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「……今入れたらおれ、ぜんぜんお腹いっぱいになんないです……」
「………………」

意地悪をしているのではないらしい、切実に過ぎる逸の言葉に敬吾も眉を下げた。

敬吾が子供のような顔をすると逸は少し落ちつくのか、頬を綻ばせながら敬吾の頭を撫でる。

「……じゃあ敬吾さん、一回目はノーカンにして?俺すぐいっちゃいそうだし……それじゃ敬吾さんも満足できないですよ」
「っ……………」

あざとく甘えるような逸の口調に、それでも熱を掻き立てられて敬吾は言葉を返しあぐねた。
逸は楽しげに笑っている。

「──じゃあ、後から決めてくれてもいいですよ、敬吾さんが物足りなかったら、もう一回しましょう」
「──な、なんか……っなんだそれ…………っ」
「なんだそれって?……」

つぷりと浅く指先を埋め込まれ、徐々に徐々に挿し込まれて敬吾は一気に理性を見失った。

いつの間にか迫られていた二択と突き刺さるような快感が心を乱す。

「あーー………、凄い待ってたの分かる」
「!!ばか………っ」

その周囲だけ運動神経が途切れたかのように力が入らない。
逸の肩に腕に縋って、敬吾は必死で震える体を支えた。

目を閉じてしまうともう、逸の指にしか意識が向かわない。
少し意地悪なうねらせ方、性急な抜き差し、関節の畝の感触。

「ぃ………っぁあ、……ん────………っ」
「指だけでこんな………」

唇の端を噛んで笑い、逸は指を増やしてやや乱暴に中を拡げた。
敬吾が声もなく体を反らせる。

「すみません、入れます」
「……!っん──……………!」

ぎちぎちと強引に押し入り、熱く締め付けるその感触に逸はぶるりと腰を震わせた。
──本当に出てしまうところだった。

敬吾は悲痛に体を撓らせる。
痛みと重さと渇望の成就が、混ざり合ってしまって上手く飲み込めない。

勝手に零れる涙は逸に舐め取られて、そうしているうち痛みは徐々に引いてくる。
そうすると快感が調子に乗るように膨張し出した。
きりきりと緊張していたそこも、きちんと逸を受け止めて絡み始める。

逸はなぜか、不機嫌にも見えるほど歪んだ笑みを浮かべた。

「敬吾さん……、本当に──最高です…………」
「へ……………」

そう言うと逸はゆっくりと腰を引き、やはりゆっくりと突き上げた。

「ぁ────…………!」
「きもちいい……?」

最早何も考えられなくなった敬吾は、素直に必死に頷く。

「俺もです………」

激しい快感とともに湧き上がる充足感。
ずっとこれが、欲しかったのだ。
身を焼くような渇望が徐々に昇華されていく、甘い多幸感へと変わっていく。

自分の下で、蕩けてしまいそうになりながら必死で形を保っているこの恋人が、その圧倒的な恩恵そのものだった。

「敬吾さん…………」

頭を垂れ、その首元に顔を埋めて抱き寄せると敬吾も逸の首に腕を回す。
どうしようもない幸福感に体が震えた。

「……敬吾さん、幸せですおれ今…………」

敬吾は何も聞こえていないらしい。
全身で甘えつくように逸に絡みつきながら僅かな快感に悶えている。

そのいやらしさを助長するように突き上げて、奥に吐き出すと敬吾がぴくりと体を緊張させた。
泣き出しそうな瞳が切なそうに逸を見上げる。
逸は微笑んでその髪を撫でた。

「……………?」
「………いっ、た?」
「いいえ?」
「うそだ………」

拗ねたように瞳を伏せられ、それが可愛らしすぎて逸は激しく唇を奪う。
あどけなかった敬吾の顔が淫らに歪んだ頃に唇を解放してやり、残酷なことは分かっていて改めて問う。

「……もう一回?………」
「………………っ」

敬吾がそうして言いあぐねているうち、ふと我に返ったように瞬いた。

「敬吾さん?」
「………おまえさ………」
「はい」
「……………なんでちょっとも萎えねーの?………」
「…………………。」







「……………えーっとそれはもう………… すみません。」

逸は冗談めかしたように苦笑するが、敬吾は思慮深く顔を顰めた。

「そうじゃなくて。疲れすぎてるんだろ……」
「………………」

僅かに体を起こした敬吾に頭を撫でられ、逸は悲しげに眉根を寄せる。
敬吾が何を思っているのか、そしてそれが受け入れがたいものだと分かってもいるのに敬吾の表情があまりに真摯で心配そうで──

居た堪れない気持ちになる。

「寝なさい。このままでいいから」
「…………………」
「……………岩井、いい子だから」

俯いてしまった頭をまた優しく撫でられ、逸の情けなさはいや増した。
結局一から十まで、敬吾の優しさに甘えてしまっている。
拗ねて、わがままを聞かせて、意地の悪いことをして。
それでもこうして、許してくれている──

「………………」

──やや正気に戻ってきたらしい沈痛な逸の表情を見て、敬吾はくすりと笑った。

「……それも疲れてるからだって。ほら来い」

腕を広げられて体を寄せると、敬吾がそれを閉じ込めて体を捻る。
横倒しにベッドに体を預けると、確かに体から力が抜けて一気に安らかな気持ちになった。が。

「ん……、」
「敬吾さん──」
「いーーーから……」

額に唇を付けられると、子供のように振る舞わなければならない気持ちになる。

そのまま動きを封じるように抱き締められて、逸の手は敬吾の背中にまわす他なくなった。

「寝るぞ。おやすみ」
「ん……、はい…………」

まじないでも掛けられているようだった。
優しく頭を撫でられて灯りを落とされると、本当に眠くなる──

(あーー……、もったいないー…………)

今度こんな風に触れ合えるのはいつになるか分からないのに──
敬吾はこんな半端な状態なのに──


眠くて、体が重くて仕方がない…………
瞬き一つで意識が飛んでしまう。
何度もそれをかき集め、また手放してしまって──



自分で思うより早く、逸は深い眠りに落ちた。









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