こっち向いてください

もなか

文字の大きさ
上 下
294 / 345

あの日の報想 17

しおりを挟む

「あのなあ……」

心底呆れたような敬吾の声とため息に逸が背筋を伸ばす。

「そもそもお前と後藤の関係ってなんだよ」
「へ……」
「お前、後藤が俺にちょっかい掛けたからぶち切れてなかった?」
「────」
「姉貴は?俺がしばらく実家帰ってて会えなくてお前がへそ曲げて。一緒に車返しに行った時に会ったんじゃなかったか?」
「──あ………」

徐々にそして鮮やかに、敬吾の言葉が心に落ちて沁みていく。そうだ。

「敬吾さん……!!」
「……おう」

突如、鎖から解き放たれた熊のように抱きついてくる逸を受け止めてやり──やはり受け止めきれず横倒しになって、敬吾は苦笑しながらその背中を叩いた。

「敬吾さんっ、敬吾さん────」
「よーーやく思い出したかよ………」

──そうだ。なぜ少しでも、あの夢の方が現実だったのかもなどと思ったのだろう。
全く自分は大馬鹿者だった。
本当は分かっていたのに、もし本当にまだ片想いをしているのならと穿った想像をして、傷つかずにいられる立ち位置を選んでしまった。
腑抜けにもほどがある。

「敬吾さんっ──ごめんなさい、だいすき」
「はいはい……」

敬吾とて呆れてはいるが本気で怒る気にはなれなかった。
──あんな風に素直に喜べない、いっそこのまま死にたいとすら言わせしめる、逸の片想いがそこまで歪んで救いのないものだったことを敬吾も痛々しく感じていた。
それを少しでも慰めてやりたいと思ったのだから。

「わかったわかった……、怒ってねーから」

全身で、しかし控えめに擦り寄って許しを乞うているような逸の体をやはり敬吾はぱんぱんと叩いてやる。

「……ちょっとでも良い思いできたのか?」

──あの頃のお前は。

そう艶っぽく尋ねられ、逸ははたりと昨夜のことに思いを馳せた。
今感じている愛情ではなく、焼け付くような欲情と所有欲、憧憬の色眼鏡で見る敬吾。
ほんの少しでも良いから触れたい、こちらを見て欲しいと願っていた頃の自分が手にした僥倖。

──それは膨大な幸福感と興奮だった。
本当に、そのまま死にたいと思うほどの。

敬吾が、そうしてくれた。

しみじみとした嘆息が漏れ、敬吾の首元を擽る。
目を細めた敬吾が甘く呼吸を漏らした。

「すごい……幸せでした」
「ん……」
「夢かと思った、本当に……あの頃の俺が敬吾さんに触れるなんて──」
「………………良かったな」
「うん……、有難うございます。本当に」
「………………」

とろりと目蓋が落ちていく。
幸せだった。今こうしているだけで溶け落ちそうなほどだが、当時の自分まで報われたような気持ちだった。
あの先の見えない、ただ一人で熱情と恋慕に暮れるだけの虚しさ。

敬吾が自分の手を取ってくれた時、そんなものは全て報われ雪がれたと思っていたが──

「敬吾さん……好きです……」
「ん……」

──あの頃の自分までこうして慈しんでくれる恋人が、愛しくて尊くてたまらない。

なんと言えばこの気持ちが伝わるのか分からずに、逸はただ恭しく唇を落としていた──。













「……ところでさ」
「ん……、はい?」


「お前はなに、プロのお兄さんに相手してもらったことがあんの?」
「はいっ!?????」









しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...