元召喚勇者は無双したい ~女神に自重を強制されているんだが~

遊暮

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5話 牢屋と自重スキルなんだが

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 水滴の落ちる音が、この薄暗く狭い部屋にやけに響く。
 ジメジメとした空気を肌で感じつつ、俺はボンヤリと目の前の鉄格子を眺めていた。

「……どうしてこうなった……」

 召喚されたのが一時間前。高笑いして逃げ出そうとしたのが三十分前。そして壁に埋まってたところを魔法で助け出され、その後拘束されてここにぶち込まれたのが十分程前である。

 もう一度言おう。

「どうしてこうなったんだあぁあああああああああ!!」

「うるさいぞ!」

 あ、看守さんすみません。




 怒った看守さんに平謝りし、再び静寂の戻ってきた牢獄内で俺は思わず深いため息を吐いた。

 ちなみに俺の現在の格好は両腕を手錠で壁に開くようにして固定され、吊り上げるような体勢である。上半身の制服はさっき来たむさいオッサンに無残にも剥ぎ取られ、足枷には大きな鉄球付きという徹底ぶり。

 …………拷問の準備は完璧みたいです。

「イヤだあぁあああああああああ!!!!」

「だからうるさいと言ってるだろ!」

 ……すみません。

 さて、そろそろこうなった原因を考えよう。
 今の俺に必要なのは迅速な状況把握なのだ。このままでは本当に打ち首になってしまう。

 とはいえ、もう何となく分かっている。
 拳を振れば世界を砕き、一声上げれば死すら逃げる。歩く最悪、じゃなくて、災厄と言われた俺がこうして捕まっていること自体が、如実に現状を表していると言える。

 試しに手錠に繋がれた鎖を思いっ切り引っ張ってみる。ジャラりと金属同士が擦れ合う音が響くだけで、当然のように千切れる様子は無い。
 体内の魔力を探ってみる。この世界に来て多少は回復しているが、万全には程遠い。何より、魔力を溜める器がかなり小さくなっている気がする。これでは、この魔封じの枷を力技で外すことはできないだろう。

「……はぁ……」

 再びため息吐く。

 この不調の原因を知る方法は――ある。
 それもすっごく簡単に。

 以前俺が召喚された異世界、インスーアには、『ステータス』という概念があった。見れば、ゲームみたいに自分のスキルなどの情報が分かるという異世界モノ定番のシステムだ。
 アイネから聞いた話を信じるならば、このヴァイツにもステータスは存在している。

 ……見るのが少し怖いが、このまま大人しく処刑を待つわけにもいかない。

「……よし、――ステータスオープンッ!」

 別に声に出す必要は無いのだが、これは気分を出すためだ。看守さんが残念な人を見る目で見てくるが、気にしない。
 掛け声と同時に、青い半透明のウィンドウのようなものが俺の目の前に出現した。

----------------------------------------------------------
[名 前]:神宮秋斗
[種 族]:人族?
[スキル]:自重 Lv.5
----------------------------------------------------------

「………………は?」

 これ……だけ?
 俺の努力の結晶である数百種類もあったスキルは?
 というか、ステータスには攻撃力や防御力などの能力値を数値で表されていたし、何よりレベルがあった。
 当然、レベル、全ての能力値ともにカンストしていた俺のステータスが、こんなたかが三行で終わる筈がない。

 そして何より――

「【自重】スキルって何だよ……」

 名前からして、嫌な予感しかしない。
 俺は震える指で、ステータスにある【自重】の文字をタップした。

----------------------------------------------------------
《自重》 Lv.5
全ての能力値が大幅に下がり、全スキルが封印される。
スキルレベルが高くなる程制限は大きくなり、スキルレベルは<慈愛神>アイネの気分によって変動する。
----------------------------------------------------------

「うっそだろおぉおおおおおおおおおおおお!!!!」

 むしろ何もスキルが使えない分一般人より弱くなるじゃないか!
 自由に異世界を満喫しようと思ってたのに……。
 間違いなく女神アイネの仕業だろう。
 今度会ったら絶対にお仕置きしてやる。……このまま死んだら会えるかな。

「おい、いい加減に――こっこれはエルザ様! 失礼しました!」

 看守さんが怒るのを聞き流しながら、俺がアイネにどんな復讐をしてやろうか考えていると、鉄格子の前に複数の人の気配を感じた。
 暗闇の中、ランタンの光に照らされたそこに立っていたのは、微妙な表情の姫様と、同じく困惑した様子の俺以外の召喚者達。
 そして――

「アキトさん……」

 呆れた顔をして俺を見る憎っくき女神の姿だった。
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