こっち向いてください

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したいこと? 8

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「敬吾さんは?」
「んぇ!?」
「敬吾さんは何もしないの?」

急に呼びかけられて、おかしな声を出してしまった。
赤くなりつつも敬吾はむっと唇を突き出す。

「お前の話しだっただろ」
「少しも興奮しませんでした?」
「…………………」

思い当たる節がなくて敬吾は素直に考え込んでしまうが、その間逸は敬吾の素肌に触れ始めていてまた話が違ってきてしまう。

「こーーらーーー」
「んー……」

不機嫌そうに窘められても逸は手を引かない。
するすると体を撫でられ、髪を掻き分けるようにして耳元に唇が触れた。

「……ご奉仕させてください」
「っ!」

低く抑えられた声で囁かれ、敬吾が肩を縮める。
身を委ねるには少々危ういほどの震えが走って、敬吾は口元を引き締めた。

「なんだそれっ、いらねえよ………」
「敬吾さんが好きなこと、全部します」

またひくりと敬吾が止まる。

──好きなこと?

「……っそんなの無い、いらねーよ」
「え?ここは?」
「触んなバカ犬!!」
「ここも好きですよね……」
「ーーだから!」

一緒なんだよ。触られてしまえば、もう──

それが恥ずかしくて、情けなくて──

とろりと落ちてしまう瞼に力を入れ、目元を鋭く保つ。

「いらん!調子のんな!!」
「えぇーーー」
「やらかしたやつに決定権ねえんだよ!」
「うっ」

痛いところを突かれて逸が押し黙る。

「……まあ……ご主人様がいらないって言うなら」
「変な呼び方すんなボケ」
「俺割りとずっとそう思ってますよ?」
「………………。」

呆れてしまって敬吾が動かないのを良いことに、逸は引き続きすり付くように敬吾の体を撫でていた。

「俺は敬吾さんのものです」
「………っそれはもう聞いた」

顔は見えないが、これは、赤くなっている………。
そう確信して笑ってしまい、逸は敬吾の首筋に口づける。
律儀に見えないところまで下りていって跡を付け、苦笑した。

「……そんなこと言ってて申し訳ないんですけど、」
「あん」
「俺がしたくなっちゃってると言う………」
「………………。」

やっぱりそう来たか、と敬吾が呆れ顔をする。
その間も逸は擦り寄るように敬吾を撫でていて、思考能力も下降線を描いて行った。

(もうやだこいつの手……………)

敬吾の瞳が諦め色になる。

「でも、今日俺敬吾さんの言うことはなんでも聞きますから……」
「う……?」

熱をざわつかせていた逸の手が鳴りを潜める。
ふと夢から覚まされるような感覚に、敬吾は小さく目を瞬かせた。

「敬吾さんが、絶っっ対だめって言うなら、何もしません…………」
「────っ」

しおらしいその声が、本心なのかからかっているのかは分からないが────




「………………っ卑怯なんだよお前…!!!」
「ふふ、そうですか?」




後者か、ちくしょう。



にこにこと朗らかに笑っている逸に抱き締められたまま、敬吾はまた肩を落とした。




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