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10話 決闘後半戦なんだが

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 巨大な魔法陣から現れたのは、幼さの残る顔立ちをした銀髪の少女だった。
 黒いフリフリのゴスロリドレスを身に纏い、縦ロールが風で僅かに揺れる。特に印象的なのは、燃えるような赤い瞳と背中から生えた蝙蝠の翼。その特徴は彼女が魔族であることを表している。

 しかし、挑戦的な表情でカッコよく登場した彼女も、次第にこの異様な空気に気付くと、困惑した表情に変わり、俺の方を向く。

「……妾、何か間違えたかの?」

「……いや、大丈夫な……筈だ」

 おかしい。どうしてみんなはそんな蔑むような目で俺を見ているんだ。
 え? 今って封印された力をついに解放した俺が、最強の切り札であるコイツルナを召喚して、華麗に柿渕を倒す流れだよな?
 なのにどうしてアイネは固まって、柿渕にまで軽蔑した目を向けられてるんだ……?

「……クズだ」

 その時、誰かがポツリと呟いた。

「……最っ低」

「クズだな」

「あれでも男なのか?」

 それを皮切りに、堰を切ったように、みんなが口々に俺を罵倒し始めた。

「ちょ、え、何で!?」

「おい」

「な、何だ?」

 混乱する俺に柿渕が声を掛けてきたので応じる。

「流石に女を賭けた戦いで他の女の力を借りるのは俺でもどうかと思うぞ? それに男同士の戦いでもあるのに二対一って……」

「うぐっ」

 びっくりするくらい正論だった。正論すぎて何も言えない。

「う、うるさいっ! 勝てばいいんだよ勝てば!」

「小物だ」

「小物ね」

「小物だわあれ」

 外野は黙っとけ!

「ルナッ! やってしまえ!」

 実は力を取り戻したお陰で全て傷も治っている。俺が柿渕を倒してもいいのだが、ここまできたら引くわけにはいかないのだ。
 俺が指示を出すと、銀髪赤目の少女――ルナはその慎ましい胸の前で握り拳を作り返事をした。

「大丈夫じゃぞアキト! いくらお主がどうしようもないくらいクズでも妾だけは味方じゃからな!」

 涙が出そうです。

「お、お゛うっ! 頼んだぞルナ」

「分かったのじゃ!」

 威勢のいい返事とともに、ルナが軽く手を振るう。

「――!」

 悲鳴をあげる暇もなく、柿渕は闘技場の壁まで吹き飛ばされ、そのまま壁にめり込んだ。
 勝負にもならなかった。ルナは当然といった様子だ。まあ普通に考えて、戦い始めて一週間の人間が元魔王に勝てるわけはないか。

「殺さなくてよかったかの?」

「ああ――」

「ま、だ、だぁ!」

「「なっ!」」

 だがそこで、柿渕が俺の言葉を遮る。
 俺達が驚いて柿渕の方を見ると、ちょうど壁に手をかけて立ち上がるところだった。
 まさかあの攻撃を受けて立ち上がれるとは……。

「俺は、負けるわけにはいかないんだ!」

 ……なんだろうこの敗北感は。
 ボロボロになりながらも立ち上がる白い衣に金髪と、いかにも勇者然とした姿の男。
 さっきまであんなことを言っていた奴と到底同じ人物とは思えないんだが。

「俺は魔王を倒してちやほやされて、何でも言うことを聞いてくれる奴隷ハーレムを作るんだ!」

 よかった。普通にクズだった。
 みんな見てるのに欲望垂れ流しすぎだろ。

「うわぁ……」

「どっちもクズね」

「どうしようもねえな」

 やめて! あんなのと一緒にしないで!

「あんなのと一緒にするんじゃねえ!」

 お前が言うな。
 それにしても魔王を討伐してちやほやか……。

「ふ、ふっふふふ」

 思わず笑い声が漏れる。側にいたルナまでドン引きしているが気にしない。

「いいね、魔王討伐。今すぐやってやろうじゃないか……」

 この世界の魔王は男と聞いている。
 ……だったらいいよな。

「神槍召喚――グングニル」

 右手に現れたのは黄金の槍。
 俺はそれを振りかぶり――空に向かって投げた。

 直後。

 遠くの方で何かが崩れる音が響く。ここまで音が届くと言うことは、かなりの轟音だっただろう。
 そして、俺の右手には再び槍が瞬間移動で戻ってくる。槍の穂先には、ベットリと赤黒いものが付着していた。

「な、何が……」

「あっ、アキトさん――」

 今の音でアイネが我に返ったようだ。
 【自重】スキルが復活する前にまだやることがあるから急がないと!

「とりあえず召喚されてからの記憶を消して……ついでに精神も少し正しておこう。そんで戻る時間軸を設定して……よし!」

 俺は一瞬で柿渕の意識を刈り取ると、魔法を発動させた。
 柿渕の足元に広がる魔法陣。そして、柿渕の姿が消える。
 それと同時に、俺の体が再び重くなるのを感じた。

「ア、キ、ト、さん?」

 俺の早業に、その場にいた全員が呆気に取られる中、額に怒りマークを浮かべたアイネが詰め寄ってくる。

 やるべき事はやった。たったの数分だったが、思う存分力を振るえたから満足だ。アイネに怒られようとも、後悔はしない。
 俺は自信を持って、アイネのために頑張ったと胸を張って言えるだろう。

 ……でも一応正座はしておくか。
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