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断案と緩衝 2
しおりを挟む「……なんだよ、すげえ色々考えて……めちゃくちゃ気合い入れて言ったのに。意味ねえ……馬鹿か俺ー……」
ぐたりと落ち込む逸は、いつものようにこれ幸いと敬吾に抱きつくこともない。
どうやら心底嘆いているらしく、敬吾はとりあえずその後頭部を優しく叩いてやった。
「そんなにかよ」
右手で擦り擦り半ば上げられた顔はいやに目が血走っていて、まるで怒ってでもいるようだった。
この男のこんな目を見るのはいつぶりか──
そう思って敬吾が驚いていると逸はぐったりと頷いた。
「そうですよ、だって……簡単な話じゃないでしょ?………」
「………………」
「ただでさえ、男女みたいに結婚しましょうでできるもんじゃないのに敬吾さんはもともとストレートだし。ご両親はお嫁さんだって孫だって楽しみにしてるはずです」
また逸の瞳が伏せられて、敬吾は何も言えず頭を撫でてやる。
「……それを俺は、一生奪うんです。俺が欲しがってるのは敬吾さんだけじゃなくて、家族の中の立場とか、世間からの評価とかそういうのも全部で……」
「…………」
だから、おいそれと口にして良いことではなかった、一生を共にしてくださいなどということは。
それに、言ってしまえばそれが最後の日になる可能性もあった。
黙していれば敬吾の優しさに甘えてずるずると一緒にいられる。
だがやはり、この人には誠実でいなければと──
「──敬吾さん」
「んん」
「……本当にそれでいいの?俺なんかと一緒で後悔しない?………」
真っ直ぐ真摯なくせに頼りなく潤み始める逸の瞳を、敬吾はしばらくただ見つめていた。
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