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褒めて伸ばしてー閑話休題ー
しおりを挟む「お、岩居くん」
「九条……、おつかれ」
「なーんか元気ないねぇ。空きコマ?」
「いやもうこれ飲んだら帰るとこ」
そうは言ってもあと少し残ったコーヒーを飲もうとしない敬吾を、九条は不思議そうに見下ろしていた。
「んじゃ飯行かない?この間すげーピザうまいバー見つけたの」
今目が覚めたかのように、敬吾はぱちぱちと瞬いて九条を見上げる。
ここ数日一気に瞳をぎらつかせ始めた逸が剣呑に過ぎて、九条の提案が有り難いものに思えた。が。
「いいなー、行く行く。けど酒はやめとこうかな」
「そーなの?」
珍しいものでも見るように九条が目を丸くし、そりゃそうだよなと敬吾は苦笑する。
とは言えさほど拘る様子もなく、九条は腕時計に目線を落とした。
「俺ちょっと菅田教授のとこ行かないとだから、後で落ち合いでもいい?5時過ぎくらいに」
「んん、場所教えて」
「今送んね」
九条から送信されてきた店の住所は敬吾のアパートからほど近いところだった。
一度帰ったほうが楽かもしれない。
九条と別れ、逸に夕飯は要らない旨連絡して、敬吾はやっとカフェテリアから出ることにした。
「うお、っと……いたのか。ただいま」
「お帰りなさい」
敬吾の部屋には逸がいた。
自分の夕飯の下準備をしていたらしい。
「何食うの」
「うどんです、敬吾さんは?」
「ピザ」
「あー、いいですねえ」
「テイクアウトできたら持ってくるか?」
「え、やったー!」
子供のように笑う逸が微笑ましい。
ぱふぱふと頭を撫でてリビングへ行くと、さすがにまだ食べ始めるわけでもないらしく逸も付いてきた。
「敬吾さん」
「んー」
バッグを置きながら逸の方を振り返ると、逸は腕を広げて笑っている。
「充電」
「……………」
ひとつため息をついてその腕に収まると、逸が嬉しげに腕を閉じた。
敬吾の髪に頬を埋めて、逸は深く呼吸をする。
しみじみとしたその風のような音が敬吾を妙に緊張させた。
「……お酒飲みます?」
「いや、やめとく……」
「んーーー、いーこーーーーー」
──いや、お前を警戒してるんだよ。
嬉しげにぐりぐりと顔を擦り寄せる逸をよそに敬吾は半眼である。
「変な虫にくっつかれないで下さいね………………」
「いねえっつーの、そんなもんは…………」
分かりきった反論は最初から聞く気がないのか、逸は返事をするでもなく腕を緩めて唇を塞いだ。
柔らかく食まれた後、少しずつ舌が進んでくる。
強引に抉じ開けられないと、かえって反応に困ってしまう。
戸惑ったように迎え入れる敬吾の咥内をやはり優しくゆっくりと愛撫すると、敬吾が逸の横腹を掴んだ。
まっすぐに立っているのが妙に難しい。
「──ん、岩…… んっ!」
小さな抗議は無理矢理に封じられてしまった。
少々強引になったキスはまだ逃してくれそうもなく、砕けそうな腰を吊し上げるように逸が強く抱き止める。
逸が満足するまで嬲られ続けて、敬吾の瞳は輪郭を失っている。
苦笑した逸が滲んだ目元を拭い正気付けるように頭を撫でてやると、やっと忙しなく瞬きをした。
「………………っ、やりすぎだバカ」
「ごめんなさい」
「…………………」
素直に謝られてしまうとそれ以上言葉が続かない。
どこを見ていいのかも、分からない。
「敬吾さん」
「ん……」
「乳首の写真撮らせてもらってもい」
「行ってくる。」
「はい…………」
粗雑に押しのけられて起き上がりこぼしのように揺れている逸の横を通り過ぎ、敬吾は一直線に玄関へ向かう。
結局外で時間を潰す羽目になった。
「敬吾さん、財布財布!」
「あー」
猛禽のように険しい目つきを呆れさせたまま敬吾が振り返ると、逸は持っていた財布をひょいと上げる。
それを、丸く見開いた目が追うと──
にやりと笑った唇に、また口付けられた。
「………………っ、」
「はい、行ってらっしゃい。気をつけて」
まともな返事もせずに出かけていく敬吾を、逸は満足げに見送っていた。
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