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TrashWorks 7
しおりを挟む「あ、お疲れ様ですっ」
「お疲れ様です」
休憩室で鉢合わせた逸にも、栗屋は作り気の全くない自然な笑顔を向けた。
営業スマイルだとしても本心だとしても、尊敬の念を禁じ得ない完璧な笑顔だった。
悪意などひとつも伝わらない、こちらまで微笑んでしまうような笑顔と声音。
それだから逸としても不必要な沈黙に逃げる気になれない。
「あ、クーポン有難うございました。伺えるかどうかはちょっと……微妙なんですけど」
その消極的な会話ですら、栗屋はきちんと逸を見上げてみせ、自動販売機の小さなカップが満たされるうちにまた、きちんと理解しましたよとでも言いたげな笑顔を見せる。
「全然っ、お時間ある時で!ここの方たち皆さん素敵ですけど、特に岩井さんのところのスタッフさんは凄いですよね!皆スタイル良くて憧れます」
「あー、そうですね……背は皆でかいです」
ごく一般的な体格の敬吾ですら小柄扱いをされてしまう面々なのだった。
「僕自分がこんなんなので。同じような体格のお客様の相談に乗るのも好きなんですけど、やっぱり背の高い方には憧れがあって。なんか熱入っちゃうんです」
「はあ……」
「スタイル良いとそれだけで様になるから、ほんとは僕のアドバイスなんて要らない気もしますけどね──」
栗屋の苦笑に、本日もジーンズにシャツにパーカーという出で立ちの逸は思わず口を挟んでしまう。
「いやいや、敬吾さんとかすげぇ有難かったって言ってましたよ。なんか服選ぶの苦手みたいで似たようなのばっかになっちゃうっつって──」
────あれ?
「──本当ですか!」
「えっ、はいっ」
「良かったー!ほんとテンション上がり過ぎちゃって、たくさん買って下さったからもしかして無理に押し付けちゃったかなぁとかちょっと思ってたんです──」
「──あ、ああいやいや、ほんと喜んでましたよ……来シーズンまで行けるかもとかって……」
これは、売る側の栗屋には何の得もない発言だったか。
逸がそう思う一瞬にも、やはり栗屋は屈託無く嬉しげに笑ってみせた。
「ほんとですか!!?スタイル良い方は流行りに流されなくて済むのも凄く良い点だと思うんですよ!似合うものを長く着られるのも羨ましいですっ」
「──あ、はあ……」
「岩井さんも是非、流し見だけで結構なのでいらしてくださいっ」
「は、はい……」
「あ、ではっ失礼しますねー」
休憩室まで呼びに来たスタッフにもぱたぱたと笑顔を向けつつ、甘そうなコーヒーを持って栗屋は出ていった。
さっき休憩室に来たばかりだと思うのだが──忙しいのだろうか。
たしかに彼ならば指名があっても不思議ではあるまい。
いつの間にか自分がフォローに回ってしまったこともきっとその理由の一端なのだ。
一層ややこしい気分になってしまって、逸は珍しくブラックのコーヒーを啜ってみていた。
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