217 / 345
再襲 2
しおりを挟む「あっすいませんっ」
照れ笑いをして包丁を置き、手を流しながら逸が言う。
「ほら、最近バタバタしてたじゃないですか」
「ん?ああ……そうだな」
耳半分に聞きながら、天ぷら粉を溶こうと敬吾がボウルに手を伸ばすとその前に逸の腕がそれを胴体に縛り付けてしまった。
「うぉ、何………」
「久しぶりに敬吾さんとゆっくりできるかなって思ってたんです」
「────」
「……明日は、一日一緒にいてもいい?」
「…………………」
掠れた声と唇が耳を擽り、返事も忘れて敬吾はそれに浸ってしまう。
確かにここのところ慌ただしかった。
それでも飽きるほど一緒にいることには間違いないはずなのだが、どうしてこう──
「──敬吾さん?」
「んっ?」
「ダメでした?」
「えっ、……あ」
訝しげだった逸の声が少し悲しげに曇る。
慌てて首を振ると軽く頭突きを食らわせる形になって、敬吾はまた焦り、逸は微笑ましげに笑った。
「い、いや……いいけど……」
言いづらそうな敬吾の応えに嬉しそうに笑って、逸が敬吾の額に唇を押し当てる。
「えへへ」
「………………っ」
子供のようにあどけなく笑った逸は気恥ずかしそうにやや赤くなっているが、再開された夕食の準備はやはり滞りない。
表面の平静は装っていても、動揺してしまっているのは敬吾の方らしかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
97
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる