こっち向いてください

もなか

文字の大きさ
上 下
296 / 345

寸志の快感 2

しおりを挟む



「──敬吾さん?」
「へっ!!?」
「…………どうかしました?」
「え?な、なんで……」

──その大事な大事な敬吾は今日、ずいぶんとっちらかっているようだった。

今日は妙に嘘が下手だな、逸がそう思いながら顔を覗き込むと、これまた白々しく顔を背ける。

「ぶふっ……」
「……なんだよ」
「なんだよって。俺が言いたいですよそれ」

往生際の悪いことにまだ明後日を向いている敬吾の顔をこちらに向け、そのまま肩口に収めてしまうと敬吾はどうやら諦めたようだった。

「なんで今日そんなに嘘ヘタなんですか?」
「………………。嘘とかじゃねえけど」
「んー……?」

未だ何か含んでいるような声音ではあるもののそれが可愛らしく、敬吾の髪に唇を埋めて逸はあやす様に先を促す。

敬吾は今度こそ諦めたようにため息をつき、どうにか低い声を捻り出した。
別に不機嫌なわけではないが──わざわざ明るい声を出そうという気にまではならない。

「今日はぁ……」
「うん……?」

逸の声は愛しげである。

「……お前の元カレなる人物に絡まれました。」

──言うなり。
激しい衣ずれの音がして、気づけば強く自分の肩を掴んだ逸が目の前にいた。──そして、その僅かな時間では、逸が自分を律するにはやや足りなかったらしい。
この上なく深い皺を眉間に刻み、怒っているような呆れているような──とにかく不愉快そうな逸は、ただ一言分だけ口を開いた。

「──ああ……?」
「…………。」






しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ペントハウスでイケメンスパダリ紳士に甘やかされています

BL / 完結 24h.ポイント:340pt お気に入り:978

【完結】俺のストーカーは、公爵家次男。

N2O
BL / 完結 24h.ポイント:475pt お気に入り:1,728

特殊な学園でペット扱いされてる男子高校生の話

BL / 連載中 24h.ポイント:497pt お気に入り:738

押しかけ贄は白蛇様を一途に愛す

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:104

健気な美少年は大富豪に愛される

BL / 完結 24h.ポイント:880pt お気に入り:2,030

冴えない大学生はイケメン会社役員に溺愛される

BL / 完結 24h.ポイント:284pt お気に入り:4,254

孤狼に愛の花束を

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:47

処理中です...