振り返った。
「あの日、見ちゃったんだ~」
見たとは何か。ハルカは持っていたペットボトルを強く抱えた。
「何をですか…」
ミポリンは笑いながら、ハルカの瞳を覗き込むかのように近づいた。
「あの日、カエデさんを閉じ込めたでしょ~?」
私は身体を硬直させ、あの日の出来事が脳裏に過った。
3
ーーライブ1週間前のミーティングをやるといったシブキは、私とカエデに参加するよう強要した。私はこのとき思った。このままミーティングに参加しなければ、ミホコの二の舞になると。そう、ミホコとはミポリンの双子の姉であり、アイドル6の元メンバーであった。
元々アイドル6は、シブキ、マエノ、ミポリン、ミホコ、カエデ、私で結成された。妹のミポリンはシブキ派にも関わらず、ミホコはそこに属していなかった。向上心も高く、このまま地下で満足するわけにはいかなかった。
私もそうだが、シブキたちもメジャーデビューを夢見ていた。それでも、どこか今のままで満足する自分たちもいた。特にシブキは父親が会社を経営していることもあり、お金に困ることはなかった。このまま自分が中心となっているならば、それはそれでいいかと納得しているようにも思えた。
考え方の違いで2人は衝突し合い、ミホコがミーティングに参加しないことにシブキは苛立ち始めていた。このときから、私とカエデもバイトがあり、積極的に参加していなかったとはいえ、標的はミホコであった。執拗ないじめ行為に、ミホコはグループからある日突然、卒業していった。
私はこの一件からシブキに恐怖を抱いていた。かといって、バイトを辞めてまでマエノのように腰巾着にはなれない。それだったら、新たな標的をカエデに仕向ければいいのだ。私の知られたくない秘密を知っているからカエデに。
カエデは「誰にも言わないよ」と言っていたが、私はその不安を拭うことはできなかった。偶然にも見られてしまった、私のバイトが風俗であることを。カエデがいなくなれば、少しでもこの不安から解放されるかもしれない。
私は更衣室にあるカエデのスマートフォンを隠した後、レッスン場のドアを施錠してからシブキたちの後を追った。レッスン場は基本外から関係者が出入りできるように、外側にしか鍵がなく、内側に鍵が掛けられない仕組みになっていた。
たとえカエデが無理してミーティングに参加しようとも、もう出るすべはなく、誰にも連絡を取ることが出来ない。そして私の思惑通り、カエデはミーティングに参加することはなく、新たな標的に選ばれた。ーー
4
あの日、私はたしかにシブキ、マエノ、ミポリンの後を追った。ミーティングに参加したメンバーなら、私が最後にレッスン場を出たはずなのに、なぜミポリンがそれを知っているのか。硬直している私に、ミポリンはくすっと笑う。
「あの日ね~。ちょっと事務所に戻る用事があったんだ。前にも同じことがあって、嫌な予感がしたんだよね~」
私が硬直したまま何も発しないでいると、ミポリンはそのまま続けた。
「そしたら、カエデさんが閉じ込められちゃってるの。話聞いたら、中から開けられなくてって言うわけ。おまけに、スマートフォンもない。あれ~最後に出たのって、ハルカさんだよね~?」
おそらくカエデは私が閉じ込めたって、気付いているだろう。私が最後に出ていったことに、気付いていないわけがない。カエデは私を恨み、風俗の話をバラしているのではないかと、緊張が走った。毛穴から冷たい嫌な汗が滲み出る。
「カエデさんが死んじゃったのも、ハルカさんのせいかな~?」
今にも口から心臓が出てきそうなくらいの、気持ち悪い何かが押し寄せる中、ミポリンの言葉に理解が追い付かないでいた。
「…え?死んじゃった…って...え?…」
ミポリンは私の反応を無視して続けた。
「それに、もう1つ秘密も聞いちゃってるんだよね~。だから、お願いがあるの」
その秘密はカエデから聞いたものだろうか。私の中で感情が入り乱れていた。
「全部燃やしちゃお」
そのときのミポリンは満面の笑みを浮かべた。
シブキとマエノが残るレッスン場の鍵を閉めて、事務所ごとガソリンで燃やそうと提案してきた。狂気に満ちたその笑顔に、私は堪らず逃げ出そうとした。するとミポリンは私の手を掴み、レッスン場のドアを開けて、強く投げ入れた。その勢いのまま、私は頭を床に強打した。ミポリンもレッスン場に入り、シブキに言った。
「ハルカさんね~。全部バラすってさ。ミホコのことも、カエデのことも」
そう言った途端、シブキの表情は憎悪に溢れていた。ぐったりしているマエノも、その言葉に反応した。
「そ、それだけはあああぁぁっぁあー!!!」
倒れ込む私にマエノが襲い掛かってくる。私は痛みを忘れ、恐怖からすぐに立ち上がった。
「ハルカあああぁぁぁぁああああぁぁー!!!」
叫びながら襲い掛かってくるシブキに、私は一番近くにある倉庫室へと逃げ込んだ。すぐに鍵を閉めたが、ドアを何かで強打する音と叫び声が聞こえる。
