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祝福と憧憬 10

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「──お前さ、なんかあったか?」
「え?」


ベッドに腰掛け、敬吾は風呂から上がって来た逸を見上げてそう言った。
逸はぱちぱちと瞬いた後ふっと目を細める。
その微笑みも妙に大人びていて──いい年をした男にそんな感想も妙なものだが──敬吾は内心眉根を寄せた。

逸は無言で敬吾の隣に腰を下ろす。

「どうしてですか?」
「っ、いや、なんとなく──」

ぐっと近寄った逸の顔に敬吾は俯いてしまいつつ、息を詰めた。
その圧迫感も、肩に回った腕もいちいち力強い。
思ったとおりにまた強く唇が触れる。
逸は答えるつもりはないようだった。

ほとんど反射で敬吾の瞼が落ち、すっかり甘くなった唇が啄み合う。
それが僅かに深くなり、吸い付く合間に逸が敬吾を呼んだ。

敬吾が何も応えられずにいると、腰に腕が下り耳元に逸の唇が触れる。

「……疲れちゃいました?」
「──う、いや……」

また逸は何も言わず、口付けながら敬吾をベッドに押し伏せた。
頬へ、喉へと唇で這ってふいと敬吾を見上げると、眉根を寄せて何か言いたげな顔をしている。

──自分はまた、この人を困らせている。

悲しげに笑い、それでも熱に抗えず──いや、抗おうとせず。
逸は敬吾の手を封じ、届くところ余さず食み、舐めた。
泣いているような敬吾の呼吸が胸を圧迫する。

「…………っちょ、……っいち……………っ」

敬吾の肌はもうどこに触れても切なげに引きつり、声は涙と速い呼吸を含んで滲んでいた。

──もうこのまま、溶かしきってしまいたい。
自分の腕の中で。どこへも行けないように。

「敬吾さん………」

敬吾の手を離し内腿に口付け、跡を付けて、逸の唇はそのまま脚を下った。

「ゃ………、」

小さな悲鳴のような声は聞こえないふりをし、逸は足首の腱を食んでくるぶしに口付けた。
それがまた先へと腱を辿っていくと、敬吾の背中がぞくりと震える。

「……っ逸っ!ちょっ、待てっ」

今度は完全にそれを無視し、逸は強く足首を掴んで指の間に舌で割り入った。

「やっ!やめろ、って………っ」

また黙殺される不安と濡れた音、ざわざわと背中まで震わせる感触が敬吾の頬を赤くする。

「逸!……ほんとにっ、」

やっと唇は離れたものの、逸は人質のように足を掴んだまま敬吾を見下ろした。
その妙に冷たい、挑発的な薄い笑みに敬吾は眉根を寄せ、肩を縮める。

「────っ?」
「じゃあ、敬吾さん」
「へ……っ」
「俺のこと、蹴って止めて」
「────」
「昔みたいに………」
「………!」



敬吾が言葉を失うと逸はまた鷹揚に笑いかけ、その足の甲に、ゆっくりと唇を押し当てた。









薄暗い部屋の中、蕩けきった敬吾の声が満ちる。

あまりに切なく甘いそれを堪えるのも、もう諦めて久しかった。

体の中も外も逸に埋め尽くされて、理性を取り戻す隙は無いのに優しい快感は果てることも許してくれず、敬吾が出せるのは声だけだった。

とろとろと指の背が体中を滑る。
薄くて甘い快感が敬吾を弛緩させるが、深く逸を飲み込んだそこだけは甘えるように吸い付いてしまう。
それが恥ずかしくて、緩みきった唇がはしたなくて泣きたくなるのだが、逸の手が。

慰めるように、撫でるから──

「あ……………っ」

温かくて、痺れるほど気持ちがいい。
けれど、際どいところには触れられない肌が、興奮しすぎてひりつく。

「んぅっ、……ぁー……っ、いち、──……」
「はい……」
「やぁ……、──いたい、」
「──え?どこですか?」

陶酔しているようだった逸は顔を一気に引き締め、軽く諸手を上げた。
敬吾の表情は確かに蕩けながらも僅かに苦しげだが、今日は歯どころか爪の先すら触れていないはず。
繋がりあったそこも、良く濡らされたまま柔らかく吸い付いていた。

