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「ひやーーー、逸くんのお陰で助かったよー!」

逸と同じく、定休日を利用して連休を取った篠崎は、出勤するなり敬吾の背中をばんばんと叩いた。

「ですね。店長もお疲れ様でした」
「敬吾くんもありがとねー!もう皆優秀で助かるー、特に逸くん今回凄かったです」
「そうなんですか?」

にこにこと機嫌良さそうな篠崎に、敬吾もなんとなし面映い気持ちになって笑う。

「そうだよー!なんか……」
「?」

篠崎の顔が徐々に明度を下げた。

「……敬吾くんの片鱗を見た」
「なんですかそれ」
「まあ……逸くんの方がちょっと優しいけど」
「なんで俺貶められてんですか?」

二人真顔で言い合った後、敬吾はため息をついて未集計の伝票に手を伸ばす。

「つーか、俺がどうじゃなくてそういうポジションのスタッフが必ず一人はいますよね、この店。俺の前は真帆さんだったし、その前篤さんでしょ」
「そうだねー、人材にはめっちゃ恵まれる」

恐らくはそれが篠崎の最大の能力だ。

「まあでも皆学生さんバイトだったり短期だったりで卒業してっちゃうんだけどねー、……と思ったらやっぱ逸くんて異端だよね。なんでフリーターなんかしてんだろ?何の仕事でもできそうなのに」

パソコンを立ち上げながらこともなげに篠崎が言い、敬吾は紙の束を机で揃えた姿勢のまま瞬く。
その間篠崎はまた軽い調子で「俺は助かるからいいんだけどねー」などと言っていた。

「あー……考えてみたらまあ、そうですね」
「でしょ?高校も頭いいとこなんだよねえ」
「えっ、そうなんですか」
「うん──ああ、敬吾くん地元じゃないから知らなかったのか」
「そうですね……まあどこ卒か聞いたこともなかったですけど」
「そっか。進学校なのに勿体ないよねー」
「へえー………」

またとんとんと紙を揃えながら、敬吾は考えを巡らす。

「まあ確かに馬鹿だけど馬鹿じゃない感じは受けます」
「あっはっは!すげぇ分かるそれ!」

すっかりツボにはまってしまったらしく篠崎は長いこと可笑しそうに笑っていた。
が。

「ところで店長、この伝票なんすか?見たこと無いんですけど」
「あっ、それねー面白そうなレトロ玩具の問屋さん見つけちゃって!とりあえずひとセット──」
「まーた勢いでそんなことして!この店のどこに新規のコーナー作んですか?つーかほんとに売れんの?」
「だっ、だってサンプルくれるって言うし──」
「レトロ玩具なんかほぼ雑貨でしょうが!そんなもんより水野さんと交渉して最新玩具のサンプル貰って!パッド系とかのやつ!!掛率半端ないやつ!!」
「すっ……すいません………」
「あとリボン一箱来てましたよ!平月あんな取っちゃダメでしょ、せめて半分ずつにしてもらってください!」
「はい………」




──そこへ幸も出勤してきて敬吾に加勢し、店内は、すっかりいつもの調子に戻ったのだった。
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