人間不信の異世界転移者

遊暮

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憎悪と嫉妬の武闘祭(予選)

75話 蹂躙

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気が付けばこの作品、連載を始めて一年が経っていました。
最初の頃はこのストーリーが受け入れてもらえるのか、と心配だったんですが、予想外に多くの方に読んでいただけてとても感謝しています。
ここのところずっと忙しく亀更新になってしまいがちですが、なんとか更新は続けていくつもりですので、これからも『人間不信の異世界転移者』をよろしくお願い致します!




□ □ □ □ □




 帝国祭の歴史は古い。元々、一つの武闘大会から始まったこの祭りが始まったのははるか昔、まだ魔王が現れるよりも前。あらゆる国々が大陸を支配しようと、覇権を争っていた時代まで遡る。

 己の武を示し、好成績を収めれば国に雇ってもらい、軍人として高い地位が約束されるとあって、各地から人々が集まった。
 戦乱の世だ、重い税によって平民の生活は困窮を極め、一発逆転を夢見て参加する者も多かった。それが国の、真の狙いとも気付かず。

 時に一人の強者は、千の雑兵に勝る。

 それがこの、ステータスという概念が存在する世界においての真理であった。

 命を懸けた戦いにこそ、本当の実力が示される。そう謳った帝国祭は、血を血で洗う、凄惨なものとなった。まるで蠱毒のように、千の命を贄にして、一人の強者を生み出すためのシステム。

 しかしそれは昔の話。
 小競り合いこそあれど、大きな戦争はない比較的平和な今の世界で、そんなことをしても意味は無い。むしろ、税を収める国民が減り、国にとっては損害となるだろう。

 だから明確な規定こそ無いものの、現在では極力、殺すことはタブーであった。
 誰もが、そうであると、暗黙的に考えていた。

 ――この時までは。





 耳を塞ぎたくなるような絶叫が、絶え間なく響く。

 先程まで盛り上がりの様相を見せていた観客席が、今は凍りついたように静まり返っていた。

 観客の目線はたった一人、舞台上で今も剣を振るう少年に注がれる。

「ははっ! 最高だ! ああ! 俺は今、最高に楽しい!」

 あの〈勇者〉と同じ、黒髪黒目を持った少年だった。少年は両の手に持った剣を振るいながら、狂笑の声を上げる。

 少年の攻撃を剣で受け止めようとした男が、剣ごと切り裂かれ、胴が上下に両断される。
 魔法を唱えようとした女が、どこからか飛んできた剣に喉を貫かれ息絶えた。

 少年は踊るように剣を振るい、その度に命が次々と失われていく。剣と共に赤々とした血が舞う。

 誰もが言葉を失っていた。中には知己の者の死を目の当たりにし、泣き崩れる者、耐えきれず嘔吐する者もいた。
 誰も止めようとは思えなかった。畏怖という感情が、その場を支配している。

 また。勇敢に斧を振り上げ、少年に向かっていった男が、風の刃に足を落とされ、直後首を跳ねられて沈む。
 逃げようと背を向けた者もいた。しかし、例外なく背後から心臓を貫かれ死んだ。

 全身を赤く染めながらも、少年は踊り続ける。愉しそうに、自由を叫びながら。

「……ん?」

 やがて血の海の上で、少年は動きを止める。
 少年以外に、動くものは一人としていなくなっていた。


 △ ▼ △▼ △ ▼ △▼ △ ▼ △▼ △ ▼ △


 俺は辺りを見渡し、やり過ぎたと若干反省する。
 あくまでも若干、ではあるが。

 それにしても素晴らしい光景だ。悲痛の声は音楽よりも心地がいい。血を吸って重くなったローブも、不快には感じなかった。

 ああ、やっぱりいいな。人殺し。

 たとえ逃げから始まった行為でも、俺にとっては唯一の趣味であり娯楽だ。
 この世界を楽しむのなら、これが一番だ。それでも、少しやり過ぎた気もするが。

「失格……拘束もあり得るな」

 仕方がない。久しぶりにテンションが上がっちゃったんだからな、うん。
 大会の関係者は……まだ動く気はなさそうだ。というか、ビビって近づいてこない。

「どうしようか」

 その時だった。

「ふはっ、ふはははははははははは!」

 どこからか会場全体に笑い声が木霊する。

「……なんだ?」

 そう呟くと同時に、凄惨な光景に変化が起きた。
 ステージに転がっていた武器や防具、魔道具までが一斉に宙に浮くと、そのままステージの中央へと集まっていったのだ。それらは形を変え、混ざり合う。

 俺は再び剣を構えた。

「いやぁ~、君、怖いねぇー。僕、戦闘は苦手なんだよ」

 声は今も周囲の物を吸収し続ける、正体不明の物体から聞こえた。
 次第にそれは、人の形をとり、鮮やかに色づいてゆく。

 俺はその姿に、どこか見覚えがあることに気づく。

「確かお前は……」

 色取り取りの布が目につく。最後に怪しげな仮面が、どこからか降って物体の顔に当たる部分にくっついた。
 その見た目は、まるで道化師のようだ。
 謎の物体は、一人の人間へと姿を変えていた。

「ああ怖い怖い! これで小さい少女が好きなんて、なんて恐ろしいんだろうねぇ!」

 イラっとした。……違うから!
 この男は確か、祭りをリリーと回っている時に孤児院のエリアにいた人物だ。

「では改めて、自己紹介といこうじゃないか! 僕の名前はブルーノ! しがない孤児院の居候さっ!」

 手を大きく広げ、ふざけた態度で男は名乗る。得体の知れない、不気味な男だ。

 俺は【鑑定】をかけようとし――弾かれたことに警戒を強める。スキルレベル九の【鑑定】が弾かれたということは、より高レベルの【隠蔽】を持っているか、俺の知らないスキルを持っている可能性が高い。

 危険だ。すぐにそう判断した。
 今なら奴は油断している。仕掛けるなら今しかない。

「『ウィンド』」

 判断を下し、【風魔法】で加速した俺はブルーノへと突っ込んだ。
 未知の敵だ。湧き上がる高揚感に、自然と口角が上がる。

「ちょっ、ストップ! ストーップ!」

 気にせず剣を振りかぶる。

「君、このままだと失格だよ!」

 俺はその言葉に、動きを止めた。
 僅か数ミリ、眼前で停止した剣に、男の仮面の奥の顔が引きつっている気がした。

「……どういうことだ?」

「しんぱーん! ジャーッチメント!」

 そう言って俺と自身を交互に指差すブルーノ。しばらくして、何かに気付いた審判が宣言する。

「しょ、勝負ありっ! 本戦に出場する二名が決まりました!」

「うん、無駄な戦いは避けたいからねぇ。隠れてて正解だったよ」

「…………」

 興奮して忘れていたが、各ブロック本戦出場者は二名ずつだった。

「んん~? 納得いかない、って顔だねぇ~」

 水を差された気分だ。というか、声を無視して切りつけていればもしかして――

「倒せた、とでも思ってる?」

 ぞくりと、寒さにも似た感覚が背筋を走る。原因は目の前でニタニタと笑うこいつじゃない。、耳元で囁いた男。見た目も気配も、全く同じ。
 現れるまで、何一つ感じなかった。

 俺は、嗤った。
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