私は襲い掛かる恐怖に、必死で隠れ場所を探した。更衣室に逃げ込めば、スマートフォンで助けを求められたかもしれない。それでも近くの倉庫室に逃げるしか、選択肢はなかった。
あの勢いでは、このドアを壊してくるかもしれない。私は隠れ場所を探した。棚や収納ロッカーでは、すぐに見つかってしまう。いや、たとえどこに隠れようとも、シブキとマエノは隅々まで探すに違いない。この倉庫の出入り口は、今も叩いているあのドアしかないのだから。それでも私は恐怖から隠れ場所を探していた。私の瞳に、厚めのマットが映る。急いでジッパーを下ろし、中に入ろうとすると。
「ゴトッ」
何かが落ちてくる音と、生ごみのようなにおいがした。思わず顔を歪め、落ちてきた物を確認した。それは大量の防腐剤と消臭剤であった。ミポリンの言葉に、嫌な予感が過る。まだ奥に何かある。私は恐る恐る、それを確認した。そこには、カエデと黒い塊があった。
5
「続いてのニュースです。昨夜、アイドル6の事務所が全焼する火事があり、所属するメンバー4人の遺体と、1人意識不明の重体で発見されました。警察は放火の疑いがあるとして…」
このニュースは全国区で放送され、それを自宅で見るミホコは優雅に紅茶を飲み、微笑んでいた。これで私は悲劇のヒロインなれるわ、と。すべて、ミホコの計画通りであった。
最初の始まりはシブキのミスからであった。シブキ派によるミホコのいじめが始まってから半年、ミホコはこの日も1人でレッスン場の掃除をしていた。更衣室で着替えて帰ろうとすると、シブキのスマートフォンがロッカーの上に置かれているのに気付いた。持ち帰るのを忘れたのだろう。ミホコはシブキに仕返しをしようと、シブキのスマートフォンを隠そうとしたが、ミホノが急に入ってきたことでそれを止めた。
「帰ったんじゃないの?」
ミホコの問いかけに、ミホノは無反応である。さっさと練習着に着替えると、1人で自主練を始めた。ミホコはその態度と、実の妹であるミホノが助けないことにも腹が立っていた。ミホコはシブキのスマートフォンを元に戻し、代わりにミホノのスマートフォンを隠すことにした。
「痛い目みればいいのよ」
そう呟き、ミホコはレッスン場を後にした。それから5分して、シブキはスマートフォンを取りに戻った。1人鏡の前で居残り練習をするミホノを、シブキはミホコと勘違いした。そしてミホノ自身も耳栓をして、集中して踊っていたため、シブキの存在に気が付かなかった。
私が現れても挨拶はなしと感じ取ったシブキはスマートフォンを手に取ると、足早にレッスン場から出ていった。このとき、シブキに気づいたミホノは急いで挨拶するも、シブキはそれを無視した。シブキは心の中で、「向上心が高いのをこれ見よがしにアピールしていて鼻に付く。そんなに踊りたかったら、一生踊ってな」と憎悪をたぎらせた。
それから2時間ほど自主練を終えると、ミホノは更衣室で帰り支度を始めた。そこでスマートフォンがないことに気付く。ポケット、リュック、ロッカーを探しても見つかることはなく、どこかで落としたのかもしれないとテンションを下げた。帰りついでに交番で落とし物届を出そうと思いながらドアに手を掛けると、
「あ、あれ…」
施錠されて開かないことに気付いた。そう、シブキは鍵を閉めて帰ったのであった。次の日は日曜日。ミホノは猛暑の中、この蒸し暑いレッスン場で月曜日を迎えた。
第一発見者のシブキが来た頃には、すでに息を途絶えていた。自分の過ちに気付いたシブキがレッスン場でパニックを起こしていると、そこに現れたのはミホコであった。ミホコに気付いたシブキは、泣きながらミホコの腕を掴んだ。
「ち、違うの。私は鍵を閉めただけで…ミホコが…」
ミホコは死んでいるミホノを見つめた。
「私がミホコよ」
その言葉に、シブキはミホコとミホノに何度も視線を行き来させた。
「え?え?…」
この瞬間、ミホコはあることを思い付いた。
「このことは2人の秘密ね。もしバレたら、貴方も家族も悲惨な目に合うわ」
絶望するシブキに、ミホコは優しく言う。
「大丈夫。私の言うことを聞いていれば」
ミホコは優しくも冷たく笑った。この日を境に、シブキはミホコの操り人形になった。
ミホコはミホノの振りをし、ミポリンを演じ始めた。元々、メンバーが間違えるほどのそっくりである。他に気付かれない自信があった。
さっそくマネージャーに連絡し、ミホコは卒業することを伝えた。そしてシブキに指示して、倉庫室にあるマットの中にミホノの遺体を隠し、大量の防腐剤と消臭剤を詰め込んだ。かといって、あまりにも放置していると腐食は進んでいく。
隠蔽作業を続けるシブキを見ながら、ミホコはこう思った。最終的には火事でも起こして燃やせばいいか。シブキも一緒に。
「あのドアも買い替えないとね。痕跡が残っちゃうし」
ミホノの死体を隠し終えたシブキは、死んだ魚のような目でミホコの方を振り返った。
「はい…分かりました」
