こっち向いてください

もなか

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アクティブ・レスト 9

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「もしもし」
『あ、岩居さんおはようございます。笹木です、出勤前にすみません』
「おはよう、いいよどうした?」
『今ですね、事務局の人が来てサイジ?のことで聞きたいことがあるとかで』
「あー、なんて?」
『えーっとレンタルのワゴンが数厳しいかもしれないと』
「数減らせってか……、んじゃ俺今から行くから、それから連絡するって言っといてくれる?」
『えぇ!いいんですか?』
「いいよ、暇だったし」

部屋にいたところでできることがあるわけでもない。
手早く支度をし、炊飯器の予約だけして敬吾は部屋を出た。

「まぶしー……」

外に出ると、朝はもう少しぐずついていた気がするが今日は梅雨晴らしい。
暑くなりそうな空の青さが目に痛いほどだった。




数分後、同じ場所で同じ感想を逸も口にする。

「こっち晴れてんなー……」

ポケットからキーケースを取り出しながらエントランスをくぐり、箍が外れたように独りごちつつ逸は歩いた。

「あー……散歩とかしてえな、海とか公園とかー……」
「弁当持ってー……クレープとか買ってー……敬吾さん日焼けしましたねーっつって…………」

エレベーターを降り、またたらたらと歩いて鍵を差し込んだところで少し静止する。

「……いやできるわけねえわ」

正気に戻ったらしい。
そしてその正気はドアを開けた瞬間に、敬吾がいないこともなんとなく理解させた。

「あーくそ…………」

一応呼びかけてみるもやはり梨の礫になる。

湿ってはいるが明るく澄んだ空気がいやに暗い気分にさせて、ため息をつき逸は時計を見上げる。

「──あれ?」

シャワーを浴びて。
何か食べて。
支度をして。

「────あれ?」

──シャワーを浴びて。
急いで支度して。

指折り数えると──

「………………」

──恐らく、遅刻だ。

「やべ……、なにしてんだ俺、」

慌てて携帯を取り出すと、折よく篠崎からの着信。

「もしもし」
『逸くんおはよう。今日さ──』
「あ、いや待ってください、店長俺ちょっと遅れそうで……」
『そうなの?いや、ゆっくり出てきていいよって言おうと思ってたんだよ。ちょうどよかった』
「え?」
『ほら昨日で押してる仕事は結構片付いたでしょ。ケースの着までは他のスタッフの子たちとやっておくから』
「ああ──……」

たしかに篠崎の言うように、とりあえずは単純作業しかない。
目先のことだけ考えれば有り難い気遣いではあるが──

「──いや、大丈夫ですよ。ちょっと遅くなりますけど準備したらすぐ行きます」
『………そう?』
「はい。1時間くらいで行けると思います」
『そっか、……じゃあ、気を付けてね』
「はい、お疲れ様です」

敬吾のいない部屋で数時間休むよりも、その間少しでも仕事を進めて早いところ落ち着きたい。
その気持ちの方が強かった。

とりあえずは無理に急がなくていいので──

シャワーを浴びたら、これを食べることにしよう。

小鍋の蓋を開けてみて、逸は今日初めて少し微笑んだ。






「おはようございます、すみません遅くなっちゃって……」
「あ、岩井さんおはようございますー」
「えーっと俺どこ入りますかね………あれ?店長は?」
「それなんですけど、ちょっと大変なことになってて……今電話してます」
「え」

また嫌な雲行きだ。
逸が渋い顔をしたところへ、似たような表情の篠崎が戻ってくる。

「あ、店長おはようございます」
「逸くん、おはよう……やー参った」
「なんですか今度は……」
「U県で事故あったの知ってる?かなり大きい……道路が冠水と陥没で大変なことになってる」
「えっ、そうなんですか?」
「俺もさっき知ったんだけどね」

揃いも揃って浦島太郎状態である。

「で、まだ天気も荒れてるから渋滞が凄くて。配送車がそれに巻き込まれてるみたい」
「え………」
「いつ届くか目処立たないって……代替品用意できないかって言ってみたんだけど、あんだけ大きいのだと急には……っていうか今日でもかなり急いで用意してもらったやつだしね」
「…………………」

海外の俳優のように、篠崎は腕を組んだ後ゆっくりと顔を擦った。
大袈裟だが気持ちは分かる。
逸も同じように苦り切った気分だった。

「どーーーしよーーかね………俺もう、思考停止してる」
「俺もです………」








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