こっち向いてください

憧憬と断案 5

「お前さ」
「はい」
「具合でも悪いの？」
「え？」

食欲はあるらしい。
鍋はシメまでいつも通りに完食し、土産、と敬吾が取り出したご当地限定のスナック菓子もつまんでいた。
が、なんと言うか──何かがおかしい。

夕食と片付けが終わった後、流れで順番に風呂を使ってしまうと逸は「湯冷めするからこっちで寝てくださいね」と言った。
なんらおかしなところが無い、と言えば無い。
それは矛盾した行動は取っていないと言う意味でだ。
そうでなく、そうではなくて──そう、逸らしくないのだ。
元気がない。

逸は当然のように不思議そうに「悪くないですよ」と言ったが、敬吾からするとやはりそうは思えない。
だが、自覚はなくとも敬吾が思うように体調が優れないのなら──

「早めに寝るか」
「うん？はい」

それが一番だろう。
敬吾はいつものように、逸がシーリングライトを消すと同時にベッド横のライトを点けて逸の腕に収まった。






──それから三日ほど。
逸の様子は相変わらずだった。
優しく、穏やかで、食事を作り、おかしな言動はない。
そう。「ない」のだ。

「お前マジでなんか病気なんじゃねえ!!???」
「はい!?」

敬吾がほとんど叩くように額で熱を見たりなどしている間、逸は鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をしてその敬吾の顔を見ていた。

「なんなんすか？それ」
「いやだっておかしいだろ！」
「？　なにが？？」
「なにがって──」

とりあえずさして熱くはない額から手を下ろし、未だ訝しげな逸の瞳を敬吾は横目にちらりと覗く。

「いや、だって……おかしいとも思うだろそりゃ……」
「だから、何がですか？」

皆目分からない、という顔をまた横目に睨めつけ、敬吾はため息をついた。

「なに、もしかしてまた勃たなくなった？」
「へ？」

逸は更にきょとんとした顔をする。
そうしてぱちくりと瞬き、それからやっと、意を得たと言わんばかりに「ああ──」と言った。そして苦笑する。

「違いますよ！」
「そーなんだ」
「はい」

──ならどうして。
それはさすがに言えなかった。
ただ、「なら良かった」と言って敬吾は皿を重ねだす。
逸もそれに倣い、洗い物をして一息つくと敬吾の横に腰を下ろした。

「敬吾さん」
「んー」
「したい？」
「あ？」
「セックス。したいですか？」
「ああ？…………」