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したいこと? 2

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「……………敬吾さん────」


覆いかぶさっている方──逸が、呆然としたような声を出す。
その中にやはりどうも激情に似たような色を感じて、敬吾は溜め息をついた。

なんと言うかもう、ビーズクッションと毛糸玉とティッシュと猫を放り込んでもここまでできるだろうかと思える混沌の最中で、それでも最初に解かなければならないのはやはりそこである。


「言っとくけどさっきまでその人の彼女もいたんだからな……、九条ごめん。それ俺の彼氏」
「えっ!!!」

素っ頓狂な声を上げたのも、逸だった。

「えっじゃねーよどけ!」
「あっはいっ、」

諸手を上げながら逸がソファに乗っていた片膝を下ろし、敬吾の傍らに立つ。

「あのおれ何も──」
「ごめんなさいは。」
「すみませんでした」

敬吾が九条を掌で指し示し、操られるように逸が頭を垂れた。
一貫して放心していた九条が弾けるように笑う。

「いえいえーー」
「そして帰れ!」
「うっ、はい……」

尾を下げた犬のような姿で逸が退室し、敬吾は大きく溜め息をついた。

それからようやく本分を思い出し、提げていたレジ袋からスポーツドリンクを取り出して九条に手渡す。

「いやー……ほんとごめん。すげー恥ずかしい」
「いやほんと大丈夫、びっくりはしたけど」
「だよなあ……」
「イケメンだと別に気持ち悪くもないもんだねー」
「いやいや気ぃ使うな使うな」
「ほんとだって」

鈍く残っている二日酔いに顔をしかめながらも、九条は爽やかに笑って水分を摂った。

「岩居くんってゲイの人なんだったっけ?」
「違うよ、葵ちゃんは?」
「バイトのピンチヒッター頼まれちゃって。」
「あー…………」

こんな朝っぱらから気の毒なことだ。

せめて玄関に葵の靴があったなら、こんなことにはならなかったろうに──

葵と自分のために、敬吾はそのバイト先を呪っておいた。

「つーか、話し変えないでよー」
「あー……」
「水くさいなー。友達だと思ってたのに」

わざと頬を膨らます九条を見て、敬吾はぱちくりと瞬きする。
眼鏡を外しているせいもあってか、普段淡白な九条が余計に幼く見えて不思議な感覚だ。
思わず笑ってしまう。

「まあ冗談だけどさ。黙っとく」
「何から何までスンマセン」
「でも馴れ初めくらい聞かせてよー」
「馴れ初めー……?」

自分も炭酸のペットボトルを開けながら敬吾は斜め上を見た。

「えーと……バイトの後輩なんだよ」
「ほう」
「で、一目惚れしたんだって」
「おぉ」
「………………」
「………………」




「…………えっおわり!!?」
「うん」
「早い!!!!」
「て言われても」
「それただ片思い始まっただけじゃん!」
「えぇー……?もー……とりあえず飯食おう」

角突き合わせてきっちりとしたい話でもない。
レジ袋からパンだのおにぎりだの取り出し、敬吾は眉根を寄せながらむつむつと食べ始める。

「いや……最初はやだったよすんごい……」
「だよねえ」
「なんかもう……すげー押されまくって」
「うん」

味のしないパンを噛みながら、敬吾はやはりむつむつと考えていた。
あれは、何と表現したら良いのだろう。
あの頃の、なにくれとなくざわつく感覚。

言葉にすれば間違いなく否定的なものになる。
嫌だ、怖い、気持ち悪い、理解できない。

だが。

「ほだされたんだよね」
「うん………えっもしかしてまた終わった?」
「終わった」
「ええーー………」
「だって、」

敬吾の携帯が鳴る。

《敬吾さん、ごめんなさい》

逸からのメールだった。

「俺もよく分かって──」

また携帯が鳴る。

《怒ってますか?》

「………ねえんだよ」
「へえーー……」
「………………」

敬吾はしばし携帯を睨んでいたが、どうやら沈黙したらしい。
口を開いたのは、九条だった。

「恋ってすげー」
「んん?」

異性愛者すら振り向かせるからか。
確かに物凄い熱量だ。

「岩居くんすら盲目にさせる」
「……………んん?」

《敬吾さーーーーん》
《本当にごめんなさい》
《捨てないでーーーーー》

「うぅるっせーーな怒ってねえよお前少し黙って待ってろ!!!!!」
『えーーーーやっぱ怒ってるじゃないですかぁーー……!』
「あっはっはっ!なんなの君らはもうー!」





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