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尋ね人
しおりを挟む拓弥は、キヌの言った通りに歩いていくと、涼泉寺と風清神社が見えてきた。
寺と神社が隣同士なのは、江戸時代の寺社地の名残だと、高校の社会科の夏休みの宿題で調べたのは、記憶が薄れつつある二年前だ。
寺では、正月の七日には、七草粥が振る舞われ、お盆には墓参りをする。
ここに、拓弥の家のお墓もあるのだ。
神社では、春祭り、夏祭り、納涼祭等が行われる。
先月の、春祭りにも拓弥は家族と出掛けた。
そんな寺と神社の間に、人が一人通れるほどの道が続いていた。
「これか・・・。」
お寺の松や垣根、神社の柳の木に隠れるようにして、その道はあった。
整備はされおらず、細かい砂利で形成されている道だ。
幼い頃、この辺で沢山遊んだが、気付かなかった。
狭い路地など、子どもの遊び場には適している筈だが、その小道を見るのは初めてだった。
「こんな所があったんだなぁ・・・知らなかった・・・。」
拓弥が、道の先を見ていると、
「あの、すみません。」
後ろから声がした。
「えっ?・・・あ、はい・・・。」
拓弥が振り返ると、ワンピースを着た若い女性が一人立っていた。
「すみません、ちょっとお尋ねしますけど、この辺りに、喫茶店、ありませんか?」
「喫茶店?えっと・・・駅ビルの中に、スムージーとサンドイッチが美味しい喫茶店が入ってますよ。」
女性の見た目と服装を見て、駅ビルの店を教える拓弥。
しかし、
「す、スムー、ジー・・・えっと、そういうお店ではなく、その・・・店先に植物があって、コーヒーが美味しくて、こじんまりとしたお店なんですが・・・。」
女性は、申し訳なさそうに、店の特徴を言った。
「じゃぁ、この通りを進んで、二番目の路地を右に曲がると、幼稚園と公園があります。その向かいに、喫茶店があります。」
拓弥は、ふと三年前オープンした店を思い出した。
夫婦と腰の低いおばさんの三人で営業していて、コーヒーが美味いのは勿論、奥さんが植物が好きらしく、店の前には色とりどりの鉢植えが並んでいた。
普段、コーヒーを飲まない祖母も、そこのコーヒーは好きらしく、散歩の帰りによく通っている。
「住宅街の中なんですけど、鉢植えも並んでいて、コーヒーが美味しいんです。」
「?!そこかもしれませんっ!ありがとうございますっ!」
女性の顔が、花が咲いたように明るくなった。
「いえ・・・。」
「それでは、失礼します。」
「お気をつけて・・・。」
互いに会釈をし、拓弥は女性の背中を見送った。
「若いのに、渋い感じが好きなのかな・・・?」
見えなくなった女性を思いながら、拓弥は呟いた。
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