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来ちゃった! 4
しおりを挟む「はぁっ……もーダメだ、腹いてぇ──……」
やっと敬吾の笑いが収まって目尻を拭う頃になっても、逸はまだ納得行かない様子で口の下に皺を寄せていた。
「お前らなー、母さんが怒んないからって同じことすんなよ!次やったら兄ちゃん本気で怒るからな」
「はーい」
「イエーイ」
「イエーイってなんだ」
もはや疲れ切っているらしい逸は言葉にも力がない。
岩井家のヒエラルキーはお母さんが頂点のようだ。
「んじゃ兄ちゃんち行くぞー。敬吾さんにもちゃんと謝ってさよならしなさい」
「えっ!けーごさん一緒に来ねーのー?」
言うなり大樹は逸に頭を張られた。
「これ以上迷惑かけんなっつーの!かくれんぼの時点で兄ちゃんの冷や汗やべぇんだよ!!」
「えーっ、けーごさんもご飯食べよーぜー!」
「いちにーのご飯おいしいよ?」
百合まで加わってしまい、逸はがっくりと頭を垂れる。
逸は驚くほどきちんと「お兄ちゃん」をしているが、子供のエネルギーというものは桁違いだ。
全くもって歯が立っていない。
困り果てて、そうしていないと倒れてしまいそうだと言わんばかりに手を腰に置いている逸は気の毒でもあるが──
──からかいたくもなる。
「うん、じゃあご馳走になろうかな」
「「やったーー!」」
逸は、がくりと顎を落としていた。
「お前らなあ……初対面の人にワガママ言うんじゃないの……」
「けーごさんいいって言ったじゃん!」
「無理して付き合ってくれてるの!」
「いやいや無理じゃねえって」
「ほらー」
「もー……気ぃ使わせてほんっとにー……」
兄の疲弊ぶりは気にする様子もなく、双子は逸の両手に片方ずつ手を繋いだ。
逸も当然のように受け入れてエレベーターへと向かう、その後ろ姿が微笑ましい。
「いちにーんち何階ー?」
「4階ー」
特別主張もしていなかった百合も加わって双子が一緒にボタンを押す。
逸はなんともなさそうに見やっているが、敬吾は少し微笑んでしまった。
「夕飯何食いたい?」
「おれカレー!」
「あたしポトフー」
「からあげ!」
「野菜炒めー」
「多いよ!リクエストは一人いっこまでっ」
「「えー」」
逸に窘められ、双子は考えながらエレベーターを降りた。
部屋に入ってもまだ考え続けている。
「あっちの部屋にランドセル置いて手ぇ洗えー」
「あっはい!俺オムライス!」
「聞けよ」
「あたし、野菜のお肉巻き!」
「聞けって……」
「俺ささみフライー」
「えっ」
ぱたぱたとランドセルを置きに行った双子の背後で、逸は敬吾を振り返っていた。
「えっなに俺リクエストだめなの?」
「いっいえいえ!!」
兄の顔になったり戻ったりで逸も忙しい。
それが楽しくて敬吾は内心笑っているが敢えて無表情を貫いた。
双子がまたぱたぱたと戻ってくると逸はまた兄の顔に戻る。
「あー、じゃあお前ら先に買い物行くぞー、材料全然足りない」
「はーい。けーごさんも行くんでしょ?」
「行かないの!兄ちゃんとお前らだけ!」
「えーじゃあ俺けーごさんとここいるー」
「あたしもー」
「だーめーだっつーのもう!」
左右から抱きつかれて、敬吾としては悪い気はしない。
双子に振り回された挙句敬吾にはにやりと笑われて、逸は拗ねたいような気分になっていた。
「……じゃあ大だけでも俺と来い。」
「えーっ!」
「ガチャガチャやらせてやるから」
「行きますけど」
「ぶはっ」
頬を膨らませつつもさっさと離れていく大樹に敬吾は噴き出すが、逸は呆れきっている。
「敬吾さんすみません、百合は少なくともバカなことはしないんで……」
「うん」
「ほんっとすみません!即行で帰ってきますーーー……」
言いながらも逸は大樹に引きずられていった──。
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