逸が心配そうに首を傾げてまた呼びかけると、敬吾は肩を縮めて切なげに手の甲を口にあてる。

泣き出しそうなその表情がどくりと逸を脈打たせ、体の奥に響くそれが敬吾を啼かせた。

「ん……………っ!」
「敬吾さん──」

頬を撫でてやると、敬吾がそれに擦り寄る。

「っいたい、勃ちすぎてて……痛い…………、」
「────、」

数秒呆然とした後、逸は舌なめずりでもしそうな笑みを浮かべた。

「ああ────、」

逸がその体を見下ろし、どんなに醜悪な表情をしても呼吸するだけで精一杯の敬吾は気づく由もない。

「──本当だ、ここ…… ……乳首もですね。こんな真っ赤になって」

逸の指先が近づき、敬吾が鋭く声を上げた。

「触ってませんよ?」

くすくすと笑われ、敬吾はもう赤面する他ない。

「触ってほしい?」
「!……やだー……!」
「そうですね……、こんなの触ったらめちゃくちゃにイっちゃいそう」

ふっと冷たく息を吹きかけられ、敬吾は死にたくなるほど恥ずかしい声を上げた。
拳を固めて顔を隠す敬吾を眺めて、逸は大層楽しげに笑う。

「……もう敬吾さん、どこ触ってもヤバいんじゃないですか?」
「ぅ……っばか………!」
「どこでいきたい……?」
「────!」

吐息交じりの、深くて静かな声はまるで魔法のように生々しくその先を敬吾に想像させた。

次に逸が触れる感触を、そこから快感が迸るさまを。
それがどこだとしても、怒涛のような────

「ふ………っ、や、やだ、声、」
「出ちゃう?」

必死で頷くあどけなさがかえって妖艶だ。
その従順さがたまらなく愛おしくて逸が顔を寄せると、内部が僅かに動かされて敬吾は泣きたくなる。

「じゃあ……苦しいですけど、塞ぎましょうね」
「ぁ……………」

とろりと唇を見つめられ、逸はまたきつく眉根を寄せて歪んだ笑みを浮かべた。

「どこがいい……………?」

──こんなことの、注文を取られるだなんて。

耐え難い羞恥心は、いとも容易く快楽への期待で上塗りされる。
体中に滞留しきった快感が、ぞくぞくと這い回って強く主張を始めた。

「んんっ…………」
「敬吾さん……………」

優しく口付けられ、それだけで昇り詰めそうになってしまって敬吾は慌てた。

「んっ、な、かで、お前のでっ、………」
「────」

逸は物も言わず深く唇を噛み合わせると、鋭く中を抉った。
その途端敬吾の体が引きつれ、激しく腰が跳ねて圧し殺された嬌声と呼吸が暴れる。

肩に深く爪が食い込み、敬吾の呼吸が危ういほど細く速くなっても逸は腰を振るのをやめなかった。
と言うより、やめられないのだ。
体が勝手に敬吾を突き上げ、穿って、もっと深くに注ごうとする。
悦ばせようと、壊そうとする。

「んっ、んっんっんっ──んぅっ…………!」
「──────」

敬吾の体が弛緩し始め、長々と吐き出されていた精液が止まり始めた頃やっと、ゆったりと重く揺さぶる。
膨らみ切った乳首を強く潰すとまた悲痛な声が口移しで響き、耳が溶けてしまいそうだ。

敬吾が堪える熱量の一部を共有する逸の背中は血が滲んでいる。

「っは…………」

敬吾が逃げるように顔を背け、今際の際のような危うい呼吸を繰り返す。

それでも尚揺らされながら、自分の中で逸が痙攣するとその頭を撫でた。

「敬吾さん…………」

どうしようもなく愛しく、満たされていて、逸はまた敬吾の唇にかぶり付く。
いつまでこうしていられるのだろう。

柔らかく応えていた敬吾の唇から力が抜ける。
舌もゆるゆると戻っていき僅かに顔を離すと、敬吾はもう意識を手放していた。

頭の中に胸の奥に甘い液体でも流れるようだった。
それが逸を酩酊させ、思考はもう朦朧としている。

言うだけならきっと許されるだろう。
泣き出しそうに顔を歪めた逸が、縋るように敬吾の髪を掻き上げた。



「──敬吾さん……、──俺と一緒にいてください」





「……一生、ここにいて……………」







血を吐くような懇願は、誰に届くこともなく薄闇に滲んで消えた。










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