そして、カエデも同じ目にあった。カエデはこれまで自分がされたことを世間に公表すると、シブキとマエノに言い放った。シブキは震えあがった。そこから発展して、ミホノの遺体までバレてしまうかもしれない。そうなったら、何もかも終わりだ。
シブキが怒りの形相になると、それに気付いたマエノは一早くカエデに近寄った。カエデも抵抗し、レッスン場から逃げ出すと、マエノは前に突き倒した。カエデは廊下の手すりに頭を強打し、そのまま糸が切れた人形のように倒れ込んだ。
「え?…」
痙攣しているカエデを見て、マエノは立ち尽くした。それを後ろで見ていたシブキは、
「もし今日のことがバレたら、グループも終わりだよ。どうするの?」
と言った。マエノはシブキの方を振り返ると、無表情で腕を組んでいた。マエノはその空気を察した。
「けど…」
シブキは淡々と言う。
「大丈夫。私しか見てないから。どうするの?」
「けど…」
「どうするの?」
気付いたら、マエノはカエデの首に手をかけていた。カエデの痙攣が止まると、シブキは続けているマエノに言う。
「あとは何とかする。帰りな」
消えるような声でマエノは返事をする。
「…はい」
シブキはミホノのときと同じように遺体を隠蔽し終えると、ミホコに詳細を伝えた。
ミホコの指示のもと、カエデのスマートフォンから卒業することを伝えさせた。ミホノが死んでからの事件発覚を恐れていたシブキに、ミホコはある提案をしていた。それは定期的に家族への連絡と、引き落とし口座に最低限の金額を振り込むこと。そうすればスマートフォンが止まることもなく、家賃、光熱費の引き落としに問題が発生しない。そして住んでいないことを住民に悟られないために、定期的に泊まりに行くことを命じた。今回のカエデの件に対しても、それと同様に対応するよう伝えると、シブキは素直に従った。
6
あの日の夜をミホコは思い出していた。当初はシブキとミホノを燃やし、自分をセンターとした悲劇のアイドルグループとして、グループを注目させることを想定していた。結果として、マエノまで殺人を犯してしまったことで、秘密に関わっているマエノとカエデも追加された。そうなると、残るは自分とハルカの二人。となれば、悲劇のヒロインは1人で十分。ハルカには可哀そうだったけど、一緒に燃えてもらうしかない。
ミホコは時間を確認した。今からアイドル6の元メンバーとして、記者会見が行われる予定。
「あと1時間かしら。迎えが来る前に支度しないと」
ミホコはすでに言うセリフを決めている。「亡くなったシブキの援助もあって、妹とカエデはアイドル活動を続けられた」という美談をまず話し、亡くなった妹の分と、そして卒業したとはいえ、元メンバーのために再びアイドル宣言をするつもりであった。そして、私は日本中から注目を浴びる。
「ピンポーン」
チャイムの音に、ミホコは反応した。
「あら、少し早いわね」
ミホコは用意していたバッグを片手に、玄関のドアを開けた。
ーー私たちは地下アイドルユニット、アイドル6で活動していた。それも今では4人になった。リーダーのシブキをセンターに、サイドをマエノ、ミポリン、カエデ、私が立つ。
5人の少人数でも、女社会は一つの村となり、派閥も出来上がる。いや、派閥と言いていいものなのか。シブキ派と、その他である。シブキ派にはマエノ、ミポリンがいる。その他、つまりは無所属のカエデと私がいた。カエデと私は、反抗していたわけではない。
アイドル活動の傍ら、生活費を稼ぐため、バイトに明け暮れていた。レッスン後のミーティングという名のカフェ会、食事会に参加できなかったのだ。そんなこともあり、そこでの打ち合わせは共有されることもなく、溝は深まる一方だった。
私たちの拠点は2階建ての小さなプレハブ小屋みたいな事務所である。2階には形だけのオフィスがあり、1階がレッスン場となっている。レッスン場といっても、そんな大それたものではない。ただ鏡張りの室内に、更衣室と埃だらけの倉庫室がある程度。数年前に壊れた空調設備は放置してある貧困事務所であった。
この事務所で唯一立派といえる代物は、最近買い替えたレッスン場の少し厚めの防音ドアである。それも、シブキの自費であった。ある日、私たちはいつものように蒸し暑いレッスン場で練習を終えると、シブキは言った。
「今日は一週間後に迫ったライブの打ち合わせね。カエデと、ハルカも参加して」
いきなりの強制ミーティング開催発言に、私はすぐにスケジュールを確認した。万が一、バイトが入っていたら参加できない。そう思いながら確認すると、偶然にも予定は空いていた。
基本的に外食はしなく、スーパーの値引き品食材たちで自炊していた私は、このミーティングに掛かる費用は痛手であった。それでもシブキの圧力に屈するしか道はなかった。しかし、カエデはそれを断る。
「すみません、シブキさん。今日はバイトが」
シブキはそれを許さなかった。
