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襲来、そして 2
しおりを挟む「やっぱいるじゃん!なんで早く出ないのよー」
「──いや、トイレ行ってた……つ、ぅか……なにそれ………………」
玄関先では、ぷりぷりと頬を膨らませている桜に敬吾が対峙していた。
その敬吾は呆然と顎を落としている。
──なぜなら、桜の腹がこんもりと膨れていたから。
「えっ!!?……………えっ!???」
「七ヶ月でーーす」
「はぁーーーーー………??」
一言たりとも聞いていない。
敬吾の驚きぶりを見て、桜は心底満足げに笑っていた。
これがしたくて訪ねてきたのだろうかと思うものの、敬吾の訝しげな目は桜の持っている大きな荷物を睨む。
「めでたい……けど……その荷物なに………?」
途端に、長く引き伸ばされていた桜の唇がきゅっと収束した。
全力で、不機嫌です!と主張している。
「マサと喧嘩した!しばらく泊めて!」
「………………。」
──頭痛がするようだ。
敬吾が額を押さえているうち、桜がまた楽しげに笑う。
「ねえねえいっちーは?呼ぼうよ!」
「……………ちょーーど遊びに来てますけど」
「えぇっ!?ちょっと何早く言ってよもうっ!」
言うなり桜は敬吾を押し退け、荷物も持たせて、妊婦とは思えない機敏さでリビングへと入っていった。
さて、逸のクールダウンは間に合ったのかどうか。
相当がっかりしていたようだから大丈夫だとは思うが。
さっそく暴風域になっている台風の目付近へと、とりあえずは敬吾も向かっていった。
バッグを置きながら敬吾が覗き見ると、逸の顔は思ったより明るかった。
「すげえー……!何ヶ月ですか!?」
「七ヶ月だよー」
「ふわあ……!おめでとうございます……!!」
「えへへ、ありがとうー」
感激しているらしい逸の祝福に嬉しげに応えた後、桜はわざとらしくその笑顔をやさぐれさせた。
「これこれ、普通こうだよねぇ妊娠報告したときって………。やっぱいっちーはいい子だなー……」
無論それは敬吾に向けられている。
「そりゃ報告も普通だった場合だ」
突然大きな腹で押しかけられ、借金の取り立てのようなことをされては、と敬吾は無言で桜を見返した。
「んで?泊まるってなんだよ。いつまでいる気だ」
「えっ、」
「ずっといる。」
「えぇっ!??」
やはりこれでもかと驚いている逸はとりあえず置いておき、敬吾はさらに冷たく桜を見る。
「ダメ。」
「ご飯とか洗濯とかやるよ!」
「間に合ってる。妊婦が家出なんかすんなって」
「家出……?」
「……正志さんと喧嘩したらしい」
「ありゃ……」
逸には心配そうに見つめられ、敬吾には窘められて桜は拗ねたように俯いた。
「……なんかあるとお腹張るんだもん」
「…………………」
「……お医者さんにも、ストレスのない環境にいて下さいって言われたもん……」
「…………………。」
こと妊娠出産となると、格段に発言力を失くすのが男の悲しいところであった………。
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