こっち向いてください

もなか

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ーーやはりいつも通り、敬吾が先に目を覚ました。
布団にうもれたままあくびをし、伸びをして体を起こすと目の前に髪が降ってくる。

(そーだった……)

すっかり柔らかくなった髪を掻き上げ掻き上げ、全く妙なことをしてくれたものだと平和そうな逸の寝顔をつつく。

逸が夢うつつに困ったような顔をしたのが興をそそって敬吾はそのままいたずらを続けた。
むにむにと頬やら鼻やらつまんでやる。

「おーい、朝だぞー」
「んん…………」
「岩井ー、起きろー」

言いながらも頬をつねっていると、逸がその手首を掴んだ。

「にゃに……もー……」
「ぶふっ」
「やめ……」
「あーさーだ、って」
「んん………」

手首を掴んでいた逸の手が、犯人でも追うように敬吾の腕を遡っていく。

「やーめーなさいって……」

目は開かないものの不思議そうに歪んでいた顔を笑わせ、逸が言う。
起きてはいるのだろうか。

逸の手が肩にかかり、そのまま首を撫でて後頭部に回る。かしゃかしゃと髪を掻き乱す頃には逸は楽しげに笑っていた。

「だい……、やめろいてえよ」

言うなり、がばりと体を起こして敬吾を組み敷く。

「ーーーいっ!」
「こら、大っ!」
「ーーーーーーー」



ーーしてやったりと無邪気に笑っていた逸の顔が、敬吾を認めて愕然とし、ぱちくりと瞬いた。

「ーーあれ?敬吾さん?」
「……おう……」
「あれっ、おはようございます!すみません俺寝ぼけて……大丈夫ですか!どっか打ちました!?」
「や、大丈夫だ、けど」

ーーけど。

「あー、すみません……昔の夢見てたっぽい」

恥じ入ったように苦笑しながら敬吾を起き上がらせ、逸は伺うように敬吾を見た。

「ーーなんか言ってました?俺」
「…………いや、べつに」
「……そうですか?」
「…………………」
「ご飯作りますね」
「ーーおう」

なぜそう答えたのか、自分でも分からなかった。
誰と間違えたのかと、気軽に聞いてしまえば良かったのに。

ーーあの顔は初めて見た。
愛情に満ちた、けれどいたずらっぽい、子供のような遠慮のない笑顔。


(何考えてんだ……)


自分が知っていることが逸の全てなわけがないではないか。当たり前だ。

そう噛み締めて、ふっと勢いよく息を吐きだし気持ちを切り替えると、敬吾はベッドから起き出した。














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