「バイトなんかより、チームの方が大事でしょ。断ってから来なさい。場所は」
一方的にシブキは場所と時間を伝え、シブキ派を連れて行った。私は更衣室に一度行き、そそくさと後を追った。結局指定した時間になっても、カエデが来ることはなかった。
食事会中にシブキは怒りを露わにした。それに油を注ぐように、マエノは言う。
「前から思ったんですけど、カエデってなめてますよね。いくらバイトがあるからって、ハルカは参加しているのに」
気まずい思いをしながら、私は無料の水を飲んでいた気がする。シブキは言う。
「やっぱり、そう思う?ハルカはバイト断ったんでしょ?」
私は空気を読み、嘘を付いた。
「そ、そうだよ」
マエノはアイスティーを飲み、サラダを摘まむ。
「グループのことを思えば、当たり前。で、どうします?このままだと、チームにもライブにも支障出ますよ。ほら、モチベーションとか」
シブキが何か言おうとしたが、その前にミポリンは言う。
「無視しちゃお~」
このときのミポリンは、冷たく笑っていた気がした。私はこの空気に耐えきれず、終始俯いて、時折相づちをしていただけであった。
この日を境に、カエデのいじめが始まった。無視は当たり前、練習着やシューズを隠し、極めつけはライブの演出を伝えないこと。この執拗な嫌がらせは、シブキとマエノが率先していた。私はただ空気になり、反応を示すことはなかった。
それからいじめは続いていき、ついにカエデはシブキに言った。
「いい加減にしてください」
震える声を、マエノは馬鹿にして笑う。
「え?聞こえないけど」
更に小さな声でカエデが言うと、シブキは詰め寄った。
「えっ?」
その圧力とこれまで続いたいじめに、思わずカエデは泣き始めた。私はレッスン室の隅でうろたえていると、ミポリンが横に立った。
「醜いよね~」
そう言うと、私の手を掴み、出入り口の方へ歩いた。
「お先で~す」
シブキとマエノはもうカエデしか見ていない。そしてカエデも私たちには気づいていない。三人だけの地獄のような世界。
事務所を出た後も、ミポリンは私の手を掴んだまま、どこかへ歩いていた。私はこのあとバイトの時間もあり、手を離してほしかった。
「あの、ミポリンさん。私、このあとバイトが」
ミポリンは足を止め、私の方を振り返る。
「そっか」
手を離し、ニコッと笑うその顔に、私は思わず目を背けた。理由は分からないが、何とも言えない不気味さがあったから。
「お、お疲れ様です」
私は俯いたまま、その場から逃げるように早歩きでバイト先に向かった。
翌日、マネージャーが私たちをレッスン場に呼び出した。そこには、カエデの姿がない。マネージャーは言う。
「昨日、カエデから連絡があり、グループから卒業したいと連絡があった」
ミポリンはわざとらしくも動揺し、マエノは身体まで震えさせていた。そんな中、シブキだけは冷静であった。
「分かりました。他に何か言ってましたか?」
マネージャーは首を振る。
「練習についていけないと言っていた。他に理由を聞こうとしたが、電話が繋がらなくてな。メールだけはしてある」
「そうですか」
このときのシブキの瞳はとても不気味であった。瞳の奥が黒く濁っている気がした。
ライブまで残り僅か。時間は待ってくれない。カエデが卒業したことはホームページでファンに通達され、こうして私たちアイドル6は4人での活動が余儀なくされた。私はカエデがいなくなってから、今後の活動がとても不安で仕方がなかった。ーー
2
カエデがいなくなり、ライブでのフォーメーション、構成などを変えなくてはならない。私たちのような地下アイドルは、その内容を指揮するスタッフはいなく、自分たちで考えなければならない。
当たり前のようにレッスン終了後、いつものミーティングが開かれた。私はいじめの対象にならないように、この日はバイトを休ませてもらった。
チェーン店での焼き肉屋で、ミーティングは行われる。私は自ら焼く係に徹した。私が皆の皿に肉を運んでも、それが当たり前だと受け取ったシブキとマエノはお礼を言わない。ミポリンだけは、
「ありがと~」
と言ってくれた。ミポリンはくすっと笑い、アイスティーを飲む。
「マエノさ~ん。大丈夫ですか?」
たしかに、レッスン場で会ったときからマエノの様子がおかしかった。ひどく怯えているように見える。マエノは下手な笑みを浮かべた。
「そんなことないよ。さ、食べましょう」
そう言いながら、手を付ける素振りが見られない。横に座るシブキは構わず肉を軽快に運ぶ。
「カエデの穴を、どう埋めるか」
またしてもミポリンは笑った。
「けど良かったですね~。カエデさんに演出を伝えていなかった分、それほど重要な役割を振ってなくて」
私はミポリンの挙動や発言に恐怖を感じた。1人だけこのグループを俯瞰しているような気がして。
シブキは頷いた。私はシブキの皿にある肉が残り1枚だと気付き、急いで新しい肉を置いた。
「たしかに、そうね。とりあえず」
