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後藤の受難 3
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「人助け…………?……あーさっきのね。そういうわけじゃねえけどさー、ああいうヒョロいのとか女の子が絡まれてたら放っとくのも後味悪いだろ。俺割って入るだけで大体解散になるし」
「へー」
確かに、良からぬことをしているところにこの巨体がぬっと現れたら相当恐ろしいことだろう。
「なんだ。制裁してんのかと思った」
「ははっ!まあすることもあるよ?たまーに逃げないで絡んでくるやついるし、誰かさんに振られてこっちが苛ついてた時もあったし」
敬吾が咽ているところに逸が戻ってくる。
「ごほっ……、……間に合ったか?」
「えっ?ああ、はい」
妙に爽やかな笑顔でそう言うと、逸は後藤に向き直った。
「つーか、ほんとに俺たちなんで呼ばれたんですか?後藤さん一人でどうとでもできたでしょ」
「あのねえ考えてもみろよ、俺ひとりであんなリスみたいなの捕まえててみ?お巡りさん来ちゃうだろ!」
「あー」
「とりあえず敬吾がいれば犯罪臭は消えるかと思って」
対極の救援だったか。
「でも敬吾さんも、後藤さんといると若干インテリヤクザ感」
「なに?」
「あーほんとだ」
「はあ?」
「すみません」
「ごめんなさい」
「どうなりますかね」
「何が?」
「柳田さん」
「?」
「と、後藤さん」
「………………?」
帰りに買ってきたちまきにかぶりついたまま、敬吾は瞬き、その後首を傾げた。
逸はこれでもかと眉を下げる。
「ほんとに気付きませんでした?」
「あにが」
「完全に惚れてたでしょあれは………」
「んぇえ?」
敬吾は訝しげに眉根を寄せ、とりあえずは一旦ちまきを頬張って、難しい顔をしたままもぐもぐ言わせた。
(ハムスターみたい………)
「……………。………………えー……?あの人が?後藤にー?」
「そうですよー」
またもやたら大振りに頬張る敬吾を、逸は孫でも見るようににこにこと眺めている。
敬吾はやはり難しい顔のまま、ゆっくり飲み込んだ。
「えーー、そうかぁ?憧れられただけじゃね?あいつそういうのは得意だし」
「ほんっと敬吾さんはそれ系鈍いなー」
「あー?」
「俺ほんとは、後藤さんの連絡先教えに行ったんですよあの時」
「えっなにしてんだよお前」
逸は悪びれもせず笑っている。
「まあ断られましたけどね?て言うか断られるだろうなとは思ってましたけど…」
「お前…………」
一体何をしているのだ、この馬鹿犬は。
こんな野次馬な男だったろうかと思いつつ、窘めるような視線を敬吾が投げると逸は困ったように目を合わせた。
「だって帰る時のあの顔見たらなんかもう、応援したくもなりますよ」
「………………」
言われて敬吾は思い返してみるが、何も思い当たらない。
驚いたらしい敬吾の顔から視線を外し、全くもう、とでも言うように逸は重ねて言った。
「ちゃんとお礼がしたいって言ってたでしょ?俺にはあれ、二人で食事でもしたいです!これきっかけに仲良くなりたいです!って言ってるようにしか聞こえませんでしたよー」
「………………えーー………?律儀な人だなーとは思ったけど……………」
「ほんっと鈍いんだから…………」
そうこぼしながら敬吾にお茶を注いでやりつつ、逸はため息をつく。
敬吾が折に触れて「自分はモテない」とこともなげに言う訳を、心底理解していた。
「じゃ、賭けてみます?」
「ん?」
「俺は──上手く行くかはともかく、惚れてるに賭けます。敬吾さんはこのまま何もないで」
「賭けない」
「えっ」
「顔に出てんだよ!賭けるもんが!!」
「そんなとこは鋭いんだからもー……」
「うるせー鉄砲玉」
「うっ……下っ端………」
根に持たれていた。
「あれはー、後藤さんと並んでれば、の話ですよー、敬吾さん超オンモードだったから」
「オンん?」
「あんなに気ぃ張ってるとこ久しぶりに見ました」
「………………」
──だって、それは。
敬吾も敬吾なりに気を使う。
分かって言っているのかと思ったが、ちらりと見上げた逸の顔はむしろ機嫌良さそうで敬吾は少し驚いた。
「──で、今すごいオフでしょ?……気ぃ抜けててすごい可愛いです」
「かわ……、なんだそりゃ」
「全っ然、どっっこも、力入ってない!ってかんじ」
「………………。そりゃそうだろ。家だもん」
「んーーー、まあそうなんですけどね?」
納得はしていないようだが不満げなわけでもなく、逸は困ったように笑って首を傾げる。
