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後藤の躊躇 5
しおりを挟む「……俺はさ」
「────」
「やめといた方がいいと思う」
淡々とした後藤の声と表情に、覚悟はしていたはずだが柳田は動揺する。
幾通りも、主に悪い返事を重点的に思い描いてみてはいたがそのどれもを凌駕する悲しみが冷たく胸に広がった。
それをなんとか飲み込むも、声は震えてしまった。
「……理由を聞いてもいい?」
「………………んー、」
薄く唇に当てていたコップから微かに瞳だけを上げ、またそのまま目元だけをしかめて後藤が唸る。
「……なんつうか、俺にヤナはもったいないと思うよ。もっと良い子いるだろ」
「それが理由?」
「一言で言えばな」
「……………俺は」
テーブルの下で拳が握られたのが後藤にも分かるほど、柳田はぎゅっと体に力を込めた。
話が全く噛み合っていない気がして、心情としても理屈の部分でも座りが悪い。
「そういうことは何も考えずに後藤くんのことを好きになったよ」
「………………」
「──そういう風に俺のことを気遣ってもらっても今全然それは揺れなかった」
すっかり落ち着いて年上らしい音程になった柳田の口調を、後藤は苦々しいような叱られているような気分で聞いていた。
「……ので、今のところは……納得できかねます」
「……んーーー……」
考えていることを言葉にするのは得意ではなかった。
今それをひしひしと再確認しながら、後藤は煙草を吸えないことでも僅かに平静を欠く。
「んじゃ次な。俺長いこと片思いしてたのがちょっと前に振られたって言ったろ?なんかまだ次行く気になんねえんだよな。そんな半端なのヤナだって嫌だろ」
「その人のことがまだ好きだからって言う……?」
純朴な様子で問われて、後藤は冷静に心中を浚い直す。
こうして柳田のなんでもないような声や表情にするりと落ち着かされてしまうことはよくあった。
まるであやされているようだと自分でも可笑しくなってしまう。
「いや?それはない。ガッツリ振られてるし、あっちは恋人いるし」
「そっか……」
ほっとしたように小さくそう言った柳田の顔が少し赤らんでいて、後藤は初めて、今話していることの実体を見た気がした。
何せはっきりと口にされるまでは柳田の気持ちなど全くもって気づいておらず、青天の霹靂もいいところだったから実感が湧きづらい。
純粋な好意を向けられることに慣れていないせいもあるかもしれないが。
「……えっと」
また少し昂揚した声で、意を決したように柳田が言う。
「ごめん、それなら俺は、全然大丈夫と言うか気にならないと言うか」
「えー本当にぃ?」
「あのね後藤くん」
今度は諭すような、願うような声音になって柳田は背を伸ばし、頼むからこれで伝わってくれと真っ直ぐに後藤を見つめた。
気遣ってくれるのは嬉しいし、後藤のそういった意外なほどの優しさも大好きだが、それで困らせてしまっては心苦しいだけだ。
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