人間不信の異世界転移者

遊暮

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憎悪と嫉妬の武闘祭(予選)

71話 祭りを真白と・前編(三日目)

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またギリギリ間に合いました! 今回は短めです、ごめんなさい。
次回は早めに更新します。

それと少し前にスキル一覧を更新しました。
ネタバレになってしまうので、アレクシス(ギルマス)のスキルは抜いてます。




□ □ □ □ □





「はぁ……」

 思わず、疲労を含む溜息が僅かに開く口の隙間から漏れた。体に異常はないはずだが、どうにも動かすのが億劫に感じてしまう。

 原因は明白だ。帝国祭が始まって今日で三日目。その僅かな間に、俺の精神はゴリゴリ削られていた。初日に不名誉な称号を得て、昨日にはペット――見た目は幼女――がまさかの誘拐。

 無事に保護されたと捜索を依頼した衛兵から聞いた時はホッとしたが、クウを連れてきてくれた冒険者の顔が酷く青ざめていたのを見た時は思わず胃痛でもしてきそうだった。

 案の定、話を聞いてみれば、クウが連れ去られた場所は目を背けたくなるような惨状だったらしい。あまり騒ぎを起こしたくないことを抜きにすれば、俺としてはよくやったと褒めてやりたいくらいではあるのだが。

 その後は冒険者ギルドに立ち寄り、アレクシスに事情を話して後処理は依頼しておいた。今回は犯罪者相手なので一切のお咎めはなし、犯人一味以外に死者がいなかったのが幸いした。

 クウを連れ去った者だが、どうやら違法奴隷を扱う商人だったらしく、これまでも何人もの被害者が出ていたらしい。今回は俺達の冒険者としての活躍に嫉妬した一部の冒険者が情報を流して今回の事件が起きた、というのが事の顛末だ。

 ……俺の楽しむ分も欲しかったなぁ。

 そんなこんなで、全てが片付く頃にはもう日が傾きかけていた。本来ならばその時間には宿に戻る予定だったが、クウにしては珍しく落ち込んでいるようだったので、真白に遅くなることを伝えてそのままデート? を続行した。
 今回の事件は俺の責任でもあるからだ。クウの強さを過信して、幼い精神面などを全く考慮していなかったのだから。だからそのお詫びということでもあった。

 夜は昼間とは違った出店も多く出ていたようで、すぐにクウもいつもの笑顔をに戻ってくれた。あの笑顔を曇らせるわけにはいかないのだ、絶対に。

 疲れてはいるが、動けないというわけではない。この疲労は主に精神的なもの。気を取り直すように、俺は小さく呟く。

「よし」

 そして今日。いよいよデートも最終日だ。
 どうして俺が幼い少女二人を含む三人とデートなんてものをしなくてはならないのか……原因となったリリーには一言言ってやりたいが、普段はみんなと二人だけで過ごすことも無かったので悪くはないと少しは思う。決して言葉には出さないが。

 それに今日のパートナーは真白だ。そう、あの完全無欠なメイド人形の真白さんである。
 何という安心感。トラブルなんて起きる気がしない。

 むしろ、宿に残すことになるリリーとクウの二人の方が心配なくらいだ。一応、祭りで買ったお菓子やオモチャがあるのでクウは大人しくいてくれるだろう。俺の言いつけはしっかりと守ってくれるしな。

「リリー、お前にはクウを頼む。……何も余計なことはするんじゃないぞ?」

「りょーかいです!」

 額に手を当て、ビシッと敬礼したリリーの頭を撫でる。さり気なくケモ耳の素晴らしさを再確認。モフモフで精神を癒すのだ。

「一応聞くが、今日のリリーの予定は?」

「錬金術の勉強をするです。クウちゃんには味見をお願いするです」

「それ、味見というかただの実験体じゃないだろうな……」

「効果は薄めるですし、ちゃんと食べれる物に加工はするです」

 クウなら各種耐性もあるし、食べ物なら喜んで食べるか。
 俺はもう二度と口にしないと誓ったけど。

「帰るのは朝になると思うから、食事は宿の人から貰ってくれ。じゃ、行くぞ真白」

「いってらっしゃいです!」

「ごしゅじんさまいってらっしゃーい!」

 朝から元気な子供二人に見送られ、俺は真白を連れて宿を出た。
 ちなみに帰るのが朝になるという意味だが……リリーは分かっていそうな気がしなくもない。

 そうしてしばらく歩きながら、俺は考えていた。

 内容は勿論、これから始まる真白とのデートのことだ。
 正直なところ、どうすればいいのか全く分からない。行きたいところを聞いても『マスターの向かう場所が私の向かう場所です』としか言わないし、元の世界でデートなんて経験があるはずもない俺に、真白が望むものを察しろというのが――

「マスター?」

 突然立ち止まった俺の耳に、真白が声が響く。

「……違う」

 そう、違う。この考えは
 なぜ俺が真白の望むものを考えなくてはならない。コイツはただの……アイテムだろう。
 俺のために存在し、俺に全てを捧げる心のない人形。

「…………」

 ふと、あるアイデアが浮かぶ。
 聞いた話によれば通常、ダンジョンから発掘される自動人形オートマタは人間と変わらぬ感情を見せるという。
 だが、真白が感情を露わにするのは夜くらいなもので、普段は無感情無表情がデフォルトとなっている。

 果たしてそれは、そういう風に設計されたからなのか、それとも――俺がそう望んでいるからなのか。

「真白」

 名前を呼び、鮮やかな緋色を宿す瞳を見た。

「はい」

「命令だ。今日一日、普通のこい……友人のように振舞ってくれ」

 これは興味だ。もしも真白が普通の人間であったならば、俺はどうするのか、何を感じるのか。
 せっかくの祭りなんだ。こんな楽しみ方をするのもいいだろう。
 俺の命令に、真白は僅かに逡巡した様子をしてから返答する。

「……かしこまりました」

 その声には、何か強い感情が込められている気がした。









「……恋人ではなくてよろしいのですか?」

「……よろしいです」

 人形を恋人の代わりにするのはロリコンより業が深そうだった。
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