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悪魔の証明 14
しおりを挟むはたと振り上げられた逸の顔がまたあまりにも切なく傷ついたような顔をしていて、敬吾は我が子の怪我でも見るように痛々しく眉根を寄せた。
そうして床にしゃがみ込み、逸に跪くような、子供に視線を合わせてやるような高さに腰を落とす。
「ーー俺は、後藤には心底腹立ってる。それを解消しようとすんのは、お前は確かに納得行かないだろうなとも思う」
「………………」
「腹は立ってるけど嫌いかって言われたら微妙なとこだしな」
「ーーーーーー」
「けど。お前がそうやって悶々としてんのは、俺から言わせれば意味がない」
怪訝そうな、傷ついたような不可解そうな逸の瞳を敬吾は強くまっすぐに見つめ返す。
そんなところで弱々しい足踏みなど、この男にしていて欲しくなかった。
「俺はお前以外によろめいたりしない」
逸が驚いたように目を見開いても、敬吾の視線の強さは変わらない。
「本当に、理屈の上でのわだかまりが気持ち悪いだけだ。仮に粉かけられてもなんとも思わない、お前以外の人間なんか」
「ーーーーーー」
「それでもまだ不安なら、今日でも明日でもまた好きなくらい抱け。お前が納得するならいくらでも付き合ってやる」
ただただ驚愕しているらしい逸の視線を受けて、一貫して強固で揺るがなかった敬吾の瞳がふと緩む。
それはそれは柔らかく、少々儚げに笑ってみせた。
「ただまあ手加減はしろよ」
「………………!」
逸の顔が、今にも泣き喚きそうに悲痛に歪む。
そのまま頭を垂れるとまるで、懺悔でもしているようだった。
「………………っ、ずるいっすよ………………!!」
「あ?何がだよ、こんだけ正直に分かりやすく喋ってんのに」
「ずるいだろ!そんな、いきなり……そんなこと言われたら俺ーーーーーー、」
逸の言葉尻が滲んでいき、僅かに覗く鼻と頬が真っ赤になっているのを認めると敬吾は可笑しそうに笑う。
「お前がいつまでも人のこと信用しねえからだろーー。」
「信用してないとかじゃなくて!」
「どっちでもいいよ、納得するかしないかだ。後藤に電話はするぞ」
「ーーーーーーっ!」
逸はやはり、素直に嫌そうな、それを堪えているような顔をした。
そしてすとんと膝を床に落とし、敬吾を抱き寄せる。
敬吾は少し驚いたように目を見開いていた。
「……凄く嬉しいです、敬吾さんがあんな風に思ってくれてるなんて全然思わなかった」
「………………」
「それだけでいいです。こういうことにちゃんと話でけりつける敬吾さんのこともほんとは大好きです、ーーー今日は、」
逸が敬吾の首すじに頬ずりをする。
敬吾が視線を落として静かに息を呑んだ。
「信用してるしてないじゃなくて、敬吾さんのことが好きだからいっぱい抱かせてください」
「ーーーーーーーっ」
逸が穏やかに言い終えると、敬吾は肺でも病んだかのように苦しい呼吸を漏らし、やはり苦しそうに笑う。
逸が不思議そうに腕を解いて敬吾の顔を覗いた。
敬吾はくすぐったそうに肩を縮め、俯いている。
「ーーっはは、ぞくぞくする………」
「ーーーーーー!」
「……誰にでもこんな風になってたら俺、身が保たないだろ…………」
自嘲気味に、だがどこか嬉しそうに笑って言う敬吾を逸は穴が開くほどに見つめた。
突如怒涛のようにこみ上げた熱が逸を突き動かす。
気づいた時には敬吾を強く掻き抱いていた。
敬吾は苦笑している。
その内側で、蠢く熱が激しさを増していた。
「なあ岩井」
「、っはい…………」
「……明日にするか。電話するの」
「ーーーーーー!」
返事もせずに、逸は敬吾をベッドに放り込んでいた。
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