マエノの方を一瞥し、
「内にミポリンと私が立って、外にマエノとハルカに立ってもらうわ」
と言った。ミポリンはマエノが肉を食べないことに対して言った。
「マエノさ~ん。せっかく、ハルカさんが焼いてくれたのに、食べないんですか~」
マエノが反応する前に、シブキが言う。
「そうよ。食べなさい」
マエノは少し震えながら箸を取り、肉を食べた。いや、押し込んでいた。
「はは。何か練習で疲れちゃって」
シブキは溜め息を吐く。
「そんなんで、ライブを乗り越えられるのかしら」
「す、すみません」
マエノが小さくなるのが分かった。いつもは堂々としているシブキに、それに媚びを売るマエノのイメージが強いが、今日はそう見えなかった。例えるなら、マエノが私とカエデのように見えた。
カエデが卒業してから、私が標的になると思いきや、ライブまでそんな余裕はなかったらしい。私自身も懸命に標的にされないように、ライブが終わるまではミーティングに参加できるよう、バイトの時間を深夜帯にずらしてもらっていた。
もちろん、身体に疲れは残る。それでもカエデのように、いじめられるよりはマシであった。そんな中で迎えたライブ。問題が起きた。
地下アイドルと言っても、ファンはいてくれる。ステージと観客席の距離が近く、ファンはオープニングから熱を発していた。アイドル6の名物ともいえるであろう無限ジャンプが始まると、私たちとファンは曲の始まりから終わりまで飛び跳ね続ける。
曲時間は3分強であるが、ラストの23秒のサビはシブキの「もう1回」コールが続くまで、永遠に繰り返される。シブキはファンのテンションを確認し、まだ続けるかを決めている。
そして問題は、この無限ジャンプ中に起きた。シブキの8回目となるコールで、マエノがステージで失神した。マイク越しで鈍い音が鳴ると、すぐに私たちとファンの視線はマエノへと注がれた。状況を飲み込むと、悲鳴とざわつきが起こる。袖で見ていたマネージャーが現れると、私たちに言う。
「急いでマエノを楽屋に運んでくれ。ミポリンは救急車に連絡してくれ」
私とシブキはマエノを抱え、楽屋に向かった。ミポリンはその後ろに付いてくる。マネージャーだけはステージに残り、何かファンに説明をしていたが、それを聞いているほど余裕はなかった。
私とシブキはマエノをソファーに寝かせた。脱水症状かもしれないと思った私は、テーブルに置かれた水を手に取った。しかし、失神しているマエノに飲ませる手立てを知らなく、ただ持ったままおろおろしているだけであった。
シブキは動揺することはなく、逆に苛立っていた。
「ライブ本番に、どうしてくれんのよ!」
ミポリンはその光景を見て、笑っている。私は小さな声で聞いた。
「ミポリンさん。救急車はいつ到着しますか?」
ミポリンは私に近づき、持っていた水を取った。
「ん~?」
そしてキャップを外し、マエノの顔にかけた。失神していたマエノが目を覚ます。
「ぶはっ」
腰を起こし、周囲を見回す。状況を飲み込めないマエノに、ミポリンは言う。
「ライブ終わっちゃいましたよ~。マエノさんが失神しちゃうんですもん」
「えっ?えっ?」
動揺したマエノであったが、シブキの顔を見た瞬間、血の気が引いた。
「す、すみません」
マエノが土下座すると、マネージャーが楽屋に入ってきた。
「どうだ、マエノの様子は?」
「大丈夫で~す」
ミポリンはそう言って、マエノの方を見た。シブキが答える。
「すぐに目を覚ましました。緊張してたんでしょうね。救急車は必要じゃないと思って、連絡してません」
マネージャーは床で小さくなるマエノを見る。
「本当に大丈夫なのか?」
マエノは立ち上がり、マネージャーに頭を下げる。私はマエノがふらついているように見えた。
「はい。心配かけて、すみませんでした」
マネージャーは軽く頷いた。
「そうか。まぁ、ならいい。各自荷物まとめた順から帰るように」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様で~す」
シブキとミポリンは去っていくマネージャーに挨拶をする。ドアが閉まると、ミポリンはマエノの顔をじっと見つめた。
「今から練習しないとね」
私はその言葉の意味を理解できなかった。ミポリンはシブキを見る。
「ね?シブキさ~ん」
シブキは頷いた。
「そうだね。今からレッスン場に行くよ」
マエノの怯える表情は、何とも労しく感じた。それと同時に必然と感じていた標的が、マエノになろうとしていることに心のどこかで喜ぶ私もいた。
レッスン場に着くと、無限ジャンプの練習が始まった。スマートフォンで曲を流し、それに合わせて踊る。鏡越しから、反対に位置するマエノの表情が見る見るうちに青白くなっていくのが分かった。
曲通しに8コールを2回繰り返したところで、ミポリンが提案した。
「私とハルカさんで飲み物買ってきますね~」
「ああ、お願いね」
