こっち向いてください

あの日の報想 6

「──っ、ここで……か？」

駆ける呼吸の中に笑ってしまいながら、ソファの上に押し倒された敬吾が言っても逸は応えない。

一度抑圧されてしまった欲望はもう、素直に露呈するのとは段違いの激しさで解き放たれてしまった。
敬吾の声もほとんど聞こえない。

そしてやはりこの敬吾相手に見栄を張る必要もないと思っているのか単に我を失っているのか、敬吾のシャツの中に頭から突っ込んできそうなほどのがっつきようだ。

「っはは！犬かよ！」

本当にシャツをたくし上げるより早くその胸にむしゃぶりつこうとする逸の頭を叩きながら敬吾は爆笑している。が。

「んッ、」

触れるなり強く吸い上げられて否応なく声が漏れる。
こんなにも性急な触れ方をされるのはいつぶりだろう。初めてかも知れない。

強く吸われ、執拗に転がされて甘く声が漏れる。
先程まで敬吾が持っていたはずの主導権も逸にない余裕も一瞬にして消え去ってしまっていた。

「やぁ……、んもー伸びたらどうすんだよお前………」

それでも悔しくて憎まれ口を叩きながら逸の肩を押しやると、逸は素直に顔を上げるが濡れたその胸の先をすぐに指先で摘まんだ。

「んぁッ、……」
「……敬吾さん、乳首こんな感じんの？すげえエロい……」
「やっもう強いって、痛い！」
「勃ってるじゃないですか」
「うるせ………」

それでも敬吾の言葉を聞き入れたのか逸の指は優しく、そしていやらしく蠢く。
そうなると今度は乱暴さを責めることもできなくなった。
ただ甘く強い快感に敬吾の呼吸は熱く速くなっていく。

そうしているうち逸の指が離れ、敬吾がその余韻から逃れられないうちに逸の手は敬吾のバックルに掛かった。
ジーンズも下着も乱暴に下ろしてしまうと、逸はなにか言うでもなくそこに顔を寄せた。

敬吾のそれが口に含まれる寸前、喉の鳴る音だけが響く。

「っ………」

いつもとは違う逸の興奮、焦燥を見ていられずに敬吾は目の上に腕を置いた。
その奉仕のやりようも、どうにもいつもより──必死で、どこか味わっているようで。
快感とともに、切ないような痛みが混じる。

長くそうして丹念に舐められ、敬吾は少し泣きたくなっていた。

「──逸、なあ……もういい、出る……」

切れ切れに敬吾が言うと、意外なことに逸は素直に頭を上げる。
その顔は無論興奮に満ちているが、驚いているようでもあった。

「──敬吾さん、今俺の名前呼んだ？………」
「へ………？」
「──名前知ってたんだ……」

蕩けそうな笑顔でそう言われ、敬吾がまた言葉を失っている間。
逸はまた嬉しげにそれに唇を寄せ、敬吾が我に返らないうちに激しく攻め立てて果てさせてしまい──やはり嬉しげに、放たれた熱を飲み込んでしまった。