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逃亡、降伏 3
しおりを挟む「……良かったのか?友達」
「はい、あんまりテンション上がんなくて……盛り下げてましたしね、俺」
──あなたのせいで、とでも言いたいのか?
半歩ほど前を歩く逸の肩を見ながら、敬吾はやや斜に構えた考え方をしてしまう。
なぜこう毎度毎度有難くないタイミングで現れるのだ。犬の勘なのか。
逸は逸で、この人混みなら手を繋いだところで誰も気にしやしないのではないかと呑気に考えていた。
手を引かれるのは御免こうむるが、近くにいる人間は次々変わるので会話は問題なさそうだ。
少し難しい顔をして敬吾が口を開く。
「お前さー……なんか誤解してねえかー」
「はい?」
逸が半端に振り返るが、止まるわけにもいかないのでまたすぐ前を向く。
「誤解?」
「だからー、……またなんかあったんじゃねえかとかー、」
「………………」
街の中心部から離れるに連れ、人影は一気になくなった。
喧騒もまるでシャッターを下ろしたように遠く小さくなり、街灯がぽつぽつ立っているだけの狭い道路で逸は体ごと振り返る。
「そんなことは思ってませんよ」
敬吾に一歩近づき、逸はその指先を握った。
「……単純に寂しかったんです」
「────」
言葉を失った敬吾の指を掴まえたまま、逸は振り返って歩き出す。
曲がり角から人がやって来た途端柔らかく離れる指の物分りの良さがまた、敬吾の喉を詰まらせた。
「なんか冷えてきましたね。温かいの淹れますか」
「うん……」
話してくれるでしょう?とでも言いたげに、逸は直接的なことを言わない。
声音も過不足なくいつも通りで、信頼への対価を求めているようだ。
全く、従順なふりをして強かな男だ──
逸からコーヒーを受け取りわざとらしくため息をつくと、逸は嬉しげに微笑んで首を傾げる。
何もかもお望み通りか。
とりあえずはリビングへ移動してベッドに腰を下ろす。
それでも敬吾が言い倦ねていると、逸はしばらくゆっくりとコーヒーを飲んでいたがそのうち目に見えてそわつき始めた。
危うい手元でカップを置き、横ざまに敬吾の腰を抱く。
「うわ、ちょっ」
「充電切れそうだったんですもん……」
拗ねたような言い方をする辺りまだ余裕はあったようだが、それでも逸は敬吾の首筋に唇を付け、嗅ぐように深く呼吸をする。
素肌の腹を撫でられて敬吾の背中がざわりと縮んだ。
──そうして、先日抱かれたときのことを思い出してしまう。
またぞくりと熱が走った。
「あ……待て、ちょっ……」
「んん……」
逸の手はそれ以上際どいところに進みはしないが止まってもくれない。
そんな浅い愛撫だけで、ただ純粋な熱が過剰に溜まってしまう。
「待って、いわい、」
返事がない代わり、逸の呼吸は切なげに上がっていく。
それに呼応して敬吾の鼓動もまた速くなった。
逸の手が、徐々に上がっていく。
──求められている。
「っあ……」
応えたい、とは思うのだが──────、
「…………っごめん!!やっぱヤダ!!!!!」
敬吾は、逸の肩を思い切り押しやってしまっていた。
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