こっち向いてください

もなか

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褒めて伸ばして8

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「今日も一緒に寝るかー?」
「寝ませんよ!」
「ふーん…………」

敬吾の部屋の玄関に二人は立っていた。
呆れと苛立ちと驚愕が入り混じった表情で、逸はきっと敬吾を振り返る。

「……なんですかその顔は」
「なんだよその顔って」
「そんな寂しそうな顔してもダメっ!」
「してねーよ」

敬吾の無表情はまるでスクリーンだ。
素直でない割に正直な内面が、フラットな表情に鮮明に映る。

──と、逸は思っている。

「ぎゅってして?って思ってる顔してます」
「断じてしてねえ」

敬吾はやはり無表情で言い放ったがまたにやりと笑った。

「仮に思ってたらどうする?」
「──、」

言葉も表情も失った逸に、敬吾は弾けるように爆笑する。

「……………もういいです、敬吾さんの意地悪。ばーかばーか」
「あっはっはっ、ばーかってお前、腹いてえ……」

半ば前かがみになって腹を抱えていた敬吾に、逸の影が落ちた。
はたと見上げた敬吾の顎を、逸の手が捕まえる。

「──、」

──しっとりと食まれた唇が離れ、敬吾の顔は僅かに上気していた。

その顔を淫らに歪ませる妄想が、逸の脳裏に迸る。
それを追う逸の視線が恐ろしいほど欲情していて、敬吾はさすがに肝が冷える思いがした。

「──来週」
「えっ!?」

低く抑えられた声が掠れていて、敬吾の背中をざわりと撫でる。

「……………覚悟しといてくださいよ」
「────」

固まってしまった敬吾の唇を撫でると、逸が部屋を出る。

数秒間そうして固まっていた後、敬吾はふと我に返ってサムターンを倒し、そして少し考えて、ドアガードも起こしてその場にへたり込んだ。







(……………あの馬鹿!)

腰が砕けそうだった。
胸の中で毒を吐き吐き、敬吾は寝室に向かう。

シャワーを浴びて、もう寝よう。

「────」

着替えを出そうと引き出しの前にかがみ込むが、どうしようもなく体が重い。
そのまま膝を落として上体をベッドに預けた。

──重いのではない。分かっていた。

何も考えられなくなるほどのあのキス、足に押し付けられた熱、欲情しきった瞳。

(くそ……)

半端に触れられたところが熱を生んで、体の奥が脈打ってたまらない。

見ないふりをしても意識的に無視しても、こちらを向けと言わんばかりの主張の強さで疼きが波打つ。
無意識に締め付けてしまうことで、それが慰められるような助長されるような──

体の中が渇き切って、喉が痛む。
半ば朦朧としながら敬吾は部屋着のウエストを緩めた。
寸の間躊躇ってから、結局下着の中に手を差し入れ後ろ手にそこに触れてみる。

弾かれたように肩を跳ねさせ、息を詰めた。
ベッドに頭を埋めると指が勝手にそこを撫でる。

(……………、どうしよう)

もう、観念するほかなかった。
悦んでしまっている。

さっき閉めた引き出しを開け、手の平にローションを流す。
どうしようもなく空しかったが、それどころでもない。
中指に掬って呼吸を整え、一気に暴れだす鼓動に翻弄されながらぎこちなく場所を確認し、恐る恐る指を差し込んでいく。

「っあ…………っ!」

膝が砕けそうになって、布団に縋るように強く掴んだ。
しばらくそのままじっとしていて、また弱々しく指を動かしてみる。

(あつ…………)

自分の中が脈打っていた。
根本まで埋め込んだ指をゆっくりと抜き、また差し込む。

右手だけが別の生き物のようにそうして淡々と往復し、敬吾は震えながら暴れる呼吸と叫び出しそうな喉を必死に御していた。

自らに施される快感に少しずつ慣れてくると、ゆるゆると腰が揺れ始める。
更に強く頭を埋めて激しく呼吸をしていると、聞くに耐えない音を残して指が抜けた。

「んんぅっ!」

くたりと一人で座り込んでいると、そこが痙攣しているのが冷えた空気に容赦なく自覚させられる。
泣き出しそうに顔を歪め、敬吾は指にローションを増やした。
そのまま今度は二本一緒に差し込んでいく。

「ぁー……、!」

体が勝手に指を締めつけた。
耳の奥に逸の声が過る。
ぎこちなくてもどかしい感覚に、どうしても足りないのはそれだった。

(──逸……………っ)

必死に奥を抉っても、指を増やしても。
──足りない。届かない。見つけられない。

「──んっ、んっん………っ!」

不十分な快感に縋り付き、必要以上に乱れて必死に絶頂を求めた。
傾いでベッドに押し付けられた唇の端に唾液が伝う。

「はぁっ、んー……!んぅ…………逸ーー……、」

限定された範囲の快感で、その外に逸を夢想した。
逸の指なら、逸ならもっと奥まで届いて、熱くて。
肌を撫でて、舐めて、キスをして囁いて──

「あ………………っ!!」

背中が激しく仰け反り、下着の中がぬるい粘液に塗れる。

「んっ、ん────………っ……!」

激しい快感が引き潮のように和らいでいくと、敬吾の体もとろりと弛緩した。
それでも体の中がまだ、きゅうきゅうと痙攣している。

──涙で滲んだ暗い視界に、逸の顔が浮かんだ。
あんな風に嬉しげな顔をされるのも、追い打ちに揺すぶられるのもこれでは仕方がないかもしれない……
良くて、愛しくて仕方がない、とでも言いたげに切なく締め付けてしまっている。

「ん………」

僅かに体を動かすと、まだ敏感なそこに響いてたまらない。
指を抜くのが少々怖かった。

思い切って抜き取るとやはり、鋭く甘い声を堪えられなかった。

いたたまれない気持ちで手を拭きながら敬吾は深く長く疲れ果てたため息をつく。



──やはり、飴も鞭もやりすぎていた………………。
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