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安心させて 5
しおりを挟む「敬吾くんと逸くんって、どっちがその──」
「ああ、っと──」
低空飛行な表情ながらも食いついてくるような柳田の勢いに、敬吾は少々面食らっていた。
穏やかだが同時に率直な人物でもあるらしい。
そして、聞かなければ立場はいまいち分からないらしいということに妙に安心した。
「……上か下かって言う?」
「えーっと、うん」
「どうしたんですか突然」
明瞭には答えないことで己の狡さを再確認しながらも、敬吾は気遣わしげに問い返す。
世間話にこんなことを口にするほど、柳田は軽い人間には思えなかった。
「えーーーっと……ですね」
徐々に恥ずかしくなってきたらしい柳田が赤面する。
その顔が自らの暴走を見て苦笑し、肩が縮まるのを敬吾は微笑ましく眺めていた。
年上相手に失礼な話だがリスやハムスターでも見ている気分だ。
「……敬吾くんもストレートだって言ってたし、なんかこうそういう場合って……やっぱ尻込みされたり、するものなのかな、と」
「ん?」
──される?
「あれ、柳田さんが戸惑ってるってことではなくて?」
「うん?うん、俺は全然っ、」
と、言ってしまってまた恥ずかしくなったのか柳田は俯く。
今度こそ声を立てて笑ってしまいながら敬吾は手を振った。
「そんな恥ずかしがんないでください」
「いや、やっぱ変なこと言ってるよねぇ俺……、敬吾くんにも申し訳なくなってきちゃった、ごめんね」
「全然ですから!気にしないで下さい」
むしろ少し喜ばしく思っている。
自分と全く同じ状況の人間というのはこれまでいなかったし、それがこうも和やかな人物なのも、そんな人が後藤を好いてくれていることも。
「て言っても俺もそんなに参考にならないと思いますけどね………」
好色どころか絶倫と言ってもいい逸の──そのくせ呑気な──顔を思い出し、額を押さえて敬吾は項垂れる。
「いやいや!話聞いてもらえるだけで十分だよー」
心底そう思っているらしい柳田のために思い返してみるうち、敬吾は半ば落ちていた瞼をぱちりと開いて視界を晴らすように瞬いた。
「──あれ?でもこっちもそうだったかもしんないです」
「へ?」
「最初の頃……」
「え、本当に?」
「はい、えーっと」
──なんだったっけ。
「………なんか妙によそよそしくなった時期があったような」
会話の上では恋人同士ということになっていたが何の進展もない、ただの先輩後輩、というだけのような時期があった。
それまでは強引も強引に押しまくっていたくせに。
その平穏さは、敬吾の方が「お前って俺に興奮したりすんの」とぽろりと聞いてしまうほどだった──。
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