古地図屋・巡

霧氷

文字の大きさ
上 下
4 / 6

尋ね人

しおりを挟む







拓弥は、キヌの言った通りに歩いていくと、涼泉寺と風清神社が見えてきた。


寺と神社が隣同士なのは、江戸時代の寺社地の名残だと、高校の社会科の夏休みの宿題で調べたのは、記憶が薄れつつある二年前だ。


寺では、正月の七日には、七草粥が振る舞われ、お盆には墓参りをする。


ここに、拓弥の家のお墓もあるのだ。


神社では、春祭り、夏祭り、納涼祭等が行われる。


先月の、春祭りにも拓弥は家族と出掛けた。


そんな寺と神社の間に、人が一人通れるほどの道が続いていた。


「これか・・・。」


お寺の松や垣根、神社の柳の木に隠れるようにして、その道はあった。


整備はされおらず、細かい砂利で形成されている道だ。


幼い頃、この辺で沢山遊んだが、気付かなかった。


狭い路地など、子どもの遊び場には適している筈だが、その小道を見るのは初めてだった。


「こんな所があったんだなぁ・・・知らなかった・・・。」


拓弥が、道の先を見ていると、


「あの、すみません。」


後ろから声がした。


「えっ?・・・あ、はい・・・。」


拓弥が振り返ると、ワンピースを着た若い女性が一人立っていた。


「すみません、ちょっとお尋ねしますけど、この辺りに、喫茶店、ありませんか?」


「喫茶店?えっと・・・駅ビルの中に、スムージーとサンドイッチが美味しい喫茶店が入ってますよ。」


女性の見た目と服装を見て、駅ビルの店を教える拓弥。


しかし、


「す、スムー、ジー・・・えっと、そういうお店ではなく、その・・・店先に植物があって、コーヒーが美味しくて、こじんまりとしたお店なんですが・・・。」


女性は、申し訳なさそうに、店の特徴を言った。


「じゃぁ、この通りを進んで、二番目の路地を右に曲がると、幼稚園と公園があります。その向かいに、喫茶店があります。」


拓弥は、ふと三年前オープンした店を思い出した。


夫婦と腰の低いおばさんの三人で営業していて、コーヒーが美味いのは勿論、奥さんが植物が好きらしく、店の前には色とりどりの鉢植えが並んでいた。


普段、コーヒーを飲まない祖母も、そこのコーヒーは好きらしく、散歩の帰りによく通っている。


「住宅街の中なんですけど、鉢植えも並んでいて、コーヒーが美味しいんです。」


「?!そこかもしれませんっ!ありがとうございますっ!」


女性の顔が、花が咲いたように明るくなった。


「いえ・・・。」


「それでは、失礼します。」


「お気をつけて・・・。」


互いに会釈をし、拓弥は女性の背中を見送った。


「若いのに、渋い感じが好きなのかな・・・?」


見えなくなった女性を思いながら、拓弥は呟いた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

黄昏時にピーッちゃんがやってきた

海さとる
大衆娯楽
 拾った野鳥のひなピーッちゃんの成長とともに、てんやわんやの主婦登喜子とその家族の日常とその成長ものがたりです。どこの家にでもある、本音の家族の会話などがかいまみられます。ゆったりとお楽しみください。

それぞれの正義

逢坂淳一郎
大衆娯楽
アメリカ人3人がテロリスト集団に拉致され、その身代金をあろうことか日本政府に求めてきた。10億ドルという巨額の身代金支払いを巡り、アメリカ政府から無料な要求がなされ、テロリストに屈するのかそれとも突っぱねるのか、世界中が注目する中、刻々とタイムリミットが迫る。この事件をきっかけに決定的に対立することになる日米両政府。その最中、新たな事件が起こる。暴走する首相を止められるか?首相の無二の親友であり政府の要でもある官房長官が首相との友情と国民への責務との間で苦悩し取った行動とは?

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

メロウ電車

下田島
大衆娯楽
日常の偶然とは、まさにこういうことだ。 主人公は電車で見かけた人達のストーリーを想いながら、今日も自分を探し続ける。

バーチャル女子高生

廣瀬純一
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

姫様の1週間

kamesato
大衆娯楽
姫様の1週間の話です

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...