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断案と憧憬 12

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「あ。いた」

突然開いたドアとその声に驚いて、逸はぽかんと口を開けてドアを見た。
声の主は当然敬吾で、いつもの仏頂面で逸を見下ろしている。

「お前昨日何時まで飲んでたんだよ」
「え、えーっと何時だろ……」
「まあいいや、お前魚捌ける?」
「え?魚?なに?」
「なんだよ二日酔いか」

そう言って呆れたように片眉を顰め、敬吾は一旦台所へと引っ込んだ。
水や冷蔵庫のドアの音がしている間、やはり逸はきょとんとしていてそれからやっと驚いたように掛け布団を剥がした。が。

「いっ!!!!」
「あーあー」

戻ってきた敬吾の更に呆れた声。
それすら刺激になるほどの頭痛に逸は文字通り頭を抱えて項垂れた。

「ほら水分取っとけ」
「う、はい……」

礼すら口に出せない。
手渡されたグラスに口を付けると、含んだ水のあまりの旨さに一気に煽った。
笑った敬吾がグラスを取り上げてもう一杯持ってくる。

「ありがと……ございます」
「どんだけ飲んだんだお前」

苦笑しながら、また半分ほどをぐびりと飲んだ逸の頭を敬吾は掻き回した。

「うっ……」
「それでちゃんと帰ってきてんのもすげーな」

昨夜後藤からの救援要請はなかった。かなりの進歩である。

「……これなんすか?うまい……」
「ソーダとレモン汁」
「へえ……」

逸の声はまるでそのまま体調だ。
掠れて張りがなく、低くて重い。

「店大丈夫なのか?」
「ん、休みです……」
「飯は?」
「…………」

頭を振る気になれないのか、まるで蝿でも追うように逸が手を振る。
それでも会話はできるらしく、やはりひどい声だが「敬吾さん、魚って?」と口にした。

「ああ、昨日貰ったんだよ。お前捌ける?」
「んー、たぶん……。なんの魚ですか」
「分かんね」
「分かんないんだ」
「このくらいのやつ」

敬吾が両手で大きさを示してみるが、自信はないらしく妙に上下した。
久しぶりに吹き出してしまい、逸は今度は「白身ですか?」と聞く。そんなもの敬吾に分かるわけがない。

「何にしますかね……」

未だ具合は悪そうだが、逸は少し笑ってそう言った。



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