シブキが頷くと、ミポリンは私の手を掴み、レッスン場の近くにある自動販売機へと向かった。私たちがレッスン場から出た後も、曲は続いていた。
ミポリンは自動販売機に千円札を入れると、適当に飲み物を選んだ。袋を持っていなかった私は、取り出し口から出てきた4本のペットボトルを両手に抱えた。
ミポリンはその場で座り込み、私から1本取ると、その場で飲み始めた。すぐに戻ると思っていた私は、どうすればいいのか分からず立ちすくんだ。ミポリンは私の方を見て笑う。
「一緒に飲もうよ~」
「あ、えっと、はい」
私は少し間を空けて座ったが、ペットボトルに手を出さなかった。ミポリンは何も言わず、ただ無言の時間が続いた。5分ほどして、居た堪れなくなった私はミポリンに言った。
「あの、戻らなくて…」
ミポリンはニコッと笑いかけ、また一口飲んだ。特に何も言わず、私の中で気まずさだけが残った。そのまま30分ほどして、今度はミポリンから話しかけた。
「あのね~。ハルカさん」
「は、はい」
くすっと笑い、ミポリンは少し距離を詰めた。なぜだか、緊張が走る。
「私ね~。貴方の秘密知ってるよ」
私の中で血の気が引いて行くのが分かった。私は動揺することなく言った。
「秘密って何ですか?」
「ふふっ」
ミポリンは立ち上がり、
「戻ろ~」
と言って、歩き始めた。私はミポリンが言う秘密とは何なのか、それしか頭になかった。
レッスン場に戻るまで、私はミポリンに秘密のことを聞こうか悩んでいた。それでも恐怖と不安が勝り、聞くことが出来なかった。レッスン場のドアに近づくにつれて、鼓動は高まりを増す。私は秘密について聞こうとしたが、ドアの前でミポリンが振り返った。
「あの日、見ちゃったんだ~」
見たとは何か。ハルカは持っていたペットボトルを強く抱えた。
「何をですか…」
ミポリンは笑いながら、ハルカの瞳を覗き込むかのように近づいた。
「あの日、カエデさんを閉じ込めたでしょ~?」
私は身体を硬直させ、あの日の出来事が脳裏に過った。
3
ーーライブ1週間前のミーティングをやるといったシブキは、私とカエデに参加するよう強要した。私はこのとき思った。このままミーティングに参加しなければ、ミホコの二の舞になると。そう、ミホコとはミポリンの双子の姉であり、アイドル6の元メンバーであった。
元々アイドル6は、シブキ、マエノ、ミポリン、ミホコ、カエデ、私で結成された。妹のミポリンはシブキ派にも関わらず、ミホコはそこに属していなかった。向上心も高く、このまま地下で満足するわけにはいかなかった。
私もそうだが、シブキたちもメジャーデビューを夢見ていた。それでも、どこか今のままで満足する自分たちもいた。特にシブキは父親が会社を経営していることもあり、お金に困ることはなかった。このまま自分が中心となっているならば、それはそれでいいかと納得しているようにも思えた。
考え方の違いで2人は衝突し合い、ミホコがミーティングに参加しないことにシブキは苛立ち始めていた。このときから、私とカエデもバイトがあり、積極的に参加していなかったとはいえ、標的はミホコであった。執拗ないじめ行為に、ミホコはグループからある日突然、卒業していった。
私はこの一件からシブキに恐怖を抱いていた。かといって、バイトを辞めてまでマエノのように腰巾着にはなれない。それだったら、新たな標的をカエデに仕向ければいいのだ。私の知られたくない秘密を知っているからカエデに。
カエデは「誰にも言わないよ」と言っていたが、私はその不安を拭うことはできなかった。偶然にも見られてしまった、私のバイトが風俗であることを。カエデがいなくなれば、少しでもこの不安から解放されるかもしれない。
私は更衣室にあるカエデのスマートフォンを隠した後、レッスン場のドアを施錠してからシブキたちの後を追った。レッスン場は基本外から関係者が出入りできるように、外側にしか鍵がなく、内側に鍵が掛けられない仕組みになっていた。
たとえカエデが無理してミーティングに参加しようとも、もう出るすべはなく、誰にも連絡を取ることが出来ない。そして私の思惑通り、カエデはミーティングに参加することはなく、新たな標的に選ばれた。ーー
4
あの日、私はたしかにシブキ、マエノ、ミポリンの後を追った。ミーティングに参加したメンバーなら、私が最後にレッスン場を出たはずなのに、なぜミポリンがそれを知っているのか。硬直している私に、ミポリンはくすっと笑う。
「あの日ね~。ちょっと事務所に戻る用事があったんだ。前にも同じことがあって、嫌な予感がしたんだよね~」
私が硬直したまま何も発しないでいると、ミポリンはそのまま続けた。
「そしたら、カエデさんが閉じ込められちゃってるの。話聞いたら、中から開けられなくてって言うわけ。おまけに、スマートフォンもない。あれ~最後に出たのって、ハルカさんだよね~?」