どこにいるから、ではなく誰といるから、なのだと──
気づいてはくれないだろうか、やはり。
(鈍いもんなあ)
満足そうに笑って、逸は追及はしないでおこうと決めた。
「へー」
確かに、良からぬことをしているところにこの巨体がぬっと現れたら相当恐ろしいことだろう。
「なんだ。制裁してんのかと思った」
「ははっ!まあすることもあるよ?たまーに逃げないで絡んでくるやついるし、誰かさんに振られてこっちが苛ついてた時もあったし」
敬吾が咽ているところに逸が戻ってくる。
「ごほっ……、……間に合ったか?」
「えっ?ああ、はい」
妙に爽やかな笑顔でそう言うと、逸は後藤に向き直った。
「つーか、ほんとに俺たちなんで呼ばれたんですか?後藤さん一人でどうとでもできたでしょ」
「あのねえ考えてもみろよ、俺ひとりであんなリスみたいなの捕まえててみ?お巡りさん来ちゃうだろ!」
「あー」
「とりあえず敬吾がいれば犯罪臭は消えるかと思って」
対極の救援だったか。
「でも敬吾さんも、後藤さんといると若干インテリヤクザ感」
「なに?」
「あーほんとだ」
「はあ?」
「すみません」
「ごめんなさい」
「どうなりますかね」
「何が?」
「柳田さん」
「?」
「と、後藤さん」
「………………?」
帰りに買ってきたちまきにかぶりついたまま、敬吾は瞬き、その後首を傾げた。
逸はこれでもかと眉を下げる。
「ほんとに気付きませんでした?」
「あにが」
「完全に惚れてたでしょあれは………」
「んぇえ?」
敬吾は訝しげに眉根を寄せ、とりあえずは一旦ちまきを頬張って、難しい顔をしたままもぐもぐ言わせた。
(ハムスターみたい………)
「……………。………………えー……?あの人が?後藤にー?」
「そうですよー」
またもやたら大振りに頬張る敬吾を、逸は孫でも見るようににこにこと眺めている。
敬吾はやはり難しい顔のまま、ゆっくり飲み込んだ。
「えーー、そうかぁ?憧れられただけじゃね?あいつそういうのは得意だし」
「ほんっと敬吾さんはそれ系鈍いなー」
「あー?」
「俺ほんとは、後藤さんの連絡先教えに行ったんですよあの時」
「えっなにしてんだよお前」
逸は悪びれもせず笑っている。
「まあ断られましたけどね?て言うか断られるだろうなとは思ってましたけど…」
「お前…………」
一体何をしているのだ、この馬鹿犬は。
こんな野次馬な男だったろうかと思いつつ、窘めるような視線を敬吾が投げると逸は困ったように目を合わせた。
「だって帰る時のあの顔見たらなんかもう、応援したくもなりますよ」
「………………」
言われて敬吾は思い返してみるが、何も思い当たらない。
驚いたらしい敬吾の顔から視線を外し、全くもう、とでも言うように逸は重ねて言った。
「ちゃんとお礼がしたいって言ってたでしょ?俺にはあれ、二人で食事でもしたいです!これきっかけに仲良くなりたいです!って言ってるようにしか聞こえませんでしたよー」
「………………えーー………?律儀な人だなーとは思ったけど……………」
「ほんっと鈍いんだから…………」
そうこぼしながら敬吾にお茶を注いでやりつつ、逸はため息をつく。
敬吾が折に触れて「自分はモテない」とこともなげに言う訳を、心底理解していた。
「じゃ、賭けてみます?」
「ん?」
「俺は──上手く行くかはともかく、惚れてるに賭けます。敬吾さんはこのまま何もないで」
「賭けない」
「えっ」
「顔に出てんだよ!賭けるもんが!!」
「そんなとこは鋭いんだからもー……」
「うるせー鉄砲玉」
「うっ……下っ端………」
根に持たれていた。
「あれはー、後藤さんと並んでれば、の話ですよー、敬吾さん超オンモードだったから」
「オンん?」
「あんなに気ぃ張ってるとこ久しぶりに見ました」
「………………」
──だって、それは。
敬吾も敬吾なりに気を使う。
分かって言っているのかと思ったが、ちらりと見上げた逸の顔はむしろ機嫌良さそうで敬吾は少し驚いた。
「──で、今すごいオフでしょ?……気ぃ抜けててすごい可愛いです」
「かわ……、なんだそりゃ」
「全っ然、どっっこも、力入ってない!ってかんじ」
「………………。そりゃそうだろ。家だもん」
「んーーー、まあそうなんですけどね?」
納得はしていないようだが不満げなわけでもなく、逸は困ったように笑って首を傾げる。
どこにいるから、ではなく誰といるから、なのだと──
気づいてはくれないだろうか、やはり。
(鈍いもんなあ)
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