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彼の好み リベンジ 6
しおりを挟む「綺麗だな」
「そりゃ敬吾さんをボロボロのとこには連れていけませんて」
部屋に入るなり後ろから抱き込まれ、逸の吐息に首を暖められながらも敬吾は少々滑稽に部屋の中を流し見た。
この立地だからそれはもう廃墟じみたところかも知れないと思っていたのだが、驚くほど広く、落ち着いた雰囲気で清潔だ。
「また下調べ……」
「ふふっ、そうですよ?男二人でも大丈夫で、いい感じに帰れなさそうで良さそうな店あって──」
そこには夜限定のメニューがあって、歩いて行けて綺麗で、か。
「執念がやべえ」
「あはは」
しみじみと肯定しながら逸は腕を解き、敬吾の上着を脱がせる。
有り難いことにフードが役に立つことはなかった。
髪を梳いてやりながら、その僅かな危機感を敬吾が冒してくれたことにも嬉しくなってしまう。
またも開けっぴろげなその笑顔が、敬吾のことも薄く笑わせた。
「────、」
「……? なに?」
「あ、いえっ」
真っ赤になった顔を背ける逸を不思議そうに見上げ、敬吾は首を捻る。
逸は慌てて空咳を連発した。
本当に、いつまで経っても自分はこの人がふと見せる笑顔に慣れない。
「……お風呂見てみませんか!」
「?うん……」
油の切れたロボットのようにがたがた歩いていく逸を、敬吾はやはり不思議そうに眺めながら後に続いた。
「うーーわっひろっ」
「あーーーダメだこれ敬吾さんゆったりしちゃうやつだぁ…………」
嬉しげな顔をする敬吾の後ろで、逸はやや苦々しく笑っていた。
「よし、溜めるぞ」
「えーーー、後にしませんかーーーー」
「後って……、」
がぱりと後ろから回された腕の中で、渋い顔をして敬吾は考える。
逸としては色気も何もない雰囲気になってしまうのが嫌なのだろうが、後では──
それこそ元気も何もない。
どうせ滅茶苦茶な有様に決まっている──
「──、」
「……?」
腕の中で、敬吾の心臓が強く打つ。
逸が不思議そうに斜め上を見上げるが、その視線が顔に届く前に手で顔を押しやられてしまった。
「んぐ、??」
「……入る!」
「えーー、もー……」
仕方なく逸が腕を緩めると敬吾はさっさと湯を溜め始めてしまう。
拗ねたように逸はアメニティなどいじくり回した。
「すげー、充実してんなー」
「女子会やるとかってくらいだもんな」
「ぶはっ!敬吾さん!見てコレ!」
「んー」
脱衣所から逸が馬鹿笑いしながら顔を覗かせる。
「ローション風呂の素!やります!?」
「……。俺そういうの、これで年間何人か死んでんのかなって考えちゃう方だから却下。」
「ロマンも何もない…………」
「それで事情聴取とかほんとやだし」
「死ぬの俺なんですね……………」
「さて、」
乾いた衣擦れの音に敬吾が振り返ると、逸がシャツを脱いでいた。
既に手はバックルに掛かっている。
「はい?」
ぽかんとして自分を見ている敬吾に逸が首を傾げて問うと、敬吾は眠たい猫のように瞬きだけをした。
「──ああ、先入る?」
やっとそう口にした敬吾は逸に笑われる。
「何を言ってんすか」
苦笑しながら逸が敬吾の髪を撫でる。
それだけのことになぜかびくついてしまい、敬吾は赤面した。
逸は構わず瞼に頬にと唇を寄せ、敬吾は固まる。
「一緒に入るんです、エロいことしながら」
「エロっ……………」
「当たり前でしょ…………」
その言葉尻が熱に霞んでいて、敬吾の背筋に震えが走った。
裾に逸の手が入り込み、そのままするすると撫で上げられる。
敬吾の足元に跪き鎖骨までそうしてニットを上げると、逸は敬吾を見上げて笑った。
──小生意気なその笑みが、脱げと言っている。
気がして捲り上げられた裾を受け取ると、逸はまた敬吾の腰を撫で、腹に口付けた。
前髪と睫毛に擽られて敬吾が背中を丸めると逸がすぐに掻き寄せる。
まだ呼吸が自分の制御下にあるうちに敬吾が逸を呼ぶと、そこを強く吸い上げて逸がやっと顔を離した。
「……お風呂行きましょっか」
「……………んぅ…………。」
「あははっ」
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