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したいこと? 6

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──いじめてやりたくなる。

わざわざ言いはしないがその胸中はしっかりと顔に顕れてしまっていて、逸はぞっとしていた。

──が、こんな顔はきっと誰も見たことはないだろう。
歓喜から背中に震えが走って、逸もまた笑っているような昂ぶっているような表情を浮かべた。

それにしても、両手が後ろ手に封じられているというのは思った以上に不自由なものだ。
敬吾に触れるどころか自分の顔を隠すことも肩を縮めることも出来ず、腕が腰に噛んでいるので姿勢にも無理がある。

その強張った体は快感もすんなりとは伝達してくれず、壊れたマリオネットよろしく引き攣れた。
徐々に湿り気を帯びる音も相まって、敬吾は大層楽しげに笑っている。

「………敬吾さん……」

逸が僅かに眉根を寄せて敬吾を見上げた。
その甘えているような表情と微かに開く唇が妙に淫靡だ。

あからさまなお強請りに、敬吾はからかうように啄むだけのキスで応える。
逸は必死に捉えようとするがやはり制限される体がもどかしかった。
その間も激しく擦り上げられ、僅かな身じろぎくらいしか逸には出来ない。

逸の呼吸が激しくなり、引き攣るように腹が蠢く。
伏し目がちにそれを眺める敬吾の睫毛を、逸は陶酔するように見つめていた。
それがふっと上がって視線がかち合い、逸が瞬く。

「いきそう?」
「ん、はい……」

逸が素直に頷くと、意外にも敬吾は焦らす様子もなく更に激しく扱き上げた。
苦しくも感じ入っているように歪む逸の顔を見下ろしながら今度はねっとりと往復させ、よく濡らしてやりながら、裏筋を擽り、鈴口を撫でくる。

「あー……敬吾さん、それやばい……」
「んー……?」
「えろい、きもちいい………」

素直にそう言う逸が可愛らしい。
遂げさせてやるべくそのまま擦り上げて吐き出させてやると、逸の顔はさらに耽美に弛緩した。
深い瞬きと呼吸が満足げで、敬吾が空いた片手で髪を撫でてやると一層心地よさげに微笑んで敬吾を見上げる。

お気に召したようで、なにより。

とは思うが────


ご奉仕は、ここまで。






達したばかりで敏感になってしまっているそこをまた擦られて、充足感に満ちていた逸の顔がびくりと引き攣る。

「うわ、っ敬吾さんっ、ちょっまだ──」
「んん?」
「ちょ、いやほんとダメまだ俺……っいったばっかだからっ」
「分かってるよ。だからやってんの」
「!?」
「暴れんなよ……」

にやりと笑うと敬吾は逸の肩を押し付けて体重を掛け、更に激しく扱き続けた。

「……っ敬吾さん!」

体を拘束され、あまりにも過敏なそこを強く刺激されるのは快感どころかただの苦痛だ。
逸の意思も敬吾の保定も関係なく、その辛苦から逃れようと体が暴れる。
が、ただでさえ狭い浴槽の中、足掻いたところで敬吾の手を振りほどけるほど動けるわけもなく──

そこはやはり、残酷なほど強く擦り上げられていた。

「痛い?」
「っいたくは……、ないっ、ですけどっ──」

擽ったさの極致のような、びりびりと痺れるような、体中の神経がそこだけに凝縮されているような──

──ただただ辛い。
とにかくその一言に尽きて、泣いて喚いて懇願したい気分だった。
だがもうまともな言葉にならない。

情けない呻きがかなりの頻度で堪えきれずに溢れ出す。

顰めた眉を下げに下げ、溺れて喘ぐような必死な逸の表情が敬吾の胸の底を擽った。
激しい呼吸も情けない声も、可愛らしくて仕方がない。
それは無論撫でたり慰めたりしてやりたいという可愛さではなく、いじめてやりたい、だが。

「逸……こっち向け」
「へ…………」

涙で滲んだ逸の瞳が揺らぐようにやっと敬吾の方へ向けられる。
もうその輪郭は涙で滲みきっていた。
敬吾は微笑む。

「可愛いな、お前……」
「ぅえ?っあ、も………っけーごさん…………!」

ぽつりとつぶやかれた瞬間に更に強く扱かれて、逸がまた悲痛に眉根を寄せた。
きつく閉じた瞼の端は涙が滲んでいる。

「けーごさん!もー無理っおねがいだからー……」
「お願いだから?なに?」
「う…………っあ、ん…………っ!!」

だからどうしたいと聞かれればその答えは分からなかった。
快感や射精感は欠片もないから達したいというわけでは全く無い。
この苦痛から解放されたい、ただそれだけだ。

敬吾が目元に唇を寄せてくれても、その苦痛は慰められない。
それどころかその唇の感触に欲情させられて、反発し合う感覚に余計に辛くなるばかりだった。

堪らず逸が顔を背けるが、敬吾は面白そうにまたそれを追いかける。
張り詰めてはいるがやや嬉しそうな逸の表情に、思わず笑ってしまいながら口付けた。

「逸………」
「んっ、…………!」

呼ばれるだけでもう破裂してしまいそうだ。
瞼や頬を食んでいる小さな柔らかい感触が、どうしようもなく手綱を緩ませる。
そうなると、あられもない、と言っていいほどに声はだだ漏れてしまう。

一体いつまでこうして情けない姿を晒していればいいのか──と逸は本当に泣きたくなった。
それでも敬吾の唇や髪を撫でてくれる手は優しく、浸ってしまうから手に負えない。

「けーごさんっ………ほんともう、おれ………」

激しく上下する肩と脈打つ局部が痛々しく、さすがに敬吾も可哀想に思えてきた。
初心者には難易度が高かったか?──と思うが、呼吸に伴っているのとはまた違う下腹の収縮が、どうにも発散させてやりたい気持ちになる。
そっとそこを撫でてやると、引きつけのように逸が緊張した。

「逸、ここ我慢すんな」
「っは………だっ、て、」
「大丈夫だから」

優しい微笑みでそう宥められ、こんな窮状でも逸は嬉しくなってしまう。
こんな柔らかい表情を今まで見たことがあっただろうか、惚れ直してしまいそうだ……。
それがゆっくりと近づいてくるので必死に唇を合わせる。
さっきのようなもどかしいキスではなく、深く絡められてまた呼吸も心臓も爆発しそうになった。

が、その間また腹を撫でられ強く扱かれて、逸は藻掻くように顔を背ける。

──もう、限界だ。


激しく擦り上げる音と自分の呼吸、耳を塞ぎたくなるような情けない声に、鋭く水を打つような音が立て続けに重なる。



一気に呼吸が楽になったと同時に、



──腰が抜けた。





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