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SugarCat 3
しおりを挟むとりあえずは夕食を取り敬吾にお茶を出すと、逸はごそごそとクローゼットの中を探り始めた。
今日まで逸が忘れていたのなら自分が早く思い出して処分しておくべきだった、と敬吾は悔やんでも悔やみきれない。
かさかさと軽いビニールの音に続いて、ブリスターパックを開ける音。
取り出した物を手早く整えると逸は昂揚しながらも緊張したように、畏まって敬吾の方に振り返った。
「これを………!付けて欲しいんですけどっ…………!!」
「……?」
綺麗に揃えた膝と敬吾の間に逸がそっと置いたのは、暗いブルーグレーのフェイクファーの何か。
くるくると巻かれているのでマフラーか何かかと思うが、それには嵩が足りない。
一体何なんだ………
敬吾が心底訝しげに手を伸ばす。
逸の背筋がぴりりと伸びた。
たまたま手にしたところは端だったようで持ち上げればするすると長く細く伸びていくが、最後だけは妙に重かった。
「?」
その最後の素材はシリコンらしい。
色はパステルカラーで可愛らしく肉球など描いてあるが、──どうにもその、形が。
簡略的に雄器を模しているような──
「…………はあああ!!!?」
敬吾が驚愕の叫びを上げると同時、逸は見事な座礼を決めていた────。
「なんっ…………なにっ────つける!?どこに!??」
「…………しっぽなんですこれ」
「ふざけんな顔上げろコラ!!!」
──だよなあ…………。
敬吾の反応は逸の想像とほぼ完璧に重なるものだったが、逸はそれを聴覚でしか確認できなかった。
逸が恐ろしくて見られない部分で敬吾は、愕然と顎を落とし羞恥と怒りから顔を赤く染めている。
「絶っっ対やんねえ!」
「…………ですよね」
蛇蝎のように放り出されたしっぽをくるりくるりと巻き取って、肩を落としながらも逸は思いの外素直にそう認めた。
「じゃああの、代わりっちゃなんなんですけど……」
「今度はなんだよ………」
落ち込んでいるようではあるものの厚かましく、逸はまたビニール袋の中を探った。
「これはどうでしょう………」
取り出したのはしっぽと同じ色の、猫の耳がついた細身のカチューシャ。
可愛いと言うよりはシャープで現実的な作りである。
「…………。…………おらよ」
それをまさに猫さながら乱暴に奪い取り、敬吾はいかにも面倒そうに装着してやった。
そのまま睨めつけてやった逸も流石にこれを可愛いなどとは言うまいが。
「敬吾さん………可愛いんですけど、もうちょいこう良い感じの雰囲気で」
「うっせえよバーカ」
言うなり敬吾は忌々しげに耳を取り、逆に逸に引っ付けてやった。
「つーかな!そもそも俺のせいじゃねーし、姉貴来たのも」
「はい」
「肩揉めとか、なんか奢れとかなの俺が言ってんのは!」
敬吾に窘められ逸が項垂れると、適当に付けられた耳がずり落ちて本当に落ち込んだ動物さながらになる。
その耳をしょんぼりと外して傍らに置くと、逸は改めて敬吾を見た。
その眉は下がっているが、視線が妙にまっすぐ強くて敬吾は少し後ずさる。
「……でも絶対似合うと思うんです」
「──や、それは関係ない……だろ」
──ないよなあ?
逸の視線にやや不安になってしまい、敬吾は僅かに首を傾げた。
似合うものなら全て身に着けなければならないだなんて法はあるまい。
ゆっくりそう確認して安心し、敬吾は頷く。
逸からの異論もないので納得してお茶を飲んだ。
敬吾のその、無理に安心しようとしているような仏頂面を、逸は何か物言いたげに見つめていた。
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