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安心させて 9
しおりを挟む(…………………ふつうだ。)
──情事の真っ最中、そんな感想を抱くのもいかがなものかとは思うが。
決して内心貶めているなどというわけではなく、むしろ歓迎することだった。
この男のことは好きだし抱かれるのも嫌ではない、どころか気持ちも良いが、それ以上のことに付き合わされるのは遠慮したい、と敬吾はしみじみ思う。
それが純粋な快感である限りは、少々羽目を外し過ぎていても許容するつもりだがそうではなく──
(オプション……?)
「敬吾さん、」
「んぇっ!?」
驚いて瞼を上げ切ると、逸は敬吾の胸に埋めていた顔を上げ、何やら恨めしげに敬吾を見上げていた。
「…………なっ、なに」
「何考えてます?」
「えっ、」
「考え事してたでしょ」
「え……………」
──考え事、と言うか、考えざるを得ないこと、と言うか。
と言うか──、分かるのか。
「分かりますよ」
「えっ!?」
「…………。分かんのかよって思ったことも分かりますぅ」
「…………………」
むっと頬を膨らませ、逸はごつりと顎を置く。
驚愕に満ちていた胸に追撃を食らう形になった。
「それほんとへこむんですから。今日気持ちよくない?」
言いながら顔を俯け、視線は敬吾を仰いだまま、逸はすぐそこにある突起に舌先を伸ばす。
「あ………っ」
触れられた途端蕩ける表情を引き攣る視線で眺めながら強弱を付け、その変遷を見届けて、完全に顔を埋めて吸い上げた。
そうしてまた不機嫌そうに顔を上げる。
突如快感から開放されて敬吾は大きく呼吸をしていた。
「またでしょ?」
「………………っ」
──そこまで分かるくせに。
一方で、嫌になるほど感じさせられているのも本当なのだとなぜ分からない。
敬吾は追い詰められたように顔を顰め、悔しげに拳を握った。
「敬吾さん、気持ちいい?」
「…………っだから、……!」
──分かっているんだろう!
とは言えず、敬吾は歯を食いしばる。
抜けてしまいそうな際から一番深いところまでを何度も抉りながら宣う逸が忌々しい。
そんな──敬吾の好きな──動き方をしておいて、確信犯でないわけがないのだ。
それなのに逸の声も表情も決してからかっている時のそれではない。
真摯に、もっと言えば少々不安げに、逸は敬吾の応えを待っていた。
揺さぶるのはやめないまま。
「っあ………」
それだから、遠くなっていく問いかけよりも絶え間ない快感の方が敬吾の意識を埋めていく。
その陣取りがもう覆せないところまで進んだ頃また逸が旗色を変えた。
「敬吾さん、ねえ……気持ちいい?俺とするの、好き?」
「っう、もお……っ!なんなん、だよ………っ」
「………………」
「んぅっ!」
勢いよく貫かれ、そのまま奥を突き上げられて敬吾が悲痛な声を上げる。
どう見ても溺れきっている──と敬吾自身も逸も思っていたが、それでも逸は言葉を欲しがった。
「敬吾さん」
「っばか!」
敬吾は幼稚な抗議しか出来なかった。
なにせ敬吾の意識を取り合う勢力の本丸はどちらも逸だ。
片や快楽に溺れさせ、片や理論で語りかける。
敬吾はただ蹂躙される戦利地でしかない。
逸としては、思っていた。
ここまで蕩けて感じているのだから、そう言ってくれてもいいのにと。
不安に思っているわけではない、敬吾は本当に溺れてくれている。
だが──
「っふ……………」
ゆっくりと治まっていく快感に、敬吾はいっそ安心したような顔をして呼吸を整える。
ひたりと根本まで飲み込ませて敬吾の顔の横に腕を突き、逸も静かに敬吾を見下ろした。
甘えてくれるのも嬉しいが。
「気持ちいいん、ですよね?」
「っだから、分かってるくせにっ………!!」
「はい、でも」
「なんだよっ────」
敬吾の腕が顔に乗り、鼻より上は見えなくなった。
「褒められなきゃ、俺今日多分イケない」
「──────」
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