こっち向いてください

もなか

文字の大きさ
上 下
82 / 345

褒めて伸ばしてー閑話休題ー

しおりを挟む



「お、岩居くん」
「九条……、おつかれ」
「なーんか元気ないねぇ。空きコマ?」
「いやもうこれ飲んだら帰るとこ」

そうは言ってもあと少し残ったコーヒーを飲もうとしない敬吾を、九条は不思議そうに見下ろしていた。

「んじゃ飯行かない?この間すげーピザうまいバー見つけたの」

今目が覚めたかのように、敬吾はぱちぱちと瞬いて九条を見上げる。
ここ数日一気に瞳をぎらつかせ始めた逸が剣呑に過ぎて、九条の提案が有り難いものに思えた。が。

「いいなー、行く行く。けど酒はやめとこうかな」
「そーなの?」

珍しいものでも見るように九条が目を丸くし、そりゃそうだよなと敬吾は苦笑する。
とは言えさほど拘る様子もなく、九条は腕時計に目線を落とした。

「俺ちょっと菅田教授のとこ行かないとだから、後で落ち合いでもいい?5時過ぎくらいに」
「んん、場所教えて」
「今送んね」

九条から送信されてきた店の住所は敬吾のアパートからほど近いところだった。
一度帰ったほうが楽かもしれない。

九条と別れ、逸に夕飯は要らない旨連絡して、敬吾はやっとカフェテリアから出ることにした。





「うお、っと……いたのか。ただいま」
「お帰りなさい」

敬吾の部屋には逸がいた。
自分の夕飯の下準備をしていたらしい。

「何食うの」
「うどんです、敬吾さんは?」
「ピザ」
「あー、いいですねえ」
「テイクアウトできたら持ってくるか?」
「え、やったー!」

子供のように笑う逸が微笑ましい。
ぱふぱふと頭を撫でてリビングへ行くと、さすがにまだ食べ始めるわけでもないらしく逸も付いてきた。

「敬吾さん」
「んー」

バッグを置きながら逸の方を振り返ると、逸は腕を広げて笑っている。

「充電」
「……………」

ひとつため息をついてその腕に収まると、逸が嬉しげに腕を閉じた。
敬吾の髪に頬を埋めて、逸は深く呼吸をする。
しみじみとしたその風のような音が敬吾を妙に緊張させた。

「……お酒飲みます?」
「いや、やめとく……」
「んーーー、いーこーーーーー」

──いや、お前を警戒してるんだよ。

嬉しげにぐりぐりと顔を擦り寄せる逸をよそに敬吾は半眼である。

「変な虫にくっつかれないで下さいね………………」
「いねえっつーの、そんなもんは…………」

分かりきった反論は最初から聞く気がないのか、逸は返事をするでもなく腕を緩めて唇を塞いだ。
柔らかく食まれた後、少しずつ舌が進んでくる。
強引に抉じ開けられないと、かえって反応に困ってしまう。

戸惑ったように迎え入れる敬吾の咥内をやはり優しくゆっくりと愛撫すると、敬吾が逸の横腹を掴んだ。
まっすぐに立っているのが妙に難しい。

「──ん、岩…… んっ!」

小さな抗議は無理矢理に封じられてしまった。
少々強引になったキスはまだ逃してくれそうもなく、砕けそうな腰を吊し上げるように逸が強く抱き止める。

逸が満足するまで嬲られ続けて、敬吾の瞳は輪郭を失っている。
苦笑した逸が滲んだ目元を拭い正気付けるように頭を撫でてやると、やっと忙しなく瞬きをした。

「………………っ、やりすぎだバカ」
「ごめんなさい」
「…………………」

素直に謝られてしまうとそれ以上言葉が続かない。
どこを見ていいのかも、分からない。

「敬吾さん」
「ん……」
「乳首の写真撮らせてもらってもい」
「行ってくる。」
「はい…………」

粗雑に押しのけられて起き上がりこぼしのように揺れている逸の横を通り過ぎ、敬吾は一直線に玄関へ向かう。
結局外で時間を潰す羽目になった。

「敬吾さん、財布財布!」
「あー」

猛禽のように険しい目つきを呆れさせたまま敬吾が振り返ると、逸は持っていた財布をひょいと上げる。
それを、丸く見開いた目が追うと──

にやりと笑った唇に、また口付けられた。

「………………っ、」
「はい、行ってらっしゃい。気をつけて」


まともな返事もせずに出かけていく敬吾を、逸は満足げに見送っていた。









しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

処理中です...