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第3話 赤い目

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「よし。魔石と小竜から取れる素材取ったか?」

「おう、ばっちりよ」

「全部取った」

「とったよ」

依頼が終わると、冒険者ギルドに依頼達成の証拠を提出しなければ達成とみなされず、報酬金が支払われない。

魔物討伐依頼の証拠は魔石。魔物の体内には魔力の塊である魔石があり、討伐後に解体して取り出すのだ。

ついでに魔物から取れる素材、今回の小竜で言うと鱗や爪など。それらを採取する。それらは売って稼ぎにしたり、自身の武器を作るときの素材として武器屋、防具屋などに渡す。

「よしじゃあ帰るか」

俺は小竜から取れた鱗を背負ってギルドへの帰路につく。

「アルター、帰ったらデートしようね」

嫌だなー。面倒くさいよ。

「ごめんなー今日は用事ある。今度ね」

そう言うとシナフェルは頬を膨らませて俺の方に一発拳を当てた後にそっぽ向いた。

ごめんな、シナフェル。俺、デートとかしたくないよ。

そんな感じで四人で他愛のない会話をしながら冒険者ギルドに戻り、魔石を受付に渡して報酬金を受け取った。

報酬金を四等分した後、明日の予定についてグレンが話し出す。

「明日は何の依頼する?」

「んー。今日見た感じ良いのなさげだったよな」

今日、依頼リストを見ているときは荷物の運搬や草むしり、路地清掃などと言ったものばかりで王族外出の護衛みたいな楽しそうな依頼はなかった。

「はー?つまんね。明日は無しでいいだろ」

「明日オフなんだったらアルタ!デートしよ?」

シナフェルは俺とデートしか頭にないのだろうか。

「あはは、考えとく」

「まぁ、明日のことは明日決めるか。じゃあ今日は解散で」

グレンの一言で皆、それぞれの方向に帰っていく。

俺は歩いて利用している宿に向かう。

村まで帰れる距離だが、依頼を終えて村に帰るという行為が飽きたので最近は宿に泊まっている。

村に帰るのも一週間に一回くらいの頻度だ。

二年、このパーティーで活動して色々なことを経験した。

まず、多くの時間をだれかと過ごすなんて家族を除いて初めてだった。幼少期はこの世界を知る為に色々と一人でやっていたからな。シナフェルはついてきていたけど。

それに皆で魔物を倒すというのが新鮮で良かった。一人で魔物狩りに出ていた俺にとって連携は難題だったよ。他三人は上手いこと出来ていたのに俺だけ噛み合わないとか多かった。

