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アクティブ・レスト 10
しおりを挟む《ごちそうさまでした。美味しかったです!》
休憩に入り携帯を立ち上げると、しばらく前に逸から短いメールが入っている。
一度帰っていたらしい──なんとタイミングが悪いのだろう、と考えて敬吾ははたと真顔に戻った。
会いたかったのだろうか。
「…………………」
思索と感情に沈んでしまいそうになったところへ、視線の途中にぼんやりと置いていた携帯が鳴り始めて仰天する。
ばくばく言っている胸を抑えつつ、敬吾は携帯を耳に当てた。
「も、もしもし?」
『あ、敬吾さん……おはようございます』
「おはよう」
『早速なんですけど、遅くなりそうです』
午前中からそれが確定しているとは。
「また何かあったのか」
『ショーケース搬入できなくなっちゃって。もう完全に手詰まりです………それに合わせて段取りも棚も組んでたんで』
「え、じゃあ…… …………どうすんの?」
『どうなるか……店長と話し合ってるんですけど、完全に行き詰まってて。ちょっと頭冷やしてるとこです』
逸の声が聞いていて痛々しい。
疲れて、乾いて、ささくれた声だ。
どうしようもなく撫でてやりたくて──
敬吾の手が、もどかしく空をふらつく。
言葉だけでもとは思うのだが、軽々しいことは言えない。
慰めであれ、傍観者に分かったような口を利かれたくはないだろう。
頑張っているのは篠崎と逸とスタッフ達で──その労働の一割も理解できているかどうか怪しいのだ。
もはや無理をするなとさえ言えない。
『えーーっとまあ、そんな感じです』
「──うん。岩井」
『はい』
「待ってる」
『?』
「今日は起きて、待っとくから」
『────』
「……じゃあな」
通話を切り、敬吾はテーブルに腕を組み顔を埋める。
逸は、呆然と携帯を眺めていた。
「やっぱり棚割から変えるしかないか」
「確実っちゃ確実ですけど、意外と早くケース来れるってなった時完全に時間ロスしますよ、そもそも違う棚割の案ないし……」
「だよね、あれをここに入れる前提で決めてたからね……」
何度も練り直した棚割は見た目こそ繕われているものの一皮剥けば継ぎ接ぎだらけで、それ以上の変更を許してくれそうになかった。
妙案が浮かんだと思えば必ずどこかに綻びが出て、選択肢はほとんど無くなっていく。
もうお手上げ、とばかりに二人揃って長い唸りを上げ、篠崎に至っては本当に諸手まで上げた。
逸も同じ気分ではあったが今日は──今日こそは、帰りたいのだ、一刻も早く。
「………っあーーーーもうじゃあ、進めましょうかこのまま!で、ケース来たら力づくで退けましょう、棚も什器も商品入ったまんまガーーって!」
「……………えっうそ逸くん本気?」
「それしか浮かばねっすもん!」
「お、おぉ……」
「じゃないと明日問屋さんたち来てくれてもやってもらえることもないしー」
「あーーーだよね、それもあったんだった」
「でも正直上手く行くかどうかは知りません!」
ぱん、と額を叩いて篠崎も気を引き締めたようだった。
「──よし、そうしよう。配線だけ気をつけないとヤバいね、既に訳分かんなくなってるから……」
「もう外しときましょう、全部タグ付けといて」
「だねえ、よし頑張ろーー」
篠崎が説明をしに行き、逸もグローブを嵌めながらそれに続く。
気持ちはもう、帰り支度を始めているのだ。
それを一分でも一秒でも早く手繰り寄せたい。
その一心で、逸はなけなしの気合を入れ直した。
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