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行く末3
しおりを挟むコートを脱いでぽんと傍らに置く敬吾を、逸は呆けたように見つめていた。
「……………あの、………あの」
「シャワー浴びる?」
「や、そうじゃなく………」
未だ呆けた顔のままの逸を無視して、敬吾はまた姿勢よく立ち膝になりそのブルゾンを脱がせに掛かる。
肘まで落とされたところで我に返り、逸が両手で敬吾の手を掴んだ。
「なに」
「い、いや………」
「………………。」
「あ、あのおれこれで万が一勃たなかったらもう立ち直れないっていうか」
「うるっせえよゼラチン」
「どうしようなんか違う意味になっちゃった……」
力を失った逸の腕から問答無用で上着を抜き取り、ぞんざいに放り出して敬吾は呆れたように半眼で逸を見下ろした。
「じゃあさっさと結論だけ出す。やりづらいからベッド行け」
「うぅ……」
和解はしたはずだがなぜかする前よりも萎れかえって、逸は言われた通りベッドに腰掛ける。
そのまま上がろうと片足を浮かせたところで敬吾がそれを止めた。
「?」
「そのまま」
またも粗雑この上なく逸への配慮も欠片もなくーーというか意図的に排除してーー敬吾が逸のバックルを外す。
ジーンズの前を開くと未だ仏頂面のままその正面、逸の膝の間に割り込んだ。
内気な女の子よろしく狭くなっている膝を乱暴に押し開いて座り込む。
逸がぺたりと口を覆った。
敬吾の冷えた手が下着の上からやや乱暴にそこを撫でる。
逸の呼吸は一気に駆け出したが、確かにそれだけだった。
それが逸だから異常ではあるが、この程度の単純な接触、気が乗らなければままあることだろう。
敬吾は別段思い切りもせず今度はそこに開いた唇をつけた。
「ーーーーー!!?」
逸がまたお化け屋敷にでも入った女の子のように肩を縮め口元で拳を握り込む。
ここまで来るとあざといが、逸としては不可抗力気味に狼狽が顕れた形に過ぎない。
その逸に気付く由もなく敬吾は柔らかくそこを食んだ。
乾いた布の向こうはごく柔らかくて反発も変質もない。
ちらりと逸の顔を伺ってみると、今にも死にそうな顔を真っ赤にして両手で口を覆っていた。
そちらの反応は悪くないようだが。
研究者のように冷静な、だが興味深げな視線を戻し、新たなデータでも取るように敬吾は下着を引き下げる。
逸が何か喚いたようだったが、有用な情報ではなさそうだった。
手には取らずに顔を埋めるようにして幾度か唇をつけると、逸がひくついた呼吸を漏らす。
そのまま待ってみるも変化が見られないので、手で少々強く揉む。
やはり呼吸が激しくなるばかりで大した変化は現れなかった。
その嗚咽にも聞こえる呼吸と情けないような切ないような顔、耳から首から真っ赤になっているのを見ていると、敬吾の方は楽しくなってくる。
ーーそこで、ふと思い至った。
(気分な…………)
敬吾がおもむろに立ち上がり、逸の右隣に腰掛ける。
そこからしなだれかかるように右腕を伸ばしてまた逸のそこをゆるゆると揉んだ。
逸は険しい顔をそれでも呆然とさせながら取り憑かれたように敬吾の手と自分の局部とを注視している。
その顔を、今度は敬吾が真横の至近距離からしげしげと見つめる。
さっきまで顔を覆っていた手は退けられ、険しいばかりだった表情もやや弛緩した気がする。
その気になっている、というやつだろうか。所謂。
「岩井」
「……ぇ、はい」
呼ばれて僅かに自分の方へ向いた顔を、覗き込むようにして敬吾が口付ける。
唇を食みながら手を強くすると、逸が藻掻くように敬吾のうなじを捕まえた。
敬吾の口元に笑みが浮かぶ。
その唇から逃れるように逸が僅かに顎を引き、苦しげに敬吾を呼んだ。
「……敬吾さん、あの…、ほんとごめんなさい」
「何が?勃たないのが?」
「う、そうじゃなくてその………ほんと嫌じゃないですか、俺とするの。こわ、いとか、ムカつくとか、」
上気しているが怯えているような逸の複雑な表情に、敬吾は微笑んだ。
「ないよ」
逸の呼吸が一気に暴れだす。
「ぅあ、じゃあ、なんか……」
「………お?」
「たつかも………」
「……ふ」
敬吾が小さく笑い、逸は何やら力むように眉根を寄せていた。
逸の肩に気怠く頭を預けてそこを眺めていると、手の中が熱を持ち出すと同時にごく僅かずつ質量が増していく。
「……ん……、」
「っ敬吾さん……」
「膨らんできたじゃん」
どちらからともなく唇を合わせている間、ゆっくりとではあるがそれはほぼ完全に立ち上がっていた。
それを指先で擽りながら唇を離し、敬吾は左手で逸の頭を撫でてやる。
「……よくできました」
「うっ……エロいぃ……」
「まだちょっと柔いけどな」
「うー、はい。あーでも……嬉しい……やら恥ずかしいやら…………」
困惑する逸に笑ってしまいながら敬吾はまたベッドから立ち上がり、逸の膝の間に体を押し込んだ。
そのまま片膝をつくとオジギソウのように逸の腿がばくりと閉じる。
腰まわりと左手をまとめて挟み込まれてしまった敬吾が不服そうに眉を吊り上げる。
「?なんだよ」
「な、なんでそこ行きますか」
「なんでってなんだ」
「舐め……るとか………ですか?」
冷や汗でも垂らしそうな勢いで、それでも弱々しく食いつくように逸が尋ねた。
敬吾は訝しげに、先を促すように首を傾げる。
「俺ほんと久しぶりなんで、もうあの、早いとかのレベルじゃないかも……」
「岩井」
「はい」
「これを。」
独裁者の演説のようにくっきりと重く武器のように言葉を投げかけ、これもまた過剰な演出のように敬吾は人差し指を立てる。
次にはその指先を久方ぶりに天を仰いでいる逸のそこにとんと置いた。
「っ!」
「勃ててやったのは誰だ?」
「へ………っ」
「勃たなかったんだろ?それをこんなに立派にしてやったのは誰だろうなー」
「え、それは、敬吾さんですけどーー」
てん、てんと指先で小さく叩かれて、逸はきつく顔をしかめながらも切れ切れに答えた。
敬吾は満足そうに笑うが、やはり暴君よろしく悪どい笑みである。
「なら自由にする権利は俺にあるんじゃねーの」
「ーーーーーーー」
ーーー少々暴論に過ぎるのではないだろうか。
思いながらも逆らうことが出来ず、逸は諦めて小さくハイと言った。
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