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寸志の快感 2
しおりを挟む「──敬吾さん?」
「へっ!!?」
「…………どうかしました?」
「え?な、なんで……」
──その大事な大事な敬吾は今日、ずいぶんとっちらかっているようだった。
今日は妙に嘘が下手だな、逸がそう思いながら顔を覗き込むと、これまた白々しく顔を背ける。
「ぶふっ……」
「……なんだよ」
「なんだよって。俺が言いたいですよそれ」
往生際の悪いことにまだ明後日を向いている敬吾の顔をこちらに向け、そのまま肩口に収めてしまうと敬吾はどうやら諦めたようだった。
「なんで今日そんなに嘘ヘタなんですか?」
「………………。嘘とかじゃねえけど」
「んー……?」
未だ何か含んでいるような声音ではあるもののそれが可愛らしく、敬吾の髪に唇を埋めて逸はあやす様に先を促す。
敬吾は今度こそ諦めたようにため息をつき、どうにか低い声を捻り出した。
別に不機嫌なわけではないが──わざわざ明るい声を出そうという気にまではならない。
「今日はぁ……」
「うん……?」
逸の声は愛しげである。
「……お前の元カレなる人物に絡まれました。」
──言うなり。
激しい衣ずれの音がして、気づけば強く自分の肩を掴んだ逸が目の前にいた。──そして、その僅かな時間では、逸が自分を律するにはやや足りなかったらしい。
この上なく深い皺を眉間に刻み、怒っているような呆れているような──とにかく不愉快そうな逸は、ただ一言分だけ口を開いた。
「──ああ……?」
「…………。」
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