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後藤の受難 2
しおりを挟む「はぁ?」
寸分違わず、敬吾は逸と同じ反応をしてみせた。
後藤が苦笑し、逸は頷く。
三人は今、夕方のファミリーレストランで飲み物だけを囲んでいた。
「なんだそれ、後つけられたりしてんの?」
「いや、そういう感じじゃない。なんかこう……見られてんなって思うと、視界の端っこにいたりする」
「へえ」
「のが結構あってさー」
後藤は確かに女性にモテる。
モテるが、それは学生時代の話だ。
よほどでなければ、中学、高校くらいのやんちゃな人種は大体モテる。
現在の後藤は──見てくれは悪くないが、万人受けする類ではなく……下手すれば遠巻きにされる方だと思うのだが。
そうして敬吾がまじまじと後藤を見ているのを、逸は苦々しく横目で眺めている。
「で……どうしたくて俺ら呼ばれてんの?」
敬吾が本題に入った。
少々の厄介事で、誰彼呼び寄せて大騒ぎしたいタマでもあるまい。
逸も頷くと、意外なほどに後藤は困った顔をしてみせた。
やはり数の中に敬吾が入ると、その他大勢は無条件で「頼る側」に回ってしまうようだ。
その割に、後藤は「ちょっと待ってて」とだけ言って席を立ってしまう。
少々唐突ではあるが──煙草か手洗いかだろう、と逸も敬吾も気にしなかった。
そうして今回の件について大した内容もない話をしていると、背後から後藤が戻ってきた。
敬吾よりいくつか──いや、逸よりいくつか年下に見える小柄な男の子を連れて。
「いるんだよね」
「「えっ」」
「え………男?」
「そうだよ、だから君らに相談したの」
後藤に腕を掴まれて連れてこられた人物は、背丈こそ女性並みに小柄なものの色を失った顔は確かに男性だった。
「ちょっとそっち座らせてやって」
捕まえておきたいわけでもないが、なんとなく奥の席を勧め、敬吾を後藤と並ばせたくない逸は後藤とともにその向かいに腰を下ろす。
敬吾は座りながらその彼を流し見るが、どうもそういう非常識なことをしでかしそうには見えなかった。
驚いているからか上気しているが、どちらかと言えば恐縮しているような顔をしている。
「ええと……、あの──柳田と、言います」
小動物のような幼い見た目からは意外なほど、彼──柳田は落ち着いた口調で名乗ってみせた。
やはり不安そうではあるが。
意外そうに瞬いた後、後藤はごく気軽に口を開く。
「俺になんか用でもあった?」
が、柳田は緊張したように口をつぐんでしまった。
「お兄さん別に怒んねーから。言ってみ」
丸きり子供扱いである。
柳田は叱られてでもいるように肩を縮め、しばらく逡巡した後ようやく口を開く。
「あの……自分この見た目なので、よく絡まれるんですけど………以前そちらの方に、助けていただきまして──」
逸と敬吾が意外そうに後藤を見るが、後藤が一番驚いていた。
「その時まともにお礼も言えずに……もしまた会えればと思ってたんですが、生活圏が被ってたようで。今日みたいに何度かお見かけしたのに、えーーー」
徐々に徐々に小さくなっていく柳田が可哀想に思えてくる。
逸と敬吾は、つかまり立ちをする赤ん坊でも見るように今助けようかどうしようかと二の足を踏んでいた。
結局それを破ったのは敬吾だった。
「……怖くて声掛けらんなかったって言っていいと思うよ?」
「いっ、いえいえ!滅相もない!」
相当に失礼な物言いをされているものの、慣れているのか後藤は渋い顔で朧げな記憶を辿っている。
「覚えてねーな?」
「はい。」
こちらも敬吾に助け舟を出され、後藤はこっくりと頷いた。
柳田は拍子抜けしたようにぽかんと口を開けている。
「まあそんなこともあったかもしんないけど、俺覚えてないし。まあお気になさらず?」
こちらも拍子抜けしたように背もたれにもたれながら後藤が言うと、柳田は齧り付くように首を振った。
「いえっ!!俺はもうほんとにっあの時怖くて!!まさか助けてくれる人がいるなんて思ってもみなかったので感動して…………本当にありがとうございました!」
「いやほんとに……大したことじゃないって、気にすんな」
「凄いことですよ!」
「お、おぉ……」
「後藤が押されとる」
「ね」
だいぶ前から、逸と敬吾はドリンクのお代わりを頼みたくなっている。
「じゃあ──後藤は覚えてなかったけど、これで解決?」
「ああ、そうだなぁ」
「ですね」
一瞬だけぽかんとした後、柳田はまた顔を赤くして恐縮しきりに頭を下げた。
「あっ………お騒がせしちゃってすみませんでした!」
「いやいや。こっちこそ顔覚えてたら済んでた話だし。なんかかえってごめんねー」
容疑者扱いをやめるように敬吾が席を立つと、柳田は腰を浮かせながらも「何かきちんとお礼をしたいんですが」と言う。
「いやほんとよくあることだから気にしなくていーよ」
後藤が応じると、柳田は明け透けに落ち込んだような顔をした。
「あっじゃあ、ここの代金持たせてください──」
これには全員が止めに入った。
「いやいや学生さんにそんなことさせられないでしょ!」
後藤に言われると、柳田は驚きもせずに「いえ一応社会人なので」と応じる。
そして全員が、社会に出られる最も若い年齢とは、と考えだした。
なぜか恐る恐る、後藤が口火を切る。
「……えっと、何歳?」
「26です……」
「えええ年上ぇ!!?」
「えっ!!年下ですか!!」
若く見られることには慣れているようだが、後藤が年下だったのには驚いたらしい。
後藤と柳田は驚愕の表情で固まっていた。
徐々に解凍され始める後藤が、非礼を詫びる。
「うおー……すいません、なんか」
「いっ、いえいえ……慣れてるので」
衝撃冷めやらぬまま、なんとなく柳田にご馳走になることになり、その柳田は頭を下げ下げ帰っていった。
「……あれ、あの人忘れ物してる。俺ちょっと行ってきますね」
「ん?おう」
敬吾が応じる前に逸は席を立っていた。
それを不思議そうな顔で敬吾が見送り、後藤は一息ついてコーラを飲んでいる。
「しかしお前はなに、そんな人助けしてんの?」
後藤が不思議そうに片眉を下げた。
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