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憧憬と断案 7
しおりを挟む「──っあ、いま……触んな」
「ん……?」
「だめだってば、こら」
「…………」
ばしばしと腕を叩かれてやっと悪戯をやめ、逸は大人しく敬吾を背中から抱き込んだ。
甘えるように、やや低い位置で肩甲骨の間辺りに額を擦り寄せている。
その背中は未だ大きく揺れていた。
「……ひっさしぶりにこんな動いた」
「あはっ」
咳き込むように笑って、逸は敬吾の背中をベッドにつけてやりながら覆い被さり、まっすぐに視線を落とす。
ひどく懐かしいような笑顔を見上げながら敬吾はまだ少々苦しげだ。
その呼吸がやっと整い始めると今度は喉がひりつき、何も言わずとも逸が水を取りに立つ。
「はい」
「ども……」
体を起こした敬吾が水を飲むと、その傍らに腰を下ろして逸はやはり笑顔でそれを見守っている。
敬吾の唇が空くと自分の番とばかりに顔を寄せた。
深さも角度も幾度も変えて、食べ尽くすようにしてから唇を離すと敬吾がゆっくりと瞬きをした。
それから濡れた唇を畳み、押すように逸の胸に手を当てると、蕩けるようだった瞳がきゅっと力を取り戻して見上げがちに逸を睨む。
「……お前さあ」
「はい?」
すっかり良い雰囲気に浸っていた逸は、叱ってでもいるような敬吾の声にきょとんと瞬きをした。
「人にはモテるだの気ぃつけろだの言うくせに、人のこと言えねーじゃねーか」
「…………?」
「……自分は無関係みてえな顔しやがって」
逸は本当に見当も付かないというような顔をした。
鈍い鈍いと貶される敬吾でも分かる、本当に心当たりのない顔。
──あの新人の子、と敬吾が言って2秒後、やっとどうにか得心の行ったような顔をする。
それから器用に顔の半分だけを歪めた。
「だって敬吾さんが急に来るから」
「……あん?」
今度は敬吾が怪訝な顔をする。
その間逸は入れ替わりに、少々冷たいような真摯な顔つきになっていた。
「いつもはちゃんと気ぃ付けてんです。敬吾さんが不安にならないように、俺は。」
「────」
「実際今までは気づかなかったでしょ」
──そう言われ、敬吾は呆然と、ぱちくりと瞬きだけを繰り返す。
その敬吾を逸は、少し呆れた様子で、寝かしつけるように押し倒した。
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