甘夢の旅人

霧氷

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いざ、炭鉱へ

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「じゃぁ、炭鉱駅に行きましょう。案内するから。」


ティーチェが、胸を叩いて言った。


サンドウィッチ、キャンディー効果なのか、とても機嫌が良い。


「あの、その前に、ウィングさんにお弁当を届けたいんですけど・・・。」


「あら、じゃぁ、寄ってから行きましょう。通り道だから。」


「はい。」


「ユメちゃん、さっきの・・・とキャンディー・・・。」


「・・・えぇ・・・そうですね・・・。」


ティーチェは、ユメの腕を掴み、話ながら歩を進める。


ユメは、逆らわず、キャンディー等が喜ばれたことを素直に嬉しく思っていた。


しかし、


「ユメお姉ちゃん、オリヴァーのママに取られちゃった・・・。」


「ズルい・・・。」


「・・・・・・。」


子ども達は、面白くなかった。


皆、恨めしそうにオリヴァーを睨む。


「俺を睨むなよっ!母ちゃん、ユメ姉ちゃんの作ったサンドウィッチやキャンディーが気に入ったんだよっ!」


「それは、分かるけど・・・。」


「食べ物もそうだけど、ユメ自身も気に入ったのよ。さっきの勢いじゃ、酒場に殴り込みに来る気満々だったもの・・・。」


ソニアは、『ユメ効果ね・・・』と、少し疲れた顔で、前を歩く二人の背を見ていた。



「おはようございますっ!」


ウィングの店にたどり着き、カレブが大声を上げる。


 〝リリリッン″



「いらっしゃい・・・。」


中から、フリューが出てきた。


「フリューさん。おはようございます。」


「おは、よう・・・。」


「ウィングさんは?まだ、寝てるの?」


「ううん。作業中、入れない・・・。」


ソニアが尋ねると、フリューは首を振った。


しかし、ウィングの仕事が忙しいことは分かる。


「そうですか・・・あの、これ、約束のお弁当です。」


ユメは、バスケットの中から、長方形の箱を取り出し、フリューに渡した。


「ふた、つ・・・?」


渡された箱が二つなのを見て、フリューは首を傾げる。


「一つは、フリューさんの分です。」


「!?ありがとう、受け、取った・・・。」


フリューは肩を震わせ、柔らかいトーンで、礼を言った。


その声色は、とても嬉しげだと、ユメ以外の皆は思ったのだった。








ウィングの店を後にしたユメ達は、駅馬車のステージを通り過ぎ、街の外にある駅にたどり着いていた。



「ユメちゃん、ここが炭鉱行きの列車が出ている駅だよ。」


「これが・・・。」


ユメが知っている駅の形はしていなかったが、線路にベンチ、申し訳ない程度の屋根は、田舎の駅を彷彿とさせた。


もちろん、改札や自動販売機などは無いが・・・。



「いいかい、オリヴァー。くれぐれも、皆に迷惑かけるんじゃないよ。」


列車に乗ったユメ達は、一人だけホームに残るティーチェから、オリヴァーにお弁当が渡された。


「母ちゃんこそ、早く父ちゃんと仲直りしろよ。」


お弁当を受け取るオリヴァー。


「あの人が謝るなら・・・まぁ、許さないこともないかもしれないわ。」


「はっきりしろよっ!!」


「分かったわよっ!!謝ったら許すっ!!」


「はぁ~・・・。」


オリヴァーは息をついた。


「オリヴァー。」


「まだ、何かあんの?」


「アッシュに、今日は早く帰ってきなさいって言いなさい。」


「・・・へぇ~い。」


素直じゃない母親に、オリヴァーは返事をするのも疲れていた。


「列車が出るぞぉ~!!」


「じゃぁ、頼んだわよっ!!」


「おうっ!」


列車の扉が閉まり、独特の音を響かせ走り始めた。



「・・・・・・。」


ユメは、窓から線路を見ていた。


「どうしたのユメ?」


ソニアが尋ねる。


「ここが、始発の駅なの?」


「あぁ、この列車は、炭鉱に行く人達を運ぶ物で、街と炭鉱しか行けないし、駅も間には無いの。」


「へぇ~・・・。」


一駅しかない駅など、ユメのいた場所には存在しない。


炭鉱との連絡列車と言われればそうだが、様々な地を結ぶ交通として発達した列車を見ていたユメには、この世界は驚きの連続だった。


言葉の通じる謎もとけないまま・・・見える景色も、岩と砂地、所々に生えているサボテンのみ。


「・・・・・・。」


少ない情景に、ユメは己自信を重ねていた。


ユメの目には、流れゆく景色とどんどん小さくなる街の影が映っていた。


「・・・・・・。」


そんなユメを見たソニアは、子ども達と共に、少し離れた席で見守っていた。





しばらく行くと、炭鉱の駅についた。


降り立つと、風に混じって鉄のような灰のような匂いがする。



炭鉱は、いくつもの岩山からなっており、いくつものルートが掘られ、トンネルの様になっている。


そこで働く人たちは、トンネルから石を担いでくる人、掘る人、トロッコに乗せる人、出た灰を取り除く人、様々だが、屈強な男の人達が動いていた。


しかし、ユメの母が好きな時代劇の過酷な人足働きとは違う。


怒鳴る人もいなけらば、いばる人もいない。


中には、石に転びかけた仲間を助けている。


大変だが、とても穏やかな職場だ。



