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彼の好み リベンジ 9

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「ん、……っぁ、………」


逸の指が、焦らすようにゆっくりと中をまさぐる。

素知らぬ顔で弱いところを掠めさせる度、鼻にかかった甘い声が漏れた。
大きく上下する自分の胸の傍らから見下ろす逸の顔を敬吾が必死で見つめると、余裕たっぷりに敬吾の痴態を眺めていた表情が、突如引き攣る。

敬吾の指先が、立ち上がった逸のそれをゆるゆると撫で擦っていた。

「……敬吾さん──」

逸が眉根を寄せ、僅かに口を歪ませて見下ろすが、敬吾の表情はそれより遥かに耽美的だった。痛ましいほど。

「………入れたいの?」

嬉しげに問うものの、敬吾は首を横に振る。
一気に困った犬顔になって逸が首を傾げると、今度は敬吾が笑った。

「………舐めたいの。」
「────」
「ん……………」

敬吾が逸の手首を取り、ゆっくりと自分の体から引き抜いていく。
濡れた音と鋭い声が漏れて、呆然とする逸の正面に敬吾が体を起こした。
そのまま頭を垂れ、その先端に口づける。

「っあ、敬吾さん………」

啄むように唇を落とされて、逸がぺたりと口を覆う。
毒々しく脈打って屹立しているものと、頂礼のように清廉な触れ方があまりにもかけ離れていて。
背徳感を孕んだ興奮が腹の底から湧き上がる。

それを知ってか知らずか、敬吾がそれを覗き込むように顔を上げ、ごく僅かに唇を開いた。
逸はまるでイコンの聖人でも見ている気分だったが、その隙間から覗いた肉が艶めいていて、欲に濡れているように見える。

「っ──………」

柔らかい肉間が、ゆっくりと先端を飲み込んでいく。
ちらりと細まった瞳に見上げられ、逸は苦しく息を呑んだ──。









──頭を撫でて欲しい。


無意識にそう思うと、逸の指が敬吾の髪を梳く。
思わず微笑んでしまいながら狭い口の中で舌を伸ばし、敬吾はそれに吸い付いた。
逸が呼吸を荒らげるのが楽しく、嬉しい。

切羽詰まったように時折強張る指先やいくら舐め取っても濡れる窪み、堪えきれないように溢れる小さな声が敬吾を没頭させていく。

──好きかって、聞かないかな。

自分はどう頑張っても、この男のように底抜けに正直には口に出せない。
聞いてくれたら、頷ける──

「っはぁ……」

敬吾がそれを口から出すと、逸がほっと息を吐き出し敬吾の頭を撫でる。
陶酔したようにまた小さくキスを落とす敬吾を見下ろして、逸は緩みきった口を開いた。

「──敬吾さん……、……好き?」

敬吾の背中が僅かに撓り、ゆっくりと頷いたと同時。「──俺の」と逸が付け足した。
そこに唇を付けたまま、敬吾がぱちくりと瞬く。

「────へっ?」

がばりと顔を上げると、逸はだらしなくにやついて敬吾の驚愕の表情を見下ろしていた。

「うーーーーーわ………」
「ちがっ、ちがちがちがうだろ!!!俺先にうんっつったよなっ、」
「えー……分かんなかったです……、鼻血でそう……」
「違うっっって!!変なタイミングで付け足すなよ!!!」

ばたばたと振られる敬吾の手首を掴み、逸は嬉しげに体重を掛けていく。
それに押されることがそのまま問答の結果になるような気がして、敬吾は必死に抵抗した。
当然負けたが。

「じゃあほら、敬吾さん好きなの入れますよー」
「ばっ、てめぇ!!」
 
苦し紛れに放った平手が、綺麗に逸の右頬に命中する。
流石に一瞬で背が冷えた。

「あっごめんっ──」
「いて……」
「ごめんって、でもお前もふざけすぎなんだよ!」
「ふざけてないですよ、真面目に聞いてるんですー」

わんぱくな敬吾の手をまた封じ、赤くなった頬を膨らませて伸し掛かると逸は拗ねたように敬吾に問う。

「これ、好きですか?敬吾さん」
「やっ、ちょっと」

ぐにぐにと押し当てられ、あからさまに主張されて敬吾は赤くなった。

「あんな美味そうに丁寧に舐めてくれるから嬉しかったんです、嫌いなもんあんな風にしてくれませんよね?」
「ちがう…………、」

──お前のことを、言ったんだ。
そう思うがじりじりと熱くなるそこが濡れた音を立て始め、感触も変わってきて言葉にならない。

「おまえ、が……」
「うん?」
「っすき、だって、」
「うん」
「いみで………………っ」

眉が下がり、もう現を見ていないような敬吾の瞳をやはり頬を緩ませながら見下ろして逸はもう少しと欲張った。

「……じゃあこれは?」
「あっ!」

ごく僅かに押し入れられ、抜かれ、また僅かに押し入れられて敬吾の腰が震える。

「いちっ、やだぁ」
「敬吾さんが好きじゃないなら……」

その言葉と、圧倒的に物足りない、ただただもどかしい擽るような快感が敬吾の理性を雪崩れさせた。

「やだっ、欲しい──……!」
「んん………」

逸の目が、厳しく細くなる。
もう少しだけ、踏み込みたい。

「ちゃんと言って、敬吾さん……俺の、好き?」
「あ…………っ」

妙に冷静で、確固たる説明を求めるような逸の言葉に敬吾は従順に応えようとした。
焦らされて溶けてしまった思考回路を必死で繋ぎ直す。

「……だって、知らない、他のなんか…………」
「うん、比べなくていいですから」

こんな時でも真面目過ぎるところがまた可愛い。
困ったように逸が笑い、それに免じてやろうかと思ったところで敬吾の腕が首に巻き付いた。

相対的な見方は必要ない、ただの主観でいいと断じられたことで生真面目な枷がまた崩れ落ちる。

「……っじゃ、あ……好き………っ、すき…………」
「────っ」
「あ、────…………!」

浅いところで足踏みしていた、待望の熱が分け入ってくる。
ゆっくりと、味わうように重たく穿たれて、悦んでしまう体が弛緩して抵抗なく声を零す。

──歌ってるみたいだ、と逸は妙に冷静に、爆発しそうなほど昂ぶっているのにそれを凌駕するほどの感慨に耽って敬吾を見つめた。

「敬吾さん、綺麗…………」
「────?」

逸が何か言ったようだったが、敬吾には聞こえなかった。
ただ自分を見下ろしている逸の顔がやたらに切なげで、愛しげで可愛らしい。

敬吾がふと笑いその顔に手を伸ばすと、その瞬間に逸は我を忘れた。




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