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その心は 2
しおりを挟む「えーーいいんですか!」
「いいよ、大分慣れてきただろ」
風呂上がり、そう言いながら敬吾は自分用のビールの缶を出して逸にはハイボールを作ってやっていた。
「いつもどんなもん?濃さ」
「もうちょい多いですけど──や、今日はそんなもんでやめときます」
濃さと言うか、これでは薄さである。
「……マジで?酒の味すんの?これ」
「まあ……、……やや」
「だよなあ」
首をひねりつつも、まあ本人がそう言うのなら良いかと敬吾はグラスを渡してやる。
受け取る逸はほとんどソーダ水のようなそれにも満足げだ。
酌というのでもないが、敬吾と飲めるというのに早々正体失うような下手は踏みたくない。
肴も簡単な炒め物や乾き物ばかりだがそれすらも特別|誂えに感じられる。
敬吾はと言えばいつものこの平たい表情だが──
──それで良いのだ。
いつもの敬吾を見ていられる、この充足感。
「じゃあ」
そして、少しの進歩──
「かんぱーい」
大して響きは良くないグラスの音。
揃って酒を呷ると、敬吾は美味そうに目を閉じるが逸は今のところ酒自体の味を美味いと思ったことはない。
ただ頭の軽くなる感覚を楽しく感じるようになってきてはいた。
「うめーー」
「暑かったですもんねー、今日」
「……お盆来るなー……」
「あー……」
「………」
──繁忙期のことを考えると気が重い。
二人は何を言うでもなくまたごつんと杯を鳴らした──。
「──今年は売れんですかねぇ、あのでっかいパラソル」
「ああ、あれなー。何年ものなんだろな」
「お客さんオブジェだと思ってませんかあれ」
「あり得るぞ……去年ちびっこがあれ見て『今年も夏が来た』つってた」
「ぶはっ!」
ややおかしなところに飲み込んでしまった炭酸で逸がむせている間、チーズ鱈を一本咥えて冗談交じりに敬吾が言う。
「今年売れなかったら来年俺いねーからなあ、心残りだわ」
「………」
逸は何も言わず、半ば残っていたグラスを空にした。
「おいおい」
「敬吾さんいなくなったら……」
「あん?」
「──だいじょぶなんですかねぇ、あの店ー……」
「お前一気に飲みすぎだって」
俄然緩んだ逸の呂律に敬吾は一瞬ひやりとするが、逸の表情はどちらかといえば厳しかった。
ならば。
「よしもう一杯飲め」
「えぇえ?めずらしいっすねけーごさん……」
「あ、お前あれねーの?卒業アルバム」
「あるばむー?」
「見せろよ」
「いーっすけどぉ……」
逸がクローゼットに頭を突っ込んでいる間敬吾はまたハイボールを作ってやり、自分でもそれを一口飲んだ。
味などほとんどしないが、よくこれで酔えるものだ。
「けーごさんのも見せて下さいよう」
「俺のはやだ」
「えーなんで!ずるい!見たい!!」
「全っ然顔変わってねーから面白くもなんともねーんだよ」
「あー、けーごさん結構ふけがおですもんね……」
「お前マジで酔ってんだなすげーな」
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