「えっと・・・父ちゃんは・・・。」


オリヴァーは父親を捜す。


ユメは、顔を知らないが、昨夜、酒場に来ていたようなので、見知った顔を探す。


すると、


「あっ・・・。」


昨夜、スコッチを飲んでいた男の人を見つけた。


声を掛けようと口を開くが、


「父さんっ!!」


前にいたカレブが男性に向かって走り出した。


「カレブっ!?どうしたんだ?」


男性は、驚いた顔したが、何事も無くカレブを抱き留めた。


どうやら、カレブの父親らしい。


「オリヴァーの付き添いっ!」


カレブは元気に答える。


「付き添い?」


「小父さん、こんにちは。」


「こんにちは。」


「こんにちは。」


オリヴァーに続いて、皆、挨拶をする。


「あぁ、こんにちは。」


「小父さん、父ちゃん知らない?父ちゃん、弁当忘れて行っちゃったんだ。」


「あぁ、アッシュ、またやったのか。」


「うん。」


「もうすぐ、戻ってくるよ。今日はあいつ灰を集める係だから。」


どうやら、仕事は当番制のようだ。


「じゃぁ、ここで待ってる。」


「うん。ここなら、危なくないからね。」


子ども達は、岩場に腰を下ろした。


カレブの父親は、ユメ達に向き直り、


「ユメちゃんも来てくれたのか。ありがとう。」


「はい。カレブのお父さんだったんですね。」


「あぁ、俺はダット。カレブの父親で、オリヴァーの父親・アッシュの幼馴染なんだ。」


「そうなんですか。」


「いや~昨日は、ありがとう。とっても美味しかったよ、枝豆。」


「ありがとうございます。」


「今夜、また行くから。」


「はい、お待ちしております。」


「あっ、父ちゃんだっ!おぉ~いっ!」


オリヴァーは父親に手を振る。


「オリヴァーっ!?」


見ればその顔は、昨夜ビールを飲んでいたお客さんだった。


ただ、顔には傷薬が貼られ、帽子も少々浮き上がっている。


おそらく、頭には瘤があるのだろう。


「どうしたんだ?」


「弁当っ!忘れてっただろう?」


「悪い悪いっ!今朝急いでたからな・・・。」


オリヴァーの父・アッシュは苦笑いをしながら謝罪する。


「父ちゃん、母ちゃんに謝れよ。」


「・・・分かってる・・・。」


アッシュは、太陽が沈んだ時の向日葵のように頭を下に向けながら言った。


「それと、父ちゃん。母ちゃんが、今日は真っすぐ帰れって言ってたよ。」


「分かってる分かってる。今日まで、飲んで帰ったら、今夜は外確定だからな。」


会話を聞きながら、相当の数を夜、外で過ごしているといのが分かる。


あえて聞かないが。






「オリヴァー、お仕事の邪魔になるから帰るわよ。」


「は~い。じゃぁ、父ちゃん、仕事頑張ってね。」


「あぁ、お前も気をつけて帰るんだぞ。」


「うんっ!」


オリヴァーが、ユメ達のもとに掛けてくると、


「・・・あっ!?」


突然、強い風が吹き、ヘレーネの手から、ハンカチを奪っていった。


「ハンカチがっ!?」


「待ちなさい、ヘレーネ。」


ヘレーネは、追いかけようとするが、ソニアが止める。


「ソニアお姉ちゃん・・・?」


「一人じゃ危ないわよ。炭鉱じゃ岩に当たって風の向きが変わるわ。三手に分かれましょう。ダットさん、アッシュさん、協力をお願いします。」


「いいよ。俺の弁当を届けに来てくれたんだからな。」


「俺達が一番、炭鉱のことを知っているから、任せな。」


「ありがとうございます。じゃぁ・・・。」


「おい、ヘレーネ。こっち。」


「・・・えっ?」


オリヴァーがヘレーネの手を掴んで、アッシュのもとに行く。


「カレブ、あと頼む。」


「おう、父さん、メリー行くぞ。」


「ちょっと、仕切らないでよ。」


「何、怒ってんだよ。ヘレーネのハンカチを見つけるんだろ。こうやって分かれた方がいいんだよ。」


「・・・。」


メリーは不服そうな顔をしたが、何も言わなかった。



「じゃぁ、あとは私とユメで。」


残った二人が自動的に組まれた。


オリヴァー達は、人の出入りの多いトンネル付近を、カレブ達は、灰を持って行く穴の方に、ユメソニアは、人が出入りをしていないトンネルの方へ散らばった。





人の出入りが少ない場所は、岩と岩の窪みが多く、先程いた場所から死角になりやすい場所だった。


作業が行われないのも、こういったことが原因かもしれない。



「ソニア、私、こっちを見てくる。」


「気を付けてよ。」


「うん。」


ユメは、凹凸の多い岩の影を見たり、窪みの中を探る。


しばらく、そんなことを繰り返しながら、炭鉱の奥へと進むと、


「あっ!?」


岩の凹凸に、ヘレーネの持っていたハンカチが引っかかっていた。


「あった・・・あっ!?」


ユメが手を伸ばすと、ハンカチは、また風に飛ばされた。


「待ってぇ~。」


ユメは、ハンカチを追いかけた。



軽いハンカチは、石を持ったように風に揺られ、炭鉱の奥にユメを誘った。


「あっ!?」


僅かに空いている炭鉱の木の扉の前に落ちた。


「良かった・・・。」


ユメは、ハンカチを拾い上げると、



 〝 シュルシュルバッ″



「っ?!きゃあぁぁっ!?」



ユメは、突然足を掬われ、視界が暗転した。




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