威力が高い魔法スキルも結構覚えて、一撃で魔物を倒すのは爽快だ。

それと有名になることがこんなに良い気持ちになることも初めて知った。街を歩いていたら話しかけられたり、応援されたりとか。

パーティーも成長して、二年で俺たちそれぞれS~Fまで七段階あるランクのCランクにまで行った。そして、魔物も今回みたいに上手く倒せるようにもなっている。

だいぶ、この生活は楽しい。

楽しいんだけど、何か足りない。

俺の厨二病心くすぐることがない。

俺は飢えているんだ。

俺は女神にどのようになるのか予想がつかない主人公補正の加護を要求した。

だけど、十六年生きてきて俺が期待していたようなことは起こっていない。

『ステータスオープン』

俺は何気にステータスを表示させてスキルポイント振り分けを開く。

今まで、癖の全くない攻撃系スキルしかとってこなかったから気分転換に違うやつ取ってみるか。

取れるスキルを一つずつ見ていく。

「お、良さげなのあるな」

俺が注目したのは雷属性魔法の【感電罠】というやつだ。

スキル内容は簡単で罠を設置した場所を踏むと発動されて、踏んだやつは感電し、二秒ほど身動きが取れなくなるというもの。

まぁ、沢山仕掛けとけば一つは当たるだろ。

とりあえず、今日はもうグダグダ過ごそう。

次の日、朝にギルドで集合して依頼リストを見ていると昨日にはなかった討伐依頼が追加されていた。

それを指差してグレンが言う。

「えっと。サイクロプス討伐あるけど、どうだ?」

「あのデカブツか。やったことねぇけどいいじゃん」

「俺もいいと思う」

「アルタがいいなら私もいいよ」

「じゃあ決まりだな。受付に持っていくわ」

今回の依頼はイージー森林に出没しているサイクロプスの討伐だ。

まずイージー森林というのはスライム、野良ゴブリンなどの低ランクの魔物しかほとんどいない森林。

冒険者になりたての人たちは大体この森林で魔物との戦闘経験を積みに来る。要するに初心者用の森林ということだ。

そんな場所にサイクロプスが現れたとなると危険だ。

魔物には危険度ランクというものがありこれは冒険者ランクの七段階に加えてSSランクまである。

基準は簡単で危険度ランクがFであれば冒険者ランクがF以上の人が討伐可能というものだ。

SSランクは冒険者ランクSが二人以上で討伐可能というもの。

サイクロプスは危険度ランクCで初心者にはあまりにも荷が重すぎる魔物である。

早めに討伐に行かないと犠牲者が出てしまうので俺たちは急いでイージー森林に向かった。

イージー森林はたまにこういう強い魔物が迷い込むということがある。

俺は左前方から鳥のさえずりが聞こえてきて、そちらに視線を向けると大きな足と胴体が木々の隙間から見えた。

「おい、あそこにそれらしいのがいる!」

他の三人も視認すると方向をその魔物の方へと変えて速度を上げた。

近くまで辿り着き、その魔物を確認する。

木の高さまである身長、大きなこん棒を手に持ち、顔にはギョロギョロとした目が一つだけ付いている。サイクロプスだ。

こいつとは戦ったことがないがグレンが的確な指示をしてくれるだろう。

サイクロプスなー。ただ一つ怖いところがあるとすれば、こいつ人食うからなー。

いや、他の魔物も人を食うやつはいるがでかい人型の魔物に食われるとなるとなんか恐怖が倍増するというか。

某巨人漫画をイメージして貰えばその恐怖は分かるだろう。

ま、こういうときの為の感電罠だよなー。

昨日取得してて良かったわ。

「よし!いつものように俺とディノイが前に出る!二人は後ろにいてくれ!俺が合図を出したらアルタはスキルを頼む!」

いつものようにグレンの指示が飛んできたが俺は感電罠を使いたかったのでその旨を伝えた。

「なるほどな!分かった!とりあえずお前が仕掛け終わるまで俺たちは耐えておく!終わったら言え!」

「りょうかいー」

俺はすぐさま罠の仕掛けに入る。

サイクロプスは知能が少しあるタイプの魔物だから罠を仕掛けるときはバレないようにしなければいけない。

木の裏や草むらに身を潜めながら罠を順調に仕掛けていく。

罠が一つだけでは引っかかる確率は低いので俺は十個以上仕掛けた。

「グレン!ディノイ!準備完了!罠の場所は!」

「横目で見てたから分かる!任せろ!」

グレンお前、優秀すぎるだろ。Cランクの器じゃねぇよお前。

ただお前臭いのがなければな、大人気だったろうに…

「ディノイ!こいつを右斜め後ろ!枝が折れている木と穴が開いている実をつけている木の間に誘導するぞ!」

「はいよ!」

サイクロプスが棍棒をグレンに振り下ろすが彼は数歩下がってそれを躱す。

棍棒は地面に少し刺さり、サイクロプスの動きを一瞬鈍らせた。

その隙をついてディノイがスキル『タックル』を発動し、サイクロプスは見事罠に掛かり、感電して動きが停止する。

それを認識してすぐに俺はスキル詠唱を行った。

『サンダーインパクト!』

杖の先っぽからバチバチと音を出している小さな電気の球が空中にフワフワと浮かびサイクロプスに向かって飛んで行く。

そして、やつに触れたと思った瞬間に大きな衝撃音と共にサイクロプスの体を爆散させた。

「グロ…」

シナフェルが顔を歪ませながら呟く。

うん、俺がこのスキル使うと決めたけど失敗したなと思うほどに絵面が酷い。

サイクロプス自慢の大きなお目なんて後ろに筋繊維がこびりついたまま地面に転がっている。

あと気のせいか臭いがキツイ。

あぁ、違った、これ隣にグレンが来たからだ…

「おい、アルタ。これ魔石探すの面倒だぞ…」

グレンがそう言ってから気付いた。

こいつの言う通りじゃん。

サンダーボルトは昨日使ったから今日は違うスキルってことで何となく選んだけどミスった。

確か前にも同じことやったんだよな、そのときもグレンに同じこと言われた記憶があるわ。

でも名前好きなんだよ、特に【インパクト】の部分が。

これはしょうがないことなんだ、だから三人とも不機嫌そうな顔をしないでくれ。

「めんどくせーけど探すしかねぇもんな」

ディノイが探し始めるとそれに続くように俺含めた三人も探し始めた。

サイクロプスの肉の欠片を見つけて、その肉の中と欠片が落ちていた周辺に落ちていないかの確認を様々な場所で繰り返す。

しゃがみながらやっていたので腰に負担がかかってきて、一旦休憩を挟もうと思ったときにシナフェルが声を上げた。

「ねぇ見て!これ!」

彼女が何かを手に持っている。

よく見てみるとそれはグリフォンの羽根だった。

グリフォンは危険度ランクSの魔物だ。

そんな魔物の羽根となるとかなり高値で売れる。

俺たちのパーティーに思わぬ美味しい臨時収入が入ったのだ。

「グリフォンの羽根ってマジか!」

「初めて見た!」

グレンとディノイがはしゃぐ。

うん、まぁ、いい収入が入って忘れているかもしれないけど実はこの状況、だいぶ危険なんじゃないのか。

「待て!お前ら今すぐここから離れるぞ」

グレンは気付いた顔で俺たちにそう言った。

そうだ、ここはイージー森林といって低ランクの魔物しかいない森林。そんな森林にグリフォンの羽根が落ちているということは。

あぁ、そうだよな。いるよな。この森林に。

ズドーン!!

俺たちのすぐ後ろで大きな音がする。

まさかと思い振り返った。

そこには俺の身長の二倍あり、赤く鋭い目を持ち、鷹の頭にライオンの胴体を持った生き物が立っていた。

あぁ、正真正銘グリフォンだ。
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