おそらくカエデは私が閉じ込めたって、気付いているだろう。私が最後に出ていったことに、気付いていないわけがない。カエデは私を恨み、風俗の話をバラしているのではないかと、緊張が走った。毛穴から冷たい嫌な汗が滲み出る。
「カエデさんが死んじゃったのも、ハルカさんのせいかな~?」
今にも口から心臓が出てきそうなくらいの、気持ち悪い何かが押し寄せる中、ミポリンの言葉に理解が追い付かないでいた。
「…え?死んじゃった…って...え?…」
ミポリンは私の反応を無視して続けた。
「それに、もう1つ秘密も聞いちゃってるんだよね~。だから、お願いがあるの」
その秘密はカエデから聞いたものだろうか。私の中で感情が入り乱れていた。
「全部燃やしちゃお」
そのときのミポリンは満面の笑みを浮かべた。
シブキとマエノが残るレッスン場の鍵を閉めて、事務所ごとガソリンで燃やそうと提案してきた。狂気に満ちたその笑顔に、私は堪らず逃げ出そうとした。するとミポリンは私の手を掴み、レッスン場のドアを開けて、強く投げ入れた。その勢いのまま、私は頭を床に強打した。ミポリンもレッスン場に入り、シブキに言った。
「ハルカさんね~。全部バラすってさ。ミホコのことも、カエデのことも」
そう言った途端、シブキの表情は憎悪に溢れていた。ぐったりしているマエノも、その言葉に反応した。
「そ、それだけはあああぁぁっぁあー!!!」
倒れ込む私にマエノが襲い掛かってくる。私は痛みを忘れ、恐怖からすぐに立ち上がった。
「ハルカあああぁぁぁぁああああぁぁー!!!」
叫びながら襲い掛かってくるシブキに、私は一番近くにある倉庫室へと逃げ込んだ。すぐに鍵を閉めたが、ドアを何かで強打する音と叫び声が聞こえる。
私は襲い掛かる恐怖に、必死で隠れ場所を探した。更衣室に逃げ込めば、スマートフォンで助けを求められたかもしれない。それでも近くの倉庫室に逃げるしか、選択肢はなかった。
あの勢いでは、このドアを壊してくるかもしれない。私は隠れ場所を探した。棚や収納ロッカーでは、すぐに見つかってしまう。いや、たとえどこに隠れようとも、シブキとマエノは隅々まで探すに違いない。この倉庫の出入り口は、今も叩いているあのドアしかないのだから。それでも私は恐怖から隠れ場所を探していた。私の瞳に、厚めのマットが映る。急いでジッパーを下ろし、中に入ろうとすると。
「ゴトッ」
何かが落ちてくる音と、生ごみのようなにおいがした。思わず顔を歪め、落ちてきた物を確認した。それは大量の防腐剤と消臭剤であった。ミポリンの言葉に、嫌な予感が過る。まだ奥に何かある。私は恐る恐る、それを確認した。そこには、カエデと黒い塊があった。
5
「続いてのニュースです。昨夜、アイドル6の事務所が全焼する火事があり、所属するメンバー4人の遺体と、1人意識不明の重体で発見されました。警察は放火の疑いがあるとして…」
このニュースは全国区で放送され、それを自宅で見るミホコは優雅に紅茶を飲み、微笑んでいた。これで私は悲劇のヒロインなれるわ、と。すべて、ミホコの計画通りであった。
最初の始まりはシブキのミスからであった。シブキ派によるミホコのいじめが始まってから半年、ミホコはこの日も1人でレッスン場の掃除をしていた。更衣室で着替えて帰ろうとすると、シブキのスマートフォンがロッカーの上に置かれているのに気付いた。持ち帰るのを忘れたのだろう。ミホコはシブキに仕返しをしようと、シブキのスマートフォンを隠そうとしたが、ミホノが急に入ってきたことでそれを止めた。
「帰ったんじゃないの?」
ミホコの問いかけに、ミホノは無反応である。さっさと練習着に着替えると、1人で自主練を始めた。ミホコはその態度と、実の妹であるミホノが助けないことにも腹が立っていた。ミホコはシブキのスマートフォンを元に戻し、代わりにミホノのスマートフォンを隠すことにした。
「痛い目みればいいのよ」
そう呟き、ミホコはレッスン場を後にした。それから5分して、シブキはスマートフォンを取りに戻った。1人鏡の前で居残り練習をするミホノを、シブキはミホコと勘違いした。そしてミホノ自身も耳栓をして、集中して踊っていたため、シブキの存在に気が付かなかった。
私が現れても挨拶はなしと感じ取ったシブキはスマートフォンを手に取ると、足早にレッスン場から出ていった。このとき、シブキに気づいたミホノは急いで挨拶するも、シブキはそれを無視した。シブキは心の中で、「向上心が高いのをこれ見よがしにアピールしていて鼻に付く。そんなに踊りたかったら、一生踊ってな」と憎悪をたぎらせた。
それから2時間ほど自主練を終えると、ミホノは更衣室で帰り支度を始めた。そこでスマートフォンがないことに気付く。ポケット、リュック、ロッカーを探しても見つかることはなく、どこかで落としたのかもしれないとテンションを下げた。帰りついでに交番で落とし物届を出そうと思いながらドアに手を掛けると、
「あ、あれ…」
