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祝福と憧憬 11
しおりを挟む「ん……………」
「……あ、おはようございますっ」
「んん……………」
敬吾が目を覚ました時、逸はとっくに起きていたらしく傍らに半身を起こしてにこにこと敬吾を眺めていた。
いつまで経ってもこれは、慣れない。
この上なく無防備な状態を意識の外から眺められているというのは………
一体どんな顔をしていたものやら。
「シャワー浴びましょうか」
「んー。んーー?」
間延びした敬吾の返事に逸が破顔する。
「立てますか?」
「……………立て、るよ」
緩慢としていた敬吾の雰囲気が気恥ずかしそうにきゅっと引き締まり、氷土でも踏むような慎重さで体を起こしながら足を下ろした。
逸は苦笑しながら見守っている。
立てないわけがない。
昨夜は別に、やたら激しかったというわけではなかっ──
──やめておこう。
「……ほらぁ立てたー。」
「そんっな自慢げに!」
「うるせーよ……」
心底楽しげに笑いながらベッドの上に起き上がり、逸は敬吾を抱き寄せた。
「……でも一緒に入りますけどねー」
「えぇ………」
静かに言い含めるような口調が、歌っているようなのに有無を言わせない。
諦めたように逸の頭をぽんぽんと叩き、敬吾は満面の笑みの逸に手を引かれてため息をついた。
「だーっもう、岩井!進まねえだろ!!」
「んーーー……。」
「はーなーれーろっつうの、もーーー……」
浴槽の縁に腰掛けた逸が、湯温を確かめている敬吾の腰に抱きついている。
やたらと跡を付けたがって離れない逸に、敬吾の瞳が底光りした。
「んわー!!!」
「っとにもう!ほんっとに犬かおめーは!!」
頭から豪快にシャワーを浴びせられ、さすがに逸も腕を解いて防御に回す。
ほぼ意味は為さないが。
濡れた犬よろしく、笑いながら頭を振ってから逸が張り付く髪を掻き上げる。
それが妙に様になっていて敬吾としてはなんとなし納得の行かない気分だった。
「ひどいー」
「朝っぱらから盛んな!」
「盛ってるんじゃなくていちゃいちゃしたいんですー」
立ち上がり、今度は背中から抱きつかれて敬吾が呆れた顔をする。
「なんなんだよそのテンションはー………」
昨日までは妙に落ち込んだ顔などしていたくせに、
今日の逸は天井なしに犬っぷりを発揮している。
それもなんと言うか、寝ている飼い主を全力で起こしに掛かる類の犬だ。
「んんー?いや、なんでもないですよー?」
「おかしいだろ…………」
疲れたように脱力する敬吾の手からシャワーを取り上げ、逸は敬吾を抱きかかえたままその肩に湯を流す。
そっと手で撫でてやると敬吾の肩が縮み、逸はまた嬉しげに顔を綻ばせた。
「いや、言ったら多分敬吾さん怒るから」
「はぁ?」
「んー…………」
言おうか言うまいか悩んでいるような振りをしながら逸が敬吾の首すじを吸う。
「敬吾さんって俺が思ってる以上に俺のこと好きなのかなぁとか思いまして」
「………………ん?」
ぐっと不可思議そうに眉根を寄せ、敬吾は逸を振り返ろうとした。
思いの外体重がかかっていてできなかったが。
「……敬吾さんは、眠い時が一番素直」
「…………………へ」
「えへへ…………」
けれどそれを、敬吾が敬吾らしい時にしっかりと自覚して言ってもらえるようにならなければ──。
浮かれるような気持ちでそう思いながら、その焦がれるような日が来るまでは調子に乗っておこう、と逸は自らを奮い立たせる。
どうあっても離したくない。
お前など嫌いだ、もう別れると言われるまでは──考えたくもないが──図太く、この人を独占していよう。
「敬吾さん…………」
「っ……………」
「………………大好きです」
結局はこうして、至らない自分を甘やかしてくれる、この人を。
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