142 / 345
したいこと? 9
しおりを挟む君主への奉仕のように恭しく、丁寧に逸は敬吾の服を脱がせた。
今度は儀式のように厳粛にぽつりぽつりと唇を落とされて、その度張り詰めている自分の方がまるで変態だ。
どうも納得のいかない逸の清廉さに、敬吾は赤らんだ顔を顰めさせる。
どうせ薄っぺらいのであろうその重たい表情を、さっさとひっぺがしてしまいたい。
「いわい………」
「はい」
「なんなんだよ、それ…………」
「……………それ?」
小首を傾げられ、それ、で済まなくなると何と言っていいのか分からなくなる。
最低限具体例を上げないことで敬吾は平静を保った。
「いつも通りで、いーから」
「いつも通り?」
また聞かれてああもうと敬吾が髪を掻きむしる。
「……なんかもっと雑にがっついてるだろ、大体」
「今日はそんな乱暴なことできませんー」
乱暴であることは自覚しているのか。
恥ずかしいほど赤面していながらも敬吾はため息をつきたい気持ちになる。
逸はくすりと笑って敬吾の髪を梳いた。
「気分でもないし……。今日は、しっとり」
「────」
「ご奉仕しますよ……、全身」
優しいはずのその言葉が、なぜか不穏で敬吾の口元が引き攣る。
それには気づかなかったようで逸はまた純朴げに目を見開いた。
「あっでも、敬吾さんの希望第一で行きますけどね!ちょっと乱暴なのがいいなら──」
「だからそれやめろっつーの!ほんと汚えなお前は!!」
今度は掛け値なく申し訳無さそうに笑い、逸は敬吾に口付け顔を撫でる。
するすると頬に唇に這う指が、敬吾の警戒を崩していった。
「……本当に、敬吾さんを丁寧に抱きたいだけなんです」
「っ……………」
柔らかいのに真っ直ぐな視線を受け止めきれず敬吾が目をそらすと、逸は困ったように笑う。
「でも、物足りなかったら言って下さいね」
「っだから、そーゆーのっ……」
「うん、ごめんなさい……」
言うなりそっと敬吾を横たわらせて、逸はその喉元から唇を這わせ始めた。
鎖骨へ胸へと優しく落ちていく唇が、輪郭を改めるように流れる掌が敬吾の不満をまた溶かしていく。
どんな言葉で説かれるより、この触れ方でもう、思い知らされてしまう。
逸が心底、大事に繊細に触れようと思っていることを。
それが余りに強く胸を締め付け、いっそ悲しいようで、敬吾は自分の腿を舐めている逸の髪をそっと撫でた。
──なんだか、付き合い始めた頃のような気分だった。
敬吾のことを偶像か何かのように思っていて、とにかく畏れていて、敬意と尊重をもって触れていた頃。
それは畏怖と同時に粗相をして嫌われたくないという気持ちからでもあったが、かなりのわがままを許してもらえる今になっても遜色ないものだった。
この人に、尽くしたい。捧げたい。誓いたい──。
そう思いながら愛撫を施す逸の下で、敬吾はもう自我も理性も手放して蕩けきってしまっている。
そこだけは唯一、当時と異なる点だった。
柔らかい谷間の奥を優しく──執拗に──舐めても、いつものようには嫌がらず、素直に声を零している。
こんなことは初めてだった。
よく濡れたそこももう、物欲しそうにひくついている。
「敬吾さん、指……入れますよ」
「んっ……………」
今になってそんなことを大真面目に言われる恥ずかしさに、敬吾はきゅっと体を縮めた。
数え切れないほど抱かれて、そんなによく濡らされて、入らないわけがないのに。
それでもゆっくりと挿し込まれた指は、あの熱も質量もないのに手ひどいほどの快感を産んだ。
それまでのように肌の上から染みて行くような柔らかいものではなく、生々しくて直接的で、まざまざ思い知らされる、刺すような快感。
「や……………」
「ああ……、指溶けそう」
あまりに淫猥で粘度の高い音の中で、逸がもう一本増やしますと断る。
敬吾の背中がぞくりと震え、その体が撓った。
頬を緩ませて逸がその通り指を増やすと、小さく喘ぎながらも敬吾はとろりと潤んだ瞳で逸を見た。
逸の呼吸も一気に駆け上がる。
「──もう一本……、増やさなくて大丈夫ですか?………」
首を振られてしまうと、どちらの意味なのか分かりかねる。が、手放しに強請るその瞳に逸ももう限界だった。
ゆっくりと指を抜き取り、敬吾が切なげにひく付くところへ押し入った。
その熱が、もう、焦らされていたわけでもないのに欲しがっていたことを自覚させて、敬吾は泣きたくなる。
感じすぎていた。
「あ………!あ、っ………んぅ……」
「敬吾さん、綺麗……」
「っ逸、んん…………!」
ゆっくりと穿ってやりながら、逸は泣き出しそうなほど顔を歪めて喘ぐ敬吾を見つめていた。
打ち付ける度淫らに溢れる声が、揺らぐ視線が、危なっかしい。
我を忘れてしまいそうだ。
こんな気持ちで抱く敬吾が、こんなに乱れているなんて。
「ふ………、っ?いち、?」
ゼンマイでも切れてしまったようにゆっくりと静止した逸を、敬吾が不思議そうに見上げる。
半端に埋めたままのそこがあまりにいやらしく絡みつかれていて、滲んだ敬吾の瞳があまりに切なくて、逸の意識を引き戻した。
「っあ……ごめんなさい、めちゃくちゃしそうになっちゃって………」
慌てて逸が苦笑すると、敬吾の眉根がきゅっと寄る。
心臓が殊更主張を始めて、急に息が切れる。
甘く柔らかく慣らされた体が、その言葉に反応してしまっていた。
物足りないわけでは決してないけれど、この、ゆるやかに往復していた質量が、硬く鋭く突き上げるあの感触──。
体の奥が震えて、恥ずかしくて泣きたくなってしまう。
けれど、もう遅かった。
「いち………、それでいい、から」
「ん………?」
逸の首を抱き寄せたいが、自分の膝が邪魔をする。
自ら股を開くようにその膝をどけると逸が呆然とした顔になった。
そのまま両腕を開かれ、頭を誘われてまた更に惚ける。
嗚咽のような敬吾の呼吸が、戸惑うように長いこと逸の耳朶を擽っていた。
意を決したような呼吸が飲み込まれる。
「……めちゃくちゃしていいから…………」
「────」
頭の奥から腰までなにか熱い激情のようなものが流れて、逸は敬吾を掻き抱いた。
0
お気に入りに追加
102
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺
高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる