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寸志の快感 13

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敬吾が見下ろす半裸の逸は、今しょんぼりと封のされた頭を垂れていた。
その格好の通り覇気こそないものの、造形はやはり均整の取れた良い体つきをしている。

脂肪の貧しさで筋張っているわけではなく、一時期鍛えていたとの本人の弁を裏付ける曲線は、後ろ手の姿勢のおかげで強調されていた。

──含みなく、惚れ惚れしてしまう、と敬吾は思う。
こうも不躾にまじまじ眺める機会はあまり無い。
これがいつも自分を抱いているのか──

──視界は閉ざされ、嫌に静かなせいで気配も感じられなかった敬吾がどうも嘆息を漏らした気がした。
それに触れたらきっと熱いだろう──そう予感して逸が小さく敬吾を呼ぶ。

我に返り、返事をするのがなんとなし恥ずかしくて敬吾は逸の脇腹を撫でた。
腹立ち紛れのような粗雑さに、逸が妙な笑い声を上げる。

「っく、くすぐったい!」

敬吾は何も応えず、問答無用に腹から胸へ、首筋へと撫で上げて逸を黙らせた。

ああもう全く、この稜線──

「っ敬吾さん……」
「うるさい」

不満げにそう言い、その声のまま乱暴に、敬吾は逸の膝に跨がり唇にかぶりついた。

噛み付くような激しい唇から、敬吾の昂りが伝わってくる。
いつものような落ち着きは欠片もない、苛立ちのような焦燥のような、そして、興奮のような──

舌が絡み始めると更にその思いは強くなる。

自分は今この人に求められているのだと思うと、自然逸の下半身は熱くなり唾液が溢れる。
不自然な姿勢のせいか上手く対処できずに溢れたそれを拭う手立てもない。

僅かに唇が離れた合間、口の端を左肩に寄せようとすると敬吾に阻まれた。
そうしてまた奪いに来る唇が、お前は自分のものだと、そう言っているような気がした。

「っ敬吾さん」
「……ん」
「ちょっと苦しい……」

何がなどと聞くまでもなく、当然のように滑り降りていく敬吾の視線が、今まさに逸を苦しめているジーンズの張り詰めた生地を捉えた。
それを強く握り込むと逸が驚いたように引き攣れた呼吸を飲む。

腹を立てているのかと危惧を産む敬吾の手はすぐに緩み、ベルトを抜いた。
ファスナーを下ろして手を差し入れ、下着を下げて抑圧されていたそれを露出させるまでを流れるようにやってのけるとそこまでで敬吾は手を引いた。

逸の腹は痙攣するように上下している。

「……なんでもうこんななんだよ」
「っ!」

ほぼ完全に勃ち切っているそれの先端をちょんとつつかれ、今度こそ引きつけのように逸の肩が跳ねた。
呼吸は更に激しくなる。

「なあ、なんで」
「……!」

またどこにも触れなくなり気配の薄い敬吾の問いかけが、何もない真っ暗な場所で一人熾る自分を窘められているようでひどく残酷だ。

「……敬吾さんが」
「俺が?」
「触るから……」
「触ってねえだろ」

小さい敬吾の笑いは、嘲ったのか微笑んだのか判断がつかなかった。
やや拗ねたような気持ちになり、逸が口答えをし始める。

「触りましたよ」
「触ってねーよ、ここは」
「っ!」

今度はピンと弾かれて、作っておきたい不機嫌な顔は脆くも崩れ去った。
必死にそれを立て直し、逸がまたどうにか食い下がるように口を開く。

「腹とか首とかは、触ったでしょっ……、キスもした」
「そうだな」

敬吾の手の中に、その感触が蘇る。

「敬吾さんにあんな風にされたら興奮しますよ。──あの触り方、すげえ独占欲だった」
「──ん?」

独占欲。
今まで頭の中になかった、しかし妙に違和感のない単語に、逸に見えるわけもないが敬吾は首を傾げた。

その間に逸は呼吸と決心を整えている。
さて言ってしまおうか──少し調子に乗って──

「──俺のもんだって言われてるみたいでしたよ……」
「──────」
「──……思ってるの?………」

──未だ落ち着かない呼吸に滲んだ逸の言葉を、敬吾はしばし反芻していた。

そうして目の前に屹立しているそれを見、その奥で速く浅く膨縮している腹を見、頼りなく丸まった姿勢の胸を、濡れた唇を見た。

そのすべては──、

「うん。……俺のもんだろ」
「──────」

それだけで完結させてしまった敬吾、言葉を失った逸しかいない部屋の中には、呼吸の音すらしなくなっていた。

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