施錠されて開かないことに気付いた。そう、シブキは鍵を閉めて帰ったのであった。次の日は日曜日。ミホノは猛暑の中、この蒸し暑いレッスン場で月曜日を迎えた。
第一発見者のシブキが来た頃には、すでに息を途絶えていた。自分の過ちに気付いたシブキがレッスン場でパニックを起こしていると、そこに現れたのはミホコであった。ミホコに気付いたシブキは、泣きながらミホコの腕を掴んだ。
「ち、違うの。私は鍵を閉めただけで…ミホコが…」
ミホコは死んでいるミホノを見つめた。
「私がミホコよ」
その言葉に、シブキはミホコとミホノに何度も視線を行き来させた。
「え?え?…」
この瞬間、ミホコはあることを思い付いた。
「このことは2人の秘密ね。もしバレたら、貴方も家族も悲惨な目に合うわ」
絶望するシブキに、ミホコは優しく言う。
「大丈夫。私の言うことを聞いていれば」
ミホコは優しくも冷たく笑った。この日を境に、シブキはミホコの操り人形になった。
ミホコはミホノの振りをし、ミポリンを演じ始めた。元々、メンバーが間違えるほどのそっくりである。他に気付かれない自信があった。
さっそくマネージャーに連絡し、ミホコは卒業することを伝えた。そしてシブキに指示して、倉庫室にあるマットの中にミホノの遺体を隠し、大量の防腐剤と消臭剤を詰め込んだ。かといって、あまりにも放置していると腐食は進んでいく。
隠蔽作業を続けるシブキを見ながら、ミホコはこう思った。最終的には火事でも起こして燃やせばいいか。シブキも一緒に。
「あのドアも買い替えないとね。痕跡が残っちゃうし」
ミホノの死体を隠し終えたシブキは、死んだ魚のような目でミホコの方を振り返った。
「はい…分かりました」
そして、カエデも同じ目にあった。カエデはこれまで自分がされたことを世間に公表すると、シブキとマエノに言い放った。シブキは震えあがった。そこから発展して、ミホノの遺体までバレてしまうかもしれない。そうなったら、何もかも終わりだ。
シブキが怒りの形相になると、それに気付いたマエノは一早くカエデに近寄った。カエデも抵抗し、レッスン場から逃げ出すと、マエノは前に突き倒した。カエデは廊下の手すりに頭を強打し、そのまま糸が切れた人形のように倒れ込んだ。
「え?…」
痙攣しているカエデを見て、マエノは立ち尽くした。それを後ろで見ていたシブキは、
「もし今日のことがバレたら、グループも終わりだよ。どうするの?」
と言った。マエノはシブキの方を振り返ると、無表情で腕を組んでいた。マエノはその空気を察した。
「けど…」
シブキは淡々と言う。
「大丈夫。私しか見てないから。どうするの?」
「けど…」
「どうするの?」
気付いたら、マエノはカエデの首に手をかけていた。カエデの痙攣が止まると、シブキは続けているマエノに言う。
「あとは何とかする。帰りな」
消えるような声でマエノは返事をする。
「…はい」
シブキはミホノのときと同じように遺体を隠蔽し終えると、ミホコに詳細を伝えた。
ミホコの指示のもと、カエデのスマートフォンから卒業することを伝えさせた。ミホノが死んでからの事件発覚を恐れていたシブキに、ミホコはある提案をしていた。それは定期的に家族への連絡と、引き落とし口座に最低限の金額を振り込むこと。そうすればスマートフォンが止まることもなく、家賃、光熱費の引き落としに問題が発生しない。そして住んでいないことを住民に悟られないために、定期的に泊まりに行くことを命じた。今回のカエデの件に対しても、それと同様に対応するよう伝えると、シブキは素直に従った。
6
あの日の夜をミホコは思い出していた。当初はシブキとミホノを燃やし、自分をセンターとした悲劇のアイドルグループとして、グループを注目させることを想定していた。結果として、マエノまで殺人を犯してしまったことで、秘密に関わっているマエノとカエデも追加された。そうなると、残るは自分とハルカの二人。となれば、悲劇のヒロインは1人で十分。ハルカには可哀そうだったけど、一緒に燃えてもらうしかない。
ミホコは時間を確認した。今からアイドル6の元メンバーとして、記者会見が行われる予定。
「あと1時間かしら。迎えが来る前に支度しないと」
ミホコはすでに言うセリフを決めている。「亡くなったシブキの援助もあって、妹とカエデはアイドル活動を続けられた」という美談をまず話し、亡くなった妹の分と、そして卒業したとはいえ、元メンバーのために再びアイドル宣言をするつもりであった。そして、私は日本中から注目を浴びる。
「ピンポーン」
チャイムの音に、ミホコは反応した。
「あら、少し早いわね」
ミホコは用意していたバッグを片手に、玄関のドアを開けた。
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©2022 新菜いに
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