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したいこと? 10

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「──っ敬吾さん……………」

──何度も何度も呼ばれながら揺すられて、敬吾は本当にそれが自分の名前なのかどうか分からなくなってしまっていた。

あまりに熱く、心酔したような響きを含んでいて、どうも逸を通すと自分という存在が妙に高尚なものになってしまう気がする。

その瞳を通せばやたらと美しくなるらしいし、唇を通せばこんな風に震えるような響きを伴ってしまう。
現実味がないほどだった。

その浮遊感と、相反する溺れそうな快感の混沌で木っ端のように翻弄される。
文字通り必死に喘いで逸にしがみつくことでしか、もう自分を繋ぎ止めておけない。

「逸──……」
「……ん、はい………」

蕩けそうに顔を綻ばせ、逸は返事をして敬吾に口付けた。
可愛くて愛しくて仕方がない。
甘えるように伸びる舌を存分に絡み付けると、敬吾の呼吸が蕩けるように柔らかくなる。
たまらなくなって強く突き上げると、嗚咽のような、鼻にかかった甘い声が漏れた。
そのまま深く深く打ち付け、固く膨らんでいる乳首を摘むと敬吾が大きく仰け反る。
喉の奥で悲鳴のような声が押し潰されて、苦しくて涙が溢れた。

それでも逸は手を緩めず、怒涛のような快感に襲われる。
唇は解放されたが、これに抗ってはきっと飲み込まれてしまう──。
敬吾はただ身を委ねて陶酔したような声を上げ続けた。

「敬吾さん………」

ああ、可愛い………。
体を預けきって、敬吾はもうただ湧き水のように唇から声を溢れさせることしかできなくなっている。
──それでも逸は、跪きたいような気分だった。
この人を悦ばせたい。望んでいるもの全てを注ぎたい。
明らかに絶頂に迫る表情に顔を寄せ、逸は一層深く突き上げて囁いた。

「んんっ……!!」
「──敬吾さん今日、奥ですよね?気持ちいいの……」
「ん、ぁ…… あ、あ……」

捏ね上げるように擦り付けると敬吾が悲痛に顔を歪める。
絡めた指に弱々しく力が籠もり、蕩けた瞳が逸を見上げる。

「……いっぱいいけそう?」

逸に問いかけられると、敬吾の眉根が悲しげに寄せられた。

「……?」
「違、いち……」
「ん?違いました?」

今度は首を横に振る。
逸が首を傾げると、躊躇いながら敬吾は震える唇を開いた。

「敬吾さん……?」
「も、っと、奥に……きて、ほし……」
「────」

まだ震えている唇にたっぷりと口づけると、逸は体を起こしすっかり抜けてしまっている敬吾の腰を掴んで密着させる。
そのまま大きく腰を引き、思い切り突き上げた。

「やーー………!」

頭まで突き抜けるような強烈な快感に、敬吾は猫のように大きく仰け反る。
目の前が白むようだった。

その間にまた逸が抜けていき、力いっぱいに打ち付けられる。
そうして穿ち抜かれて、敬吾は激しく体を引き攣らせた。
その表情と、腹から胸にかけて精液が吐き出されるのを目に焼き付けながら逸も無理矢理なほど奥までねじ込んで吐き出す。
気持ちが良すぎて笑ってしまった。

「ああ……、やっばい…………」

吸い付くように締め上げられて質量が減る気がしない。
そのままがくがくと奥を叩くように揺すりあげると、弛緩し始めた敬吾の体がまた激しく引き攣った。
子供のように必死に抗議されて、逸はまた笑ってしまい大人しく腰を引く。
まだ締め付けられていて、抜ける時にはなんとも淫靡な音がした。

充足感がやんわりと体を押して、逸は敬吾の上に覆いかぶさった。
指を絡め唇を合わせると敬吾が眠たげな声を漏らす。

「敬吾さん………」
「んーー………」

呼びかけられて見上げると、逸はやはり今にも片膝を落としそうなほど恭しい笑顔を浮かべていた。

言わずとも触れられたいところに触れて、あんなに激しい快感を与えて、翻弄して………
主導権を握っているのは、自分の全てを掌握しているのは、逸のはずなのに。

それでどうして、そんな顔をするのだろう。

感覚的な疑問は浮かんだものの、抜け切らない快感が意識を蝕んで言葉にできなかった。
そうして敬吾が朦朧としているうちに、逸はまたその目元に口付け涙を舐め取る。
徐々に下っていって精液も舐めてしまうと、鼠径に腿にと更に唇は滑っていく。

敬吾と言えばぐったりと体を投げ出しているばかりで、それでも施される愛撫がやはり奉仕を感じさせ、敬吾の疑問はいや増した。

が、やはりまだ体が動かない………。

「いち……」

掠れているが窘めるようにどうにかこうにか声を振り絞るが、逸はそれを聞かない。
敬吾の脚を持ち上げて足首まで唇が這っていく。

「あしは……、やだって……」

見ていられなくてなんとか手の甲を額に載せる。
翳って狭まった視界の中で、逸が鋭くこちらを向いた。
厳粛なほどに精悍な顔がまた目を伏せて、足の甲に口づける。

「んー……」

敬吾が呻くとまだ押し当てられている唇が生意気に笑った。
ちらりと舌の感触がした後強く吸われてやっと唇が離れていく。

「やめろよ……、もー…………」
「ダメでした?」
「へんたい………」

逸がくすりと笑い、また敬吾の隣に横たわりながら上半身は覆い被さった。
暗くなった視界を逸の方へ広げると、唇を撫でられる。

「俺にもつけて欲しいな……」
「………………」
「あ、いや首とかでいいんですけど」

慌てたように逸が苦笑するが、敬吾としては無論そんな心配はしていない。
毛頭、頭になかった。
まだぼんやりとした表情のまま、敬吾が逸の頭に腕を回す。

逸は嬉しげに頭を垂れる──が。


ぐちりと肉の軋む音と、肩に激痛が走った。


「いだーー!!!」
「ふはっ………」

食い込んだ歯が外れる音までさせて、敬吾はぼすりと頭を落とす。
さっきまでの慇懃な表情などかなぐり捨て、逸は子供のように動転していた。
敬吾はそれを心底楽しそうに眺めている。

「っはは、またくっきり付いたな………」
「いっっったいほんとびっくりしたぁ!!」
「噛み心地いいな、お前の肩」
「なんですかそれぇ」

半泣きになっている逸の頭を撫でてやって、敬吾はその手もぽすと落とす。
今度は逸が敬吾の髪を撫でた。

「……疲れちゃいました?」
「んー、ちょっと寝る………」
「はい………」

うとうとと瞼を落とした敬吾を抱き寄せて逸も横たわるが、今の一撃で目はすっかり覚めてしまっている。

敬吾が寝息を立て始めた頃またかしずくような気持ちで体を拭いてやり、腿の付け根や脹脛に赤い跡を刻んだ。
忠誠でも誓うように。

そして、時折ちりちりと痛む肩口を撫でて笑った。
まさか噛まれるとは思わなかった──

──けれど、こうしてからかわれたり振り回されたりすることこそ、敬吾にしかされたことがないかもしれない。
敬吾もまさかこれまでの──異性の──恋人に噛み痕など残したことはないだろう。


じわりと胸の底が温かくなる。


「……今日のご飯、敬吾さんの好きなのにしますね」



小さく囁くと逸はベッドを降り、そっとタオルケットを掛けてやった。














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