人間不信の異世界転移者

遊暮

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憎悪と嫉妬の武闘祭(予選)

69話 祭りをクウと・中編(二日目)

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キリが悪いので三話に分けてます。
次回投稿はできれば一週間以内に……




□ □ □ □ □





「――ましっ……」

 咄嗟に真白を呼ぼうとして、思い出す。

 真白は俺を常に見てはいる反面、クウやリリーには一切の関心を向けていない。現在はレベル上げに勤しんでいるだろう。恐らく呼んでも魔力の無駄遣いになる可能性が高い。

「一人で探すしかないか」

 手掛かりはない。意識を集中させ、【気配察知】を発動させてみるが、感じ取れる範囲にはいない上、人が多いせいか情報量が増えて頭に鈍い痛みを感じた。これでは常に発動することは難しいだろう。

 早く見つけなければ。
 脳裏に以前クウが滅ぼしたブルクサックの街の情景が思い起こされる。迷子ならまだいい。だが誘拐なら最悪だ。なんの拍子でクウが暴走するか分からない。

「しらみ潰しに探すしか……そうだ!」

 後ろめたいことが多過ぎて、思い付くのに時間がかかってしまった。

「子供を探してほしい!」

 俺は出たばかりの詰所へと駆け込んだ。





 △ ▼ △▼ △ ▼ △▼ △ ▼ △▼ △ ▼ △





「こちらです」

 クウが男に連れられてやってきたのは、通りから外れスラム街の近くにあるそれなりに大きな建物の商店だった。

「ここが私の店です。雑貨屋を営んでいまして。どうでしょう? 立地は悪いですが中々に立派だとは思いませんか?」

「すごーい!」

 男が店に入り、その後をクウも小走りで付いていく。男はその姿を見て、ポケットに忍ばせた魔道具で仲間に合図を送った。

 単純な子供を騙して連れてくることなど、奴隷商を営む彼にとっては日常茶飯事だ。自分が騙されたことを知り、絶望の表情を浮かべる者達は、彼の楽しみの一つでもあった。

「色々と珍しいモノがあると思いますよ。そう、例えば」

 ――非合法な奴隷のようなモノでもね

「今だっ!」

 クウが店に入ると同時、左右から大男が飛びかかる。

 醜悪な顔をボサボサに伸ばした髭で覆った、ひと目で分かるであろう犯罪を生活の糧とする荒くれ者達。

 何度も行ったであろう、間違えようのない完璧なタイミング。声を出す暇さえなく、意識を奪って手に持った首輪を付けるだけで仕事は完了する。

 反応できず、自分達を見ようともしない幼い少女を見た男達は、これから起こる未来を確信した……はずだった。

「んー?」

 男達には一瞬、少女の姿が崩れたように見えた。

「――えっ?」

 気が付くと目の前から少女は消え、離れたところで首を傾げている。

「くーにさわるのはだめー、だよ?」

 普通は可愛らしいと思えるような声も、動揺する男達には届かない。彼らは必死に、今目の前で起きたことを理解しようとする。

 抜けるような隙間は無かったのだ。そもそもあの刹那の時において、自分達が対象を見失うなど、到底考えられない。
 その場にいた男達は理解不能なものを前にしたような不気味さに、一歩後ずさりする。

――彼らは裏の仕事を行うゴロツキだったが、ギルドに所属する冒険者でもあった。いや、冒険者として大成できなかったからこそ、ここまで落ちてきた者達だった。

 最近ギルドで見かけるようになった冒険者パーティ、《朱殷の翼》。DランクとEランクで構成されたパーティでありながら、Sランクの魔物をも討伐する力を持ったギルド期待の新鋭。

 しかもメンバーは少年と言っていい黒髪の男に、それと同い年くらいのメイド服を着た少女と戦えるのかも分からぬさらに幼い二人の少女だ。しかも女は全員容姿が整っているときた。

 低ランクで燻る彼らにとって、嫉妬や反感を抱くのは当然の帰結であった。

 だが手出ししようにも、自分達よりも実力があることは重々承知している。

 だからこそ、与し易そうなクウという少女を狙ったのだ。彼らはクウが魔物であることは首から下げた従魔証で知っていたが、主人である少年の扱いを見てマスコットみたいなものだと思っていた。
 見目も良く、稀少な魔物として高値で売れると踏んでいたこともあって、クウを狙うのは自然な流れであったと言える。

 その選択が、破滅をもたらすものだとは知らずに。

「ねー」

 クウが男達に向けて一歩踏み出すと、男達はそれに合わせて一歩下がる。

 彼女に、あのパーティーに手を出してはならなかったのだと男達は理解した。まだ攻撃されたわけではない。にも関わらず、彼らは死を覚悟していた。生物としての本能が逃げろと全力で警鐘を鳴らしていたのだ。

 クウが進み、男達が下がる。

 進む、下がる。進む、下がる。

 進む進む、下がる下がる。

「「?」」

 両者は同時に首を傾げた。一方はいつまでも襲ってこない魔物の少女に対して、もう一方は男達が何をしているのか理解できていない様子で。
 最初に口を開いたのはクウの方だった。

「ごしゅじんさまよろこぶのどこー?」

「え……ああ! はい! 今すぐご用意しますとも!」

 ――襲われたと気付いていない?

 まさか騙され襲われたという現状を分かっていないとは思わず、遅れて奴隷商の男が返事をした。

「では少しここで待っていてくださいね。……ここまでものを知らぬとは、所詮は知能の低い魔物か。くく、これは都合がいいな」

 仲間に手で合図をし、男はクウに聞こえないほど小さな声で呟く。それから一度奥の部屋に行って戻ってくると、その手には鈍く光る重厚な首輪が握られていた。

 奴隷を隷属させるために使用される魔道具の中でも最上級の支配力を持つそれを、男はこの仕事で鍛えた警戒心を抱かないような笑顔で差し出す。背中を一筋の汗が伝い落ちる。

「これ、首に嵌めてみてください」

「わかったー」

 何の疑問も抱かず、クウは手渡されたその首輪を言われるまま首にもっていく。
 「嘘だろ……」「何かここまでだと罪悪感が……」それを見てある意味戦慄した冒険者の男達を、奴隷商の男は睨んで黙らせた。

 カチリと、音が鳴った。

 その瞬間、奴隷商の男の顔が欲望を隠すことなく歪む。

「ふふふふふ、これで我々に逆らうことは不可能! 大金は手に入ったも同然です! ……ではこちらに来てください」

 クウが嵌めた首輪は、ある程度の力を持った魔物でさえも隷属させることができる強力な魔道具だ。主として登録した者の命令に背けば、精神を破壊するような耐え難い痛みを全身にあたえるようになっている。

「はーい」

 その返答に満足そうに頷くと、男は店の奥にある地下への階段を降りた。その後をクウと男の仲間が続く。

 階段を降った先、ぼんやりと小さい光だけがある薄暗い部屋には、多数のが並んでいた。

 檻の中で膝を抱えて座る、痩せ切ったエルフの少女、必死に首輪を外そうとしたのか、首周りに多数の傷跡が見える獣人の男、力なく項垂れる人族の女。
 その他にも多様な種族が例外なくその首に枷を付け、生気を失った目で捕らわれ飼育されていた。

 人間の欲望や悪意が、この世界の闇がそこにはあった。
 奴隷商の男は目に付いた空の檻を指すと、欲望に歪む口元を隠すことなくクウに命令する。

「この檻に入りなさい」

 その言葉に反応して、檻に向けてクウの足が動き出した。
 そして檻の前で、足を止める。

「早く」

 冷たく空虚な檻をクウはじっと見つめた。
 足は命令が聞こえなかったかのように、動くことはない。

 そして一言、彼女は呟いた。

「やだ」
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