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TrashWorks 13
しおりを挟む「──んん、……………!」
弓のように撓った敬吾の腰を膝に載せ、骨盤を取った逸が腰を進める。
熱の塊が自分の中に分け入る慣れた圧迫感に敬吾はそれでも耐え難く仰け反った。
更に張り詰め、必死な呼吸に蠢く腹を撫でながら逸は最後まで飲み込ませると毒々しく笑う。
「……敬吾さん」
「──…………」
「入りましたよ?」
お望みどおりに、とでも言いたげな笑いを含んだ逸の声に、仰る通りのその充足感と羞恥心、快感から敬吾は何も言えなくなる。
ただ繋がったそこを細かに揺するように腰が小さく震えるだけだった。
「こんなとこ……」
誰も知らないでしょうね、と続けようとして逸は言葉を飲む。
敬吾が正気に戻ってしまったら元も子もない。
栗屋が敬吾をこういう視点で見ていたとは考えづらいし──せいぜい、昔の後藤の頭の中にはいたかも知れないが──だとして、実物がこんなにも淫らで可愛らしくて感じやすいだなんて考えも及ばないだろう。
好き放題に繰り広げられた逸の妄想ですら全く届いていなかったのだから。
それでもその確信を裏打ちしたくなった逸は敬吾に伸し掛かり、見事に快感に沈んでしまっている意識に問いかける。
「……敬吾さん」
「っ、………」
「……敬吾さん?」
「ん、ぅー……」
言葉も忘れてしまったらしい敬吾は、返事をするだけでも一苦労だった。
自分の名前までもが性感帯になってしまったようで、文章を組み立てるような呼吸ほどに簡単なことすらもうできない。
「……気持ちいい?」
「いい……」
「これ……好き?」
「ンッ……!!」
じくりと揺すぶられ、小さく仰け反ってから泣き出しそうな顔を今度は俯けると敬吾は浅くて速い呼吸を繰り返す。
「敬吾さん、今のなに……中どうなったの?嫌い?」
未だ言葉は散らばって形に出来ないが、敬吾はそれには純朴に首を振った。
「じゃあ好き?」
「すき……」
「中どうなってるの」
「ばか……」
「なんで?俺分かんないですもん、教えて」
「や……」
感情が消えたかと思うほど低まった声で囁かれながら下腹部を撫でられ、敬吾はまた首を振る。
「………おれだけ」
「うん……?」
──お前だって、自分だけが知っているものを確かめたいと言った。
「……そこ、は、俺だけ──」
「──────」
愛しげな半眼に落ちていた逸の瞼が見開かれる。
驚きに満ちた瞳がぎらぎらと熱を帯び始めるのを、敬吾は唸る山鳴りを聞くような、為す術のない静かで圧倒的な熱に気圧されるような気持ちで眺めていた。
──そしてそれが臨界点を迎えた時には自分など取るに足らない木っ端のようなものなのだと、目眩のするような軽微さを自覚していた。
「──い、いち……、?」
それでもやはり、ただ一瞬で熱に飲み込まれるだけと知ってはいても恐ろしくない訳ではない。
明らかにその時を迎えようとしている敬吾が注視する逸はただ一言、「もう知らない」と言った。
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