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断案と憧憬 18

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「あーも……、分かんね」
「岩井くんから相談事受けるとは思わなかったわー」

あの日から一週間。
あからさまに怒っている雰囲気はもう無いが、どうも二人でいる時の空気から甘さが抜けた気がする。それが逸には堪えられなかった。しかし自分はそんなことを言える立場ではないから、逸はこうして後藤相手にくだ巻いているのだった。柳田も一緒である。

「なんで怒ってるなら怒ってるって言わないんすかね、言ってくれたらなんぼでも謝んのに俺」
「言ってもしょうがねえと思ってるからでしょ」
「あああああああ」

ハイボールのグラスをがちゃんと置き、項垂れて逸は呻く。

「あいつ幻滅すると長ぇからなぁ」
「あああぁ……」
「ちょっと後藤くん……」

身を乗り出して逸の肩を叩いてやり、柳田はなんとか話の筋をそらそうとした。

「ところで引き継ぎはどう、順調?」
「あ、はい──」

首が据わらないような危うい挙動ながらも頭を上げ、逸は一応真人間に戻る。

「思ってたよりしっかりした子で。なんとかなりそうです……入社早めろって言われた時はどうなるかと思いましたけど」
「だよね、無茶言うからなー本間さん。良い人なんだけど」
「ああ、岩井くんが入るとこ?」
「そうそう。小さい会社さんだけどね、フットワーク軽く色んな挑戦してるし本間さんの目端が凄いから。伸びるとこだと思うよ」

また少し居住まいを正して逸が笑う。
本間と知り合ったのは篠崎に同行して展示会に出席した時だったので、出店側で参加していた柳田もまたそこに居合わせていたのだ。
そこで本間の会社のブースに目を引かれ、本間と話をしているうちに退職と就職とが決まってしまった。
しまったと言ってももちろん本人の知らない所でというわけではない、逸自身が惹かれるものを感じて、どう身を振ろうか考えていたのだ。が、本間と篠崎がそれ以上に積極的だった──のか、逸が自覚以上に態度に出してしまっていたのか──
今はとにかく人手が欲しい、特に意欲があって頭のやわらかい人材を今すぐにでもと言う本間と、引き継ぎに十分な時間が欲しい篠崎との擦り合わせもそこで済んでしまった。
決まる時というのは決まるものである。

そして敬吾にはまだ話していない。

「──あ」
「うん?」
「もしかしてそれかなあ?敬吾さんが怒ってるの」
「あーー」

酔っている間にその報告をして、何がしかの話し合いがあり、それを忘れたから怒っている?

「ありそうな気がしてきた」

そう言う逸にさもありなんと二人は頷き、早速電話を掛けてみるも、敬吾はただ驚いた様子で「そうなのか?おめでとう」と言った。

「違かった……」
「んだよ」
「もー」

後藤と柳田はそれぞれに、お絞りとストローの袋とを投